やればできる自分に出会えた

──中学受験を通して息子さんにもたらされた一番の変化はなんですか?

 

細川さん:

自己肯定感を持つようになったことです。それまで、「僕はネガティブキャラだから」と言っていましたし、勉強もできないと思っていたようです。自分自身の評価が低かったんです。その他大勢のひとりで、周囲の評価も低いだろうなと。

 

でも、受験を通して、自分は変わっているかもしれないけれど、やればできるんだ。できないこともやってみればできるんだ、と自分自身を認めてあげられるようになりました。

 

──それは将来につながる、大きな成果ですね。いま中学校は楽しく通っていらっしゃいますか?

 

細川さん:

はい。体育祭に組体操もないし、やりたい競技だけ参加してくださいという自由な校風なので(笑)。第一志望の学校は合格できなかったのですが、後期日程で受かった学校の特進コースもその後受験して合格し、入学しました。自分の力で合格できたという自信がついて、いまも勉強に積極的に取り組んでいます。

 

──最後に、これから受験を控えている、あるいは受験をしようか検討している方々にメッセージをお願いします。

 

細川さん:

受験に限らずですが、子どもが何かやってみたいと言ってきたら、まずはやらせてあげる方向で考えられたらいいなと思います。

 

私たちは、中学受験したいと言われたとき、まず金銭的な負担を心配しました。結果的に祖父母に協力をお願いしてクリアできましたが。周囲に助けを求めたら何とかなるかもしれないので、叶えられる手立てを考える方向にもっていければいいですよね。

 

あと、おそらく中学受験は、親が子どもに深く関われる最後のチャンスかなと思います。中学に入ったあとは、いろんなことを自分自身で乗り越えていくと思うんです。中学受験に取り組むと親の生活リズムもすごく変わりますが、期間限定の経験、親子の協同作業だと思って進んでほしいと思います。


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中学受験は親の協力も多分に必要です。細川貂々さんのお話を聞いて、信じあえる親子関係が構築でき、子ども自身が「精一杯やった」と思えたその先には、合否に関わらず、心の成長した姿が見えるのだなと思いました。

 

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PROFILE 細川貂々(ほそかわ・てんてん)さん

1969年生まれ。漫画家・イラストレーター。1996年、集英社『ぶ~けDX』にてデビュー。パートナーの闘病を描いたコミックエッセイ『ツレがうつになりまして。』『イグアナの嫁』シリーズ(幻冬舎)は映画化、ドラマ化もされた。偏差値28、合格率0%から息子の中学受験に挑んだ『なぜか突然、中学受験』(創元社)が2020年7月発刊。最新刊は『もろくて、不確かな、「素の自分」の扱い方』2020年9月刊(幻冬舎)。

 

取材・文/笠原美律 撮影/東郷憲志