「仕事に家事に育児に、毎日とにかくいっぱいいっぱい… これってもしかして日本だけ?」

 

共働きがメジャーになってきたのがここ10年ほどの日本と比べて、女性がもっと働きやすい環境を手にしている国はあるのでしょうか?

 

女性の就業率が80%を超える高い水準を維持しながら、少子化対策にある程度成功したフランス社会。その産休・育休後の復帰の流れを紹介した前回記事「

50年前から女性活躍を推進できたフランス社会の空気

」に続き、今回は働くママの実態について紹介します。

 

フランスのお母さんはどんな働き方をしているか、日常をのぞいてみましょう。

4人の子供をもつパリ在住のお母さんに聞いてみました

大変だけれどこんな期間は一瞬。「時短勤務で子どもとの時間を増やしたかった」(アニエスさん)

 

インスタグラムやブログなどが評価され、フランス育児クラスタの2020年インフルエンサーベスト10に選ばれたアニエスさんは、パリに住む、4人の子どものお母さん。

 

デザイン会社の広報として、週4日の時短勤務をこなす毎日。フランスでは典型的な育児中の女性の勤務パターンです。水曜は会社こそお休みですが、朝からまとめて料理をしたり、食材の買い出しに行ったり、子どもの習いごとや通院に付き添ったりと、会社に行く日よりも忙しいくらいに家事をこなしているそう。

 

今の働き方に満足している?

「上の2人を産んだあとは、どちらも6か月でフルタイムに戻ったんです。でも末っ子の双子たちが2歳になったころ、もう少し子どもと過ごす時間が欲しくなって、水曜を休みにしました。週の真ん中で1日ひと息つけると、家庭と仕事のバランスもとりやすくて、働き方を変えてよかったなと思っています」(アニエスさん)

 

そのほかの平日は、朝8時に子どもたちを学校へ送り、9時から仕事。18時にオフィスを出ますが、ご主人とアニエスさんの、早く到着できるほうが、子どもを学童保育に迎えに行きます。

 

家に着いたら、どちらかが夕食の準備、もう1人が子どもたちをお風呂へ。そのあと子どもたちの宿題を見たら、20時前に夕食を食べさせ、21時には寝かせて、そのあとようやく夫婦で夕食にありつける…という具合です。

 

パパの家事参加率がとても高い!

日本もフランスも、子どもがいる共働き家庭の夕方から夜の慌ただしさは変わりませんね。ただフランスの場合、男性も家事や育児に参加している度合いが高い印象はあります。基本的に、「手伝う」ではなく「参加する」スタンスなんですね。

 

普段の掃除などは、朝と夜に一回ずつ、簡単に済ませているそう。汚れを放置してたまってしまうとあとが大変なので、片付けと簡単な掃除は毎日の日課に。そして最強の助っ人が、週に1回、隅々まで掃除をしてくれる家政婦さんなのだそうです。的をしぼった家事のアウトソーシングは、どんな頑張りよりも強力です。

 

「フランスにも、大きな企業では子育て支援の施策をやっているところはあるけれど、多くの人が働いている規模の小さい企業では、そのような恩恵はほとんど受けられません。待機児童の問題もあるけれど、やはり働く母親に最適なのは、在宅勤務の可能性を広げることなんじゃないかなと思っています」(アニエスさん)

 

一番上の13歳の長女と。下のきょうだいのめんどうをよくみてくれる、頼もしい存在。

 

 

フランスの、産休から職場復帰、そして子どもを育てながらの時短勤務の流れを見てみましたが、復帰が早いこと、時短勤務者が多いことなどが、日本との違いでしょうか。

 

お話を伺ったアニエスさんのブログ(https://quatreenfants.com/)には、そんな仕事の悩みなども吐露されていて、とても身近に感じます。画像を見るだけでも彼女の頑張りが見えて来て、同じ働く母として励まされる面も。

 

「頑張ってるアピール」なんてもうやめたらいい

意外かもしれませんが、アニエスさんは、フランスに根付いている「頑張っているアピール」文化をなくすことも大事なことなのではないか、と言います。「こんなに頑張って、こんなに働いているのよ!」というアピールをしなくても良くなれば、みんながラクになるのに…と。このあたりは日本でも似た部分があるのではないでしょうか?

 

忙しい毎日、少々無理をして頑張っているのは日本のママもフランスのママも同じ。違うのは、ちょっとぐらい手を抜いていいか、というラテン系民族ならではの楽観的な考え方と、パパの家事への参加度の高さと言えそうです。


普段の食事は冷凍ピザをドーン!と食卓に出すだけでOKとしていたり、子どもを預けて息抜きしたりと、力の抜き方は上手。日本人だったら、こんなのでいいのかなと反省してしまうところですが、いわゆる“手抜き”をしても気に病まず、堂々としているところはさすがだなと思います。

 

「罪悪感を持たない」ことの大切さ

アニエスさんも心掛けているこの「罪悪感を持たない」という考え方。これは多くのフランス人に共通する部分かもしれません。

 

「ちゃんとした家があって、ごはんを食べさせ、いっしょに遊んだり勉強したりしながら子どもを見守る。これができれば親としてはパーフェクトなのではないでしょうか?完璧を求め過ぎない、そしてそのことに罪悪感を持たないことが、親も子も幸せでいられる鍵じゃないかな」。これが4人の子どもを育てつつ仕事もこなすアニエスさんがたどり着いた心境だそう。

 

小さな子をもつワーママに過度な反省はいらない

フランス語を学ぶ人の間で冗談まじりでよく言われることに「フランス語には’反省’という意味の言葉がない」というのがあります。似た意味にとれる言葉はあるのですが、やはり日本語の「反省する」という意味にしっくりくるフランス語が見当たらないのです。それでは、フランス人は我が身を振り返って反省するということがないのか?というと、哲学が好きなお国柄ですし、そんなことはないはず。でも、ことワーママの割りきりの良さは見ていて気持ちいいほどです。

 

わが身を振り返って、より高いレベルを目指すことを否定するわけではありません。でも、日本人の一般的な性格傾向としてある“内省的な面”を、仕事と小さな子の育児で多忙を極める数年間だけでも、横へおいておくのもアリではないでしょうか。「今週は料理の手抜きばかりだった」などと自分を責めるのをやめて、アニエスさんのような考え方を真似できると、気持ちが少しラクになるかもしれません。

 

取材・文/伊波裕子