「不登校」ということばは多くの人が知っていると思いますが、「保健室登校」というとちょっと聞き慣れない人もいるのではないでしょうか。
学校でのトラブルやいじめ、過去のそれらの体験、体調や精神的な不安などが原因で教室に入るのが怖い子や、学校に行けなかった子がいきなり教室に入る前のクッションとして、保健室で過ごし、本人が教室に行ける・行きたいというタイミングを待つ方式を「保健室登校」として選択できるようにする学校が増えています。
今回はおもに小学校での保健室登校について解説。今後の課題や、親としてできることを考えてみました。
「保健室登校」とは?
小学校や中学校では昔から、体や心に不安を抱える子どもが保健室に行き、不安や緊張からしばし身を守る…という姿はよく見られていました。
ただ「学校には何とか来られるが教室に入れない」という段階の子を受け入れる場所として明確に定義し、学校と親が連携して保健室登校を続ける形がとられはじめたのは1997年頃からとされています。
現在、保健室以外にも校長室・図書室・カウンセリングルームなどを使った別室登校が行われています。
2016年の全国調査では、約1/3の小学校で保健室登校が実施されており、平均で年に2人が保健室登校していると報告されています。
保健室登校するようになった学年は、もっとも多いのが5年生、次が6年生と、思春期に入る高学年で増える傾向があります。
年間では、夏休みが終わり2学期の始まる9月に保健室登校をスタートさせた子が突出して多くなっています。
1年以内に教室に戻った子は44%と約半数。
しかし、保健室登校がなければそもそも登校ができなかったかもしれず、教室に戻れた人数はもっと少なくなるのではないかと見られています。
保健室登校をしている子どもの心理とメリット
教室に入れない子どもの状況や心理はさまざまですが、ほとんどすべての子は「学校に行こうとしているのに行けない」ことで苦しんでいます。
実際にいじめやトラブルが起こっている場合はもちろんのこと、教室に入ろうとすると過去の記憶がよみがえってしまうといった精神的不安・恐怖からくるものもあれば、「トイレに行きたいと言い出せず、おもらしが不安」といったものもあります。
また、自覚している・いないに関わらず、LGBTであることで集団行動に苦痛を感じている子もいます。
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そのほかにも、「人いちばい敏感」といわれる「HSC(Highly Sensitive Child)」の子では、教室の騒ぎ声や他の子が先生に大声で叱られるところ、ケンカなど、マイナスの感情に囲まれていると心身の調子が悪くなってしまい、教室にいられなくなることもあります。
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保健室登校や別室登校のメリットには以下のようなものがあると言われています。
- 完全な欠席ではなく出席日数としてカウントされるため、「今後自分はどうなってしまうんだろう」という不安が軽減される
- クラスメイトのいない保健室なら足を踏み入れやすい
- 「学校に来られない自分」という否定的な自己イメージが軽減される
- 「いざとなったら保健室へ」という安心感があれば、教室に入ってみようと思える
- 給食や書類を届ける時などに、先生や友達とコミュニケーションが取れる
- 親が仕事に行けるので、経済的不安が軽減される
保健室登校の課題
教室に入れない子にとって救いともなる「保健室登校」ですが、そこには課題もいくつかあります。
学校によっては時間制限がある
そもそも「保健室登校」という定義のない学校では、子どもは体調不良という理由で保健室に来る形になります。
ただ、ベッドの数に限りがあることなどから「利用時間は2時間まで。それを超えれば回復して教室に戻るか、下校して受診すること」と決められている学校もあります。
こういった場合、子どもにとっては時間が気になりプレッシャーを感じながら過ごすことになりますし、ストレス性の頭痛・腹痛などで保健室で様子をみている子は、本人の体調や気持ちの波と関係なく決断を迫られることになります。
養護教諭(保健室の先生)のカバー範囲と負担増
養護教諭、いわゆる保健室の先生には、保健室登校の子のケア以外にもさまざまな業務があります。
- 怪我や急病で保健室に来る子の対応や連絡、保険手続き
- 保健の授業を担当
- 健康診断の準備や実施、結果の作成と保護者への配布
- 水道やプールの環境衛生管理
- 保健に関する会議の準備や開催
- インフルエンザ・胃腸炎などの感染症予防
- 修学旅行や林間学校の引率
- 教職員の定期健康診断、カウンセリング など
大規模校では複数の養護教諭が配置されますが、それ以外では1人ということが多く、上記を1人の先生がこなすのは相当な時間的・業務的負担だといえます。
一般の児童生徒から「ずるい」と思われる可能性
保健室登校をしている子には、はっきりとした原因がある場合もありますが、本人にもはっきりとした理由が分からず、でも教室に行こうとすると足がすくむ、気分が悪くなる…という状態で苦しんでいる子のほうが実は多いと言われています。
担任の先生も、家庭の事情や学習障害・性同一障害などがかかわっている場合、プライバシーに配慮して詳細をクラスの子どもたちに話せないことも。
また本人も、保健室に友達が会いに来たときや下校後に遊ぶときは笑顔で元気に話せることもあり、一般の子からは、理由もなく特別扱いされているように見えることもあります。
さらに、現在トラブルやいじめで学校や教室が辛いのに、親が休むことを許してくれず我慢して通っている子から見れば、「ずるい」「自分はこんなに苦しみながらがんばっているのに」と感じてしまうことも。
とても難しい問題ですが、大人は同じように苦しんでいる子がいないか気を配るのはもちろん、そうでない子たちにも
「みんなに言えない事情がある子もいる」 「まわりから見た姿と本人のつらさの感じ方は別である」 「笑顔でも、内心苦しんでいることがある」
など、自分と違う立場の相手を思いやる気持ちを持ってもらえるよう根気よく子どもたちに伝えていくしかないのではないでしょうか。
おわりに
子ども自身が「学校に行く必要性を感じない」というのであれば、それはそれで1つの形として認められるべき。
しかし、保健室登校を希望する子は、ほとんどが「学校には行きたい」と考えています。(中には親の希望を強く感じて、「行っておくべき」と考える子もいますが)
保健室登校は、そんな苦しんでいる子どもたちにとって、教室と不登校のあいだにある貴重な居場所のひとつだといえます。
支援スタッフの確保などをふくめ、さらに多くの学校で「保健室登校なら行ける」「保健室登校したい」と感じている子どもたちに前向きに対応できるような体制が整うことを願っています。
文/高谷みえこ
参考/公益財団法人 日本学校保健会「平成28年度保健室利用状況に関する調査報告書」https://www.gakkohoken.jp/book/ebook/ebook_H290080/index_h5.html#19
NPO 法人ファミリーコミュニケーション・ラボ「息切れした子どもたち~不登校の理解と支援のために~」https://fami-lab.com/npo/wp-content/uploads/2015/07/%E6%81%AF%E5%88%87%E3%82%8C%E3%81%97%E3%81%9F%E5%AD%90%E3%81%A9%E3%82%82%E3%81%9F%E3%81%A1%EF%BC%92.pdf
「先生にできる事~親と手をたずさえて~」 https://fami-lab.com/npo/wp-content/uploads/2015/07/%E5%85%88%E7%94%9F%E3%81%AB%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8.pdf