「共感力」を分断に向かわせないために

授業で挙手する高校生

──「思春期スパート期」にはどんな配慮が必要ですか。

 

山極さん:

「思春期スパート期」とは、思春期におとずれる成長のスパート、つまり身長などが一気に伸びて体つきに男らしさ・女らしさが表れる時期のことです。身体の成長に心や社会性の成長が追い付かず、心身が非常に不安定になります。だから、乳離れ期以上に、親や親以外の年長者が真剣に関わる必要があるともいえます。

 

この時期は、「自分は一体何者なのか」「世界からどう見られているのか」がすごく気になります。自分がまわりより劣っているのではないかと気にして、外見のことで思い悩んだりもします。実はそれは欠点ではなく個性なんですよね。障害を持っていたとしてもそれも個性。でも、そのことになかなか気付けない。

 

そういった時期に、日本の子どもたちは学校で同世代の子どもばかりで過ごしています。そのため、子どもから見た世界が均一化してしまう。こうした環境では、「共感力」は、異質なものを排除しようとする、他の集団を敵対視するといった暴力的なものになりがちです。そんな中、スマホでSNSなど文字のやりとりに没頭していているとますますその傾向に拍車がかかってしまうことでしょう。

 

そうした状況を防ぐため、まわりの大人は、子どもが自分の個性を認めて、強く生きていけるよう導いてやる必要があります。例えばいじめにあったとしても、いじめている友だちの間でだけで生きているわけではなく、自分を認めてくれる世界が他にたくさんある。そういうことを教えてあげなくちゃいけない訳です。

 

いろいろな世代の人との交流の機会を作ってあげて、人生の長さ、世界の広さというものを、頭の中だけじゃなくて、体験を通して実感させる。それが大人の役割だと思います。

 

──「乳離れ期」や「思春期スパート期」以外にも、子育てで悩ましい時期があります。たとえば、子どもが小学校三、四年ぐらいになると、大人の言うことを聞かなくなっていきます。この時期はどう接したらいいでしょう。

 

山極さん:

小さいころはお母さんが一番で「ママ大好き!」だったのに、この時期になると同年齢の仲間が一番の存在になります。そして、仲間同士で自分のお母さんと他のお母さんと比べるようになり、「うちお母さんデブだな」というようなことを平気で言うようになる。言いながら、その親に似ている自分に関して不安を持ち始めているわけです。

 

そんな時、親がムキになって他の親に対抗しないことです。個性を持った存在としてちゃんと生きている姿を示さなければいけません。そして、この時期もやっぱり、子どもに寄り添い続けて、距離を置かないようにすることですね。

 

 

乳離れ期、わんぱく時代、思春期など、たいへんな時期はいろいろあります。それをママだけが背負い込むのではなく、いろいろな大人が関わって子どもに寄り添うことが人間本来の姿であり、子どもの成長のためになるのですね。

 

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取材・文/鷺島鈴香 撮影(山極寿一氏分)/楠本涼