本当に「望まない妊娠」を防ぎたいなら…

—— 緊急避妊薬の市販化が報じられた際は、産婦人科医からも「性教育が十分でないから安易な緊急避妊薬の使用を助長する」「性感染症が増える」などの慎重論が聞かれました。

 

遠見さん:

それは間違った思い込みではないでしょうか。十分な性教育が行われてこなかったのは事実ですが、緊急避妊薬は万が一の際に使う薬。日頃の避妊法の代わり、コンドームの代わりに使うものではありません。そもそも、表面的な理由や態度から他者の性交渉を「安易な」とジャッジする役割は、医師であっても持っていないと私は考えます。

 

性交渉に関するトラブルを防ぐには、緊急避妊薬へのアクセスを改善するとともに、女性主体の効果的な避妊法である低用量ピルや子宮内避妊具の価格を下げ、もっと手に入りやすくすることが重要でしょう。性感染症予防については、コンドームの使用、性感染症の検査や治療についてより広く周知することも必要です。

 

「性暴力被害者が警察や産婦人科に相談できなくなるのでは?」という意見もありますが、現時点で、性暴力被害女性のうち警察へ相談した人は2.8%、医療機関へ相談した人は2.1%。現在、緊急避妊薬を入手するには、産婦人科などを受診し、自費で1〜2万円を支払う必要があります。市販化すれば、女性が迅速に安心して緊急避妊薬を入手できる選択肢が広がり、望まない妊娠を防ぐことにつながるのです。販売時に、リーフレットなどで適切な情報を提供することもできるでしょう。

 

緊急避妊薬は世界90カ国以上で市販化されている

—— 世界では、緊急避妊薬はどのぐらい市販化されているのですか?

 

遠見さん:

世界では約90カ国で、主に薬局で緊急避妊薬を安価に入手できます。WHO(世界保健機関)では、緊急避妊薬を大多数のヘルスケア上のニーズがあり、誰しもが入手できる価格であるべき「必須医薬品」に指定しています。

 

WHOは、意図しない妊娠のリスクを抱えたすべての女性には、緊急避妊にアクセスする権利があり、国は緊急避妊の複数の手段を社会システムとして常に用意しなければならないと勧告。緊急避妊薬は医学的管理下に置く必要はない、と提言しています。海外では、20年以上前から緊急避妊薬は薬局で安く販売され、女性の健康を守るための当然の選択肢として存在します。日本は20年以上、こうした状況から外れてきたのです。

 

—— なぜなのでしょう。

 

遠見さん:

2017年に市販化が見送られたときは、「性教育の遅れ」や「使用者(女性)のリテラシー不足」「安易な販売、悪用、濫用の懸念」などが理由に挙げられました

 

国として性教育を推進していないにも関わらず、女性のリテラシーなどに問題を矮小化したうえ、悪用や濫用といったネガティブな視点を強く主張して、女性の健康を守る薬を手に入れやすくすることが認められてこなかったのです。

 

いま世界では、「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康と権利)」が重要視されています。これは、性や子どもを産むことに関してはどんな場面でも本人の意思が尊重され、自分の体については自分自身で決める権利があるということ。女性の権利を守るという視点で、この議論が深まっていくことを願っています。

 

PROFILE 遠見才希子(えんみ・さきこ)さん

筑波大学大学院社会精神保健学分野博士課程/産婦人科専門医。1984年、神奈川県生まれ。2011年聖マリアンナ医科大学医学部医学科卒業。全国700カ所以上の中学校や高校で性教育の講演活動を行う。著書に『ひとりじゃない』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。

 

取材・文/有馬ゆえ