共働きで忙しい毎日。つい「子どもが食事をしているうちに家事や仕事をやっておこう」「仕事に出かけるから、朝食は自分で食べておいてね」……などと、子どもに一人きりで食卓につく「孤食」をさせてしまいがち。

 

そんな風潮に新著『スマホを捨てたい子どもたち: 野生に学ぶ「未知の時代」の生き方』(ポプラ新書)で警鐘を鳴らすのが、京大総長の山極寿一さんです。

 

ゴリラやサルの研究を通じて「人間とは何か」を追求してきた山極さんに、なぜ「孤食」がよくないのか、子どものコミュニケーション力を伸ばすために親として気を付けるべきことはなにか、お話をうかがいました。

 

PROFILE:山極寿一(やまぎわ・じゅいち)

1952年生まれ。霊長類学・人類学者。京都大学総長。ゴリラ研究の世界的権威。ルワンダ・カリソケ研究センター客員研究員、日本モンキーセンターのリサーチフェロー、京大霊長類研究所助手、京大大学院理学研究科助教授を経て同教授。2014年10月から京大総長。最新刊に『スマホを捨てたい子どもたち: 野生に学ぶ「未知の時代」の生き方』(ポプラ新書)。

 

人間の知能と共感性を伸ばしてきた「共食」という習慣

楽しい食卓

──食事を一人でとる「孤食」。山極さんは「孤食」が当たり前になっている今の風潮に異論を唱えていらっしゃいますが、それはなぜでしょう。

 

山極さん:

「孤食」とは反対に、家族や仲間が同じ場所で同じものを一緒に食べる……こういうスタイルの食事を「共食」といいます。

 

実はこの「共食」は人間ならではの行為です。自分でとった食料を自分で食べるスタイルと違って、食料を分け合う行為は、共感力を育てます。食事は人間にとって、とても大切なコミュニケーションの場なのです。

 

現代の人間はすっかり忘れてしまっていますが、食卓は、親密さを表すと同時に、親密さを育む大切な装置というわけです。「共食」のおかげで、人間は他の動物よりも複雑な社会を築き、発展させることができるようになったといってもいいでしょう。

  

ところが、今の資本主義社会というのは、個人の欲求を最大限に発揮させることで経済をまわすしくみになっています。「好きなものを好きな時に、自分の思う通りに食べたい」という欲求も認められてしまう。気楽さや時間的な効率を求めて、一人で食べる「孤食」が増えていくわけです。大人はもちろん子どもにもこの「孤食」が増えているのはご存じのとおりです。

 

人間本来の共感力を子どもの中に育みたかったら、「共食」の時間を大切にすることです。「栄養がとれていればいいのでは」と思うかもしれませんが、いっしょに食事をすれば、お互いの身体や心の状態もよくわかります。それって大事なことだと思いませんか。

 

──今は親も子も忙しく、毎回親子で食卓を囲むのは難しい部分があります……

 

山極さん:

1日に1回でも家族で食卓を囲めるといいのですが、例えば休日に、アウトドアで肉を焼いたりカレーを作ったりするのもいいですね。河原で火を起こして、肉や野菜を切って、鍋を洗って、みんなで食べる。そんななんでもないことが楽しい。食事にはそういう魔力があるんです。

 

その時に大事なのは、スマホやゲームを持って行かないこと。スマホやゲームがあって自分だけの時間に没頭すると、共食や家族との関わりが面倒になってしまいます。とくにスマホがあると、スマホで友だちとやりとりするのが楽しいし、友だちと盛り上がるために「このテレビ番組を見なくちゃ」なんてことになって、家族との会話はそっちのけになってしまう。そういうものから離れてみんなで食事を楽しむ経験を、子どもにたくさんさせましょう。

 

大人も子どもも「自分の時間を忘れてみんなと合わせる時間を作ろう」ということです。料理を作るのがしんどかったら、外食に行ったっていいんですよ。