夫婦別姓や事実婚、国際結婚、同性カップルなど、日本の「夫婦ダイバーシティ(多様性)」をテーマにお届けするオピニオン特集。

 

今回は法律婚をしたのち、離婚して同じ男性と「事実婚」(住民票を「妻(未届け)」として提出)をした山浦さんに取材しました。法律婚と事実婚の両方を経験した山浦さんによると、両者の違いはほとんどないのだそう。事実婚の実態やパートナーとの関係性について赤裸々に語っていただきました。

 

 仕事の合間のオンライン取材に、笑顔で応じてくれた山浦さん。

 

Profile 山浦雅香さん

フリーランスのライター、翻訳業を経て、現在は社員としてウェブメディアの編集部に所属。離婚届を提出し、事実婚の形をとりながら、夫と長男(8歳)と3人で暮らす。ブログ「夫婦別姓にしたくて離婚届を出した。」の運営者。

 

 

旧姓を取り戻すために事実婚を選択

——さっそくですが、法律婚から離婚し、事実婚に切り替えた経緯を教えてください。

 

山浦さん:

実は私、もともと結婚願望がなかったんです。結婚するとしても自分の旧姓を貫きたいという思いがあり、事実婚を希望していました。でも、彼は結婚願望をもっていたので、法律婚をせずに一緒にいるのは彼にとってはすごく不安だろうなと思って。それに、経験しないで決めつけるのはよくないという思いもありました。

 

事実婚に切り替えたのは復職がきっかけです。出産を機に当時働いていた会社を退職したのですが、息子が保育園に入れたので再就職しました。その会社で、給与が名義不一致で振り込まれないことがあって。実は私、結婚後も金融関係やクレジットカードの名義を旧姓のままにしていたんです。名義変更をしなければならない状況に直面したときに、「やっぱり旧姓の山浦でありたい!」と強く思いました。

 

——旧姓にこだわりがあったんですね。

 

山浦さん:

そうなんです。名字が変わっても中身は変わらないとわかってはいるのですが、夫の名字にどうしても馴染めない。私は山浦だから山浦でありたい、という感覚です。このままの状態は苦しい、離婚して事実婚に切り替えたいと思い、自分の気持ちを夫に話しました。

 

——旦那さんはすんなり了承してくれました?

 

山浦さん:

いいえ。何度も話し合いました。夫は「離婚届を出すのは大ごとだし、事実婚に対してポジティブなイメージがない。夫婦の繋がりが薄くなる気がするから嫌だ」という意見で、なかなか理解してもらえませんでした。

 

でも実際のところ、法律婚と事実婚の違いは、夫が亡くなったときに財産を相続する権利があるかないかだけなんです。弁護士の知り合いに相談したら、「事実婚とはお互いに婚姻の意思をもち、夫婦としての共同生活を行っている状態。民法上は法律婚と同じ扱いをされるけれど、税法上は配偶者と扱われないから夫の財産を相続できない」と教えてくれました。

 

そのことを夫に話したうえで、法的に結婚していることを、相手から経済的に保障される根拠にしたいと私は思っていない。法律婚の意味は私にとって、あなたの財産を相続する権利を得るということ。それに大きな意味を見出せない」と伝えたんです。そして、「同居しながらの事実婚なら、今の夫婦の繋がりを保ちたいあなたの希望はかなうし、私も旧姓を取り戻すことができる」と説得しました。最終的には夫が渋々折れてくれた感じです。

 

事実婚で変わったこと、変わらないこと

——事実婚に切り替えて変化したことは何ですか?

 

山浦さん:

大きく変化したのは私の気持ちですね。旧姓の山浦を取り戻せたことがめちゃくちゃ嬉しくて(笑)。でも、それ以外の変化はほとんどないんですよ。私にとって事実婚は旧姓を取り戻すために夫の財産を放棄しただけのこと。それ以外のことを変えようと思わなかったし、変える必要もないと思っていました。

 

——家事や育児、家計の分担にも変化はないと? 

 

山浦さん:

はい、変わらないですね。家事については洗濯、食材の買い出しはおもに私の役目。子どもの朝ご飯の用意や宿題のチェックなど、子どものケア全般は夫が担当しています。掃除は気づいた方がやる感じです。

 

家計はびっくりするほど適当ですよ(笑)。今の家は夫が結婚前に購入したものなので、家賃や光熱費などはすべて夫が払ってくれています。なので、それ以外はなるべく私が負担するよう心がけています。

 

実は、子どもの親権は夫にあるんです。でも、私が親であることに変わりはないし、子どもに対する気持ちや接し方もまったく変わりません。実際今は同居を続けているので、親として何の問題もなく子どもに関われています。法律婚と違って何の強制力もないのに、普通の夫婦、親子として暮らしていけている。そう考えると、事実婚であっても家族とはきちんと信頼関係を築けているような気がします。

 

 ——周囲の人、たとえば両親や親戚との関係には変化はないのでしょうか?

 

山浦さん:

親戚付き合いも以前と同じです。3人でお互いの実家へ帰省するし、親戚の会合にも「妻です」という態度で参加しています。

 

夫にとっては、妻子の顔を親戚に見せるのは嬉しいことなので、その気持ちを大切にしてあげたいと思って。夫にはなるべくいい思いをしてもらいたいんですよね。相手をどこまで思いやるかは事実婚も法律婚も関係なく、それぞれの夫婦の関係性によるのかなと思います。

 

——お子さんの様子に何か変化はありましたか?

 

山浦さん:

変わりないです。子どもにはまだ事実婚のことを説明していないけれど、一緒に暮らしているので普通の親だと思っているみたい。夫は「将来、子どもが両親の夫婦関係がほかと違うと知ったら悩むんじゃないか」と心配していますが、私は全く心配していません。

 

長男が通う小学校にはハーフの子どもや、名前だけで明らかに外国人とわかる子がたくさんいるんです。中国では結婚しても妻は名字を変えませんし。そんな多様性のある環境で成長していくのだから、両親の名字が違うだけで自分を特別だとは思わないんじゃないかなと思いますね。

 

 

 

法律婚、事実婚の選択はそれぞれのカップルが自由に選び取ればいい

——もっと多くの人に事実婚が広まればいいと思いますか?

 

山浦さん:

うーん…。たまたま私の場合は、旧姓にものすごく愛着があり、夫婦別性にするために事実婚を選んだだけなんですよね。それに、法律婚で夫と名字が同じになって嬉しい、結婚の証ができて安心するという気持ちもよくわかるので、なんとも言えないです。

 

法律婚か事実婚かについては、夫婦でよく話し合って決めるのがいいと思います。法律婚を選んでいる人のなかには、無意識に夫の財産を確保できることをメリットとして制度を利用している人もいるでしょう。そんなふうに夫の収入や財産に頼るのも一理あるし、生きていくひとつの方法だとは思うんです。

 

男性が企業で勤め上げ、女性が家を守り夫をサポートするという概念はなくなりつつあると言いますが、日本の企業の主軸はいまだに男性。男性が定時に帰って子どものお世話や家事をする、という文化はまだまだ根づいていないなと感じるので…女性が自立できる社会じゃないと簡単に選択できないという問題はありますよね。

 

ただもし、結婚=法律婚と思い込み、深く考えずに選択している人がいるなら、法律婚以外のパートナーシップに目を向けてみてもいいんじゃないかな、と思います。

 

——今後も同居しながらの生活を続けていきたいと思っていますか?

 

山浦さん:

将来のことは正直かなり不透明です。パートナーと一生添い遂げるかどうかは、制度関係なく相手に対してどう感じるかだと思っていて。このまま気持ちが変わらないとは言い切れないなと思うんです。

 

でも、たとえ別居することになったとしても、法律がどう規定しようが、心情的には家族として接することに変わりはないだろうなと思います。

 

 

 

——法律婚と事実婚の違いがほとんどないとは驚きでした。それぞれが生きやすい道を見つけるためには、正しい知識を得て自分の頭で考えることが必要と言えそうです。次回は同じく事実婚を選んだ女性同士のカップルにお話を伺います。

 

 

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取材・文/小松﨑裕夏