35度以上の猛暑日が続いた今年の夏。食欲が低下したり、だるさや体の冷えを感じたりと、9月に入っても夏バテが続いている方が多いのでは?

 

特に今年はコロナによる「外出自粛」の影響で、暑さに体が慣れる前に夏を迎え、例年よりも夏バテになりやすい状況と言われています。

 

そこで注目したいのが「漢方の食養生」。週1回、夏バテに効果的な食材を食べるだけで体質が改善するのだとか。『体が整う水曜日の漢方』(大和書房)の著者である漢方医の工藤あきさんに、夏バテ防止に役立つ漢方の食養生についてお聞きしました。

 

Profile 工藤あきさん

福岡県みやま市の工藤内科副院長。漢方医。消化器内科医として腸内細菌・腸内フローラに精通しており、美腸・美肌評論家としても活躍。その美肌から「むき卵肌ドクター」の愛称で親しまれている。ダイエット外来医師である夫・工藤孝文さんとのテレビ出演をはじめ、各種メディアに引っ張りだこ。プライベートでは2児の母でもある。

 

スーパーで売っている食材でも“食養生”はできる

——「漢方」というと手間がかかって大変、難しいというイメージがありますが、本当に気軽に取り入れることはできるのでしょうか?

 

工藤さん:

はい、誰でもすぐに取り入れられると思います。漢方には健やかに暮らせるよう、日々の生活のなかで工夫する「養生」という思想があります。なかでも重視されているのが「食養生」。健康な体をつくるために、体によりいいものを食べようという考え方です。

 

そう考えるのは、私たちが普段食べている食材には、漢方薬の原料となる生薬と同じようにさまざまな薬効や薬能が備わっているからなんです。その中にはスーパーで手に入る身近な食材もたくさんあります。ですから、いつもの生活でちょっと気をつけて取り入れるだけで、自然に漢方の健康法を実践できるはずですよ。

 

——手軽に栄養素を摂れるサプリメントもありますが、なぜ、「漢⽅の⾷養⽣」がおすすめなのでしょうか?

 

工藤さん:

夏バテが「なんとなく不調」の症状だからです。そもそも、夏バテには医学的な定義がなく、全身の疲労感や倦怠感、体の冷え、イライラ、食欲不振、ふらつきなど、夏場の体調不良全般のことを指します。そんな症状の改善に効果的なのが「漢⽅の⾷養⽣」なんです。

 

サプリメントは確かに手軽ですが、ダイエット、美容、疲労回復など、一部の効果に偏ってしまうので、“なんとなく不調”な症状への対応は苦手。いっぽう、漢方の食養生を続けると症状や体質がゆるやかに変わり、自然治癒力が活性化されます。全体的にちょっとずつ効くので、“なんとなく不調”を改善することができるんです。

 

——ご著書では、「まずは週1回、疲れがたまり始める水曜日に食養⽣を取り⼊れてみて」と提案されていますが、たった週1回でいいんですね。

 

工藤さん:

そうなんです。頑張りすぎるとストレスになることもあるので。それに、習慣を変えることはけっこう大変です。まずは気楽に週1回から、思い出したときに実践してほしいです。外食したときやお惣菜を買ったときに、という感じでいいので、無理のない範囲でスタートしてくださいね。

 

週1で続けた場合、効果はゆるやかに出てくるので、少なくとも1〜2月は続けるのがおすすめです。そのうち、どの食材がどういう効果を持つのか覚え、使い慣れてくると思います。養⽣⾷の頻度を少しずつ増やせば、効果はその分早く現れます。

 

今すぐとりたい!長引く残暑疲れに効く食材5つ

——コロナ禍ということもあり、長引く夏バテ防止や、免疫力アップに効果的な食材と、それぞれの食べ方のポイントについて教えてください。

 

工藤さん:

夏バテと言っても症状はさまざまなので、下記の食材の中から症状に合ったものを選んでくださいね。

 

【体が冷えたら「しょうが」】

  • こんな症状に:冷たい飲み物や食べ物の摂りすぎ、過度な空調で体が冷えていると感じる場合。
  • 期待できる効果:血のめぐりをよくして体を温め、免疫力を高める作用があります。
  • 食べ方のポイント:生より乾燥したしょうがのほうが保温効果が高まるので、パウダーがおすすめです。できたての味噌汁や鍋、お茶などのあたたかいものに、味を損なわない程度にたっぷり入れて。もちろん、生のしょうがを使ってもOK。手軽に使えるチューブ状も生のしょうがと効果はほぼ同じです。

 

【汗をたくさんかいたら「ズッキーニ」】 

  • こんな症状に:汗を多くかき、疲れがたまっている場合。
  • 効果:ミネラルやビタミン類が豊富。汗をかくことで水分と一緒に排出されたミネラルやビタミン類を補い、体の調子を整えてくれます。また、下半身のむくみなど余分な水分を排出。汗をかいて水分が不足しているときには水分保持に働きます。強力な抗酸化作用もあるので、疲労の原因となる活性酸素を取り除いてくれます。
  • 食べ方のポイント:胃腸の弱い人は冷えてしまうので、食べる量は少なめにするとよいでしょう。冷えた料理でも温かい料理でも効果は変わらないので、好みの食べ方で。

 

【体がだるい時は「しいたけ」】

  • こんな症状に:いつも体がだるい、しんどい。漢方的には「気虚」状態(エネルギーが不足しており倦怠感を感じる。胃腸が弱く、免疫力も低下)の場合。
  • 期待できる効果:気(目に見えない活動や生命活動のベースとなるエネルギー)を補う作用に優れ、体力や免疫力を上げる効能があります。
  • 食べ方のポイント:効果が出やすいのは生より干ししいたけ。戻し汁と一緒に食べるのがおすすめです。胃が弱っているので胃に負担がかからないよう、温かくして食べてください。たくさん食べすぎると腹痛や下痢、お腹が張る原因になるので注意して。

 

【食欲がない時は「やまいも」】

  • こんな症状に:食欲不振、胃もたれなど胃の調子が悪い、体の疲れが気になる。
  • 期待できる効果:胃の機能を整え、気を補う作用に優れているため、体力・免疫低下に効果的です。また、滋養強壮の効果もあります。
  • 食べ方のポイント:食欲不振、胃もたれなど胃の調子が悪いときは、生で食べると効果が出やすいです。とろろや刻んで酢の物にすると食べやすいですよ。体の疲れが気になる場合は加熱調理を。すりおろして鍋に入れたり、刻んでスープの具にしてみてください。

 

【水分をとりすぎた時は「納豆」】 

  • こんな症状に:水分の摂りすぎでむくみがち。いつも体がだるい、しんどい。食欲不振、胃もたれなど胃の調子が悪い。
  • 期待できる効果:納豆の原料である大豆はおなかの調子を整え、気や血を補う作用があるため、免疫増強作用が期待できます。余分な水分を排出する作用もあります。納豆に含まれる納豆菌には、腸の上皮細胞(腸管バリア細胞)を活性化させ、免疫向上作用があるという報告も。さらに、発酵過程において納豆菌が生産する酵素、ナットウキナーゼには血の巡りをよくする働きもあります。まさに夏バテの症状全般に効果が期待できる万能食材です。
  • 食べ方のポイント:ナットウキナーゼは50度で不活化してしまうので、加熱せずに生のまま食べるのがおすすめ。量は1日1パック食べれば十分です。

 

工藤さんの最近のヘビロテレシピは「トマトとさば缶の鍋」

——食養生をおこなう際、気をつけるべきことはありますか?

 

工藤さん:

基本的なことですが、食事と食事の間隔をしっかり空けて、空腹時を確保するようにしてください。

 

空腹時(強い空腹感があってお腹がグーッと鳴る状態)になると、胃からグレリンというホルモン物質が分泌され、細胞内のミコドンリアが活性化します。ミコドンリアは生きるためのエネルギーを生産する大切な物質。元気で健康な体をつくるには、空腹時間をつくることが必要なのです。

 

また、冷たすぎる、熱すぎる、食べすぎる、早食いすると消化に負担がかかり不調の原因になるので、避けるようにしてくださいね。

 

——工藤さんご自身も働きながら、小さなお子さん2人の育児に家事に大変だと思います。ご自身の食事作りはどうされていますか。手軽に作れるおすすめメニューがあったら教えてください。

 

工藤さん:

まだ子どもが小さいので、あまり食事作りに手間ひまはかけられないんですよね。私がよく作っているのは「トマトとさば缶の鍋」です。夏野菜のトマトは、体の余分な熱を取り除いてくれるし、食欲不振や胃もたれを改善する効果もあります。

 

作り方は、鍋にひと口大に切ったトマトと玉ねぎ、汁ごとのさばの水煮、トマトジュース(無塩、無添加)を入れて塩、こしょうで味つけします。中火で78分煮て、好みでオリーブオイルをかけたら完成。

 

さば缶は汁ごと使います。味つけは塩、こしょうだけでいいので、パパッと作れますよ。わが家の子どもたちは生のトマトが苦手ですが、この鍋ならモリモリ食べてくれるので助かっています。

 

 

——長引く夏バテに効く食材はどれも、身近で購入できるのばかりで、調理法も簡単。これなら無理せず続けられそうですね。次回は美肌を保つための食養生についてお伺いします。

 

 

取材・文/小松﨑裕夏 イラスト/みやぎちか