「ごはんと旅は人をつなぐ。」をテーマに、おいしいごはんや素敵な旅を通じて、人と人を繋ぐ。そんな活動をしている料理家・ダーダこと山田英季さんによる、連載エッセイ。
山田さんが「とにかく、今これが食べたい気分」な美味しいレシピを、作っているときの熱量も一緒にお届けします。
#01「電子レンジって便利ね。鶏のゆずこしょうそうめん」
「ミーンミンミンミン、ミーンミンミッミーンミ」 窓の向こうでリズム感の無いセミさんが何か言っている。
僕は心の中で、「そうでなくても暑くて不快なんだから、その歯切れの悪い鳴き声は、なんとかならんのかい?」と呟いた。
歳を重ねるたびにじめっと暑さが辛くなる。
少年の頃は、汗をかいても特段不快に思ったことはなかったし、 雲がかかっても太陽は憎らしいほどエネルギッシュに陽を送ってくれることで、 「遅くまで遊べて嬉しい」と思っていた。
そんな少年の心は、いつどこで捨ててしまったのか。
夏のお出かけでは日陰をこよなく愛し、すぐにクーラーのある場所で休憩をする始末。
そんな38歳男性。 僕は、料理家である。
さて、夏にガスコンロ前に立つのは仕事とはいえ、出来る限り避けたいのが本音。 できることなら、クーラーが適度に風を送るソファに腰掛け、カルピスでも飲んでダラダラ過ごしたい。
しかし、空腹は待ってくれないので、今日もごはんを作ります。(いやいや、少しぐらい待てよ)
夏の昼食は、だいたい6割が冷たい麺になる。 しかも、麺の茹で時間は、短ければ短いほど暑くなくて良い。 ということで、「そうめん」に決まりである。
本日は、「鶏のゆずこしょうそうめん」です。 いざ、クッキング。
まずは切り物から、きゅうりは、少し歯応えを残した方が美味しいので、太めのせん切りにする。しょうがは、細めのせん切りにする。
鶏肉は白くて固そうな太い筋をとった方が口当たりがいいけど、面倒なので省略。そのまま1㎝幅に切る。
続いて、「しょうゆ、砂糖、酒、ゆずこしょう」を耐熱ボウルに入れて、スプーンで混ぜる。この辺はどうせ、加熱するので雑で良い。
“たれ”ができたら、そこに「鶏肉としょうが」を入れて、ラップをかけたら、600Wの“電子レンジ”で6分加熱するのだ。
鍋やフライパンが1つ減るだけで、こんなにも気が楽になるなんて。
そして僕はまた、心の中で呟く「君のポテンシャルを引き出せていなかったこと気づいたよ。温めるだけのものと決めつけて、信用もせずにいた自分が恥ずかしいんだ。“電子レンジさん”ごめんなさい。」
立派な調理道具だからもっと使っていこうと思います。(陳謝)
そんな問答をしているうちに、加熱が終わった。
ラップをはがすと、暑い湯気が抜けると同時に、しょうゆの甘辛い香りが、鼻の前を通っていく。
この時点で成功を確信し、僕の胃袋は小さくガッツポーズした。
僕の右腕はそうめんを掴み、準備万端の鍋へと放り込む。
菜箸で麺をかき混ぜながら、視線は鶏肉に釘付けとなっている。 次の瞬間、「ピピピピッ」タイマーがなった。
我に返った僕は、すぐさま流水にそうめんを晒す。 そして、「冷たい麺は、冷たければ冷たいほど美味しい」という自分の哲学のもと氷を入れる。
少々大げさだが、手の感覚がなくなるぐらいまで、かき混ぜながら冷やしていく。
30秒後、ざるに麺を軽く押さえつけながら水けをギュッと切る。 器にそうめんを入れて鶏肉を重ねて盛り付ける。
きゅうりとごまを振ってめんつゆをかける。 こうして、時は満ちた。
“鶏肉、きゅうり、そうめん”をバランスよく箸で持ち上げ、勢いよく口の中へとすする。 鶏肉の旨み、そうめんの喉越し、ゆずこしょうの爽やかさ。
8月の台所三箇条
- 火は最小限
- 電子レンジをたくさん使おう
- 冷たい麺は、手が凍るほど冷たくしよう
これを守って、この夏も美味しいものを食べようと思います。
「鶏のゆずこしょう素麺」レシピ
本日の材料 ふたり分 (調理時間:15分)
そうめん…………3束
鶏もも肉………1/2枚
きゅうり…………1/2本
しょうが…………5g
A|しょうゆ・酒……各大さじ2
A|砂糖………………大さじ1
A|ゆずこしょう……小さじ1/2
めんつゆ…………適量
白いりごま………………大さじ1/2
作り方
①しょうがは、皮をむいてせん切りにする。きゅうりは、太めのせん切りにする。鶏もも肉は1㎝幅に切る。
②耐熱ボウルにAを入れて、混ぜる。
③②にとりもも肉としょうがを入れてあえ、ラップをして、600Wの電子レンジで6分加熱する。
④ラップをはずして、箸であえる。
⑤そうめんを茹でて、氷水でしっかりと冷やし、水けをきる。
⑥器に、そうめん、めんつゆ、鶏もも肉、きゅうり、白ごまの順に盛り付ける。
写真・文/山田英季 取材/松崎愛香