TVやスマホのニュースで、コンビニや飲食店の商品を粗末に扱う動画や成人式で暴れる若者の姿が取り上げられると、よく「いったいどういう育て方をしたのか」とコメントする人がいます。
人としてやっていいことと悪いことを教えるもっとも大切な場はたしかに家庭です。
しかし、「そそっかしい」「反抗的」「成績がいまひとつ」といった、それって生まれつきじゃない?と言いたくなるような子どもの欠点・短所まで「なぜか母親のせいにする人が多い!」と不満に思っているママも多数いるんです。
今回は、そんなママたちの怒りの体験談と、子どもの欠点は本当に母親のせいなのかを検証。3人以上の子育て経験があるママ・パパに行ったアンケート結果も交えて考えていきます。
「ここが納得いかない…」ママたちの体験談
今回は、0歳~14歳のお子さんを育てているママたちに、「子どもの短所や欠点をママのせいにされて納得がいかなかったことはありますか?」と聞いてみたところ、以下のような体験談が集まりました。
「息子たちは、小学校4年生と2年生なのですが、成績がいまひとつ…。夏休みの補習が決まり、家族旅行の予定が変わってしまうので夫に報告すると、俺は子どもの頃成績よかったのにな、お前勉強苦手そうだもんなと、私のせいと言わんばかり。だったら、自称得意なあなたが宿題とか見てあげてよ!」(Kさん・34歳)
「お正月に帰省して年下のイトコと遊んでいるとき、ズルをしたイトコに注意しているうちの娘をみて、あーあ、ママにそっくりな言い方するのねー。と義母に言われました。でも、しじゅう死ねとかバカとか言っているなら私も反省しますが、叱らないといけない時だってあるし、一緒にいたら口癖が似るのは当たり前じゃないでしょうか」(Eさん・33歳・4歳児のママ)
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「義父母が、3歳の息子が小柄なことをいつも指摘するんです。もちろん私だって気になっています。でも病的なものではないのは検診などで分かっていて、個性だと割り切るようにしています。そう伝えているのに、何度も、妊娠中に体重増加ばかり気にして栄養取らなかったのじゃないか、甘やかさずに何でも食べさせないと…と言うので、最近息子も、祖父母が来ると知るとヤダといいます。そもそも夫だって小柄なのだから、仕方ないと思う」(Hさん・32歳)
「娘はアトピーがあります。実家に帰ったとき、よだれをゴシゴシ拭くと肌に刺激が強いので、まめに洗面所で水で洗い流したり、医師の指導にもとづいた食事制限をしているのを見た実母は、母親(私)が神経質すぎるからストレスが伝わってアトピーなんかになるんだと言いました」(Aさん・30歳・1歳児のママ)
たしかに育て方は子どもの人格形成に大きく影響を与えますが、決して全てではありません。
特に、お子さんの体質的なことや、障がいや先天性の疾患があった時には、「母親のせい」という発言はママの精神を追い詰めてしまいます。
「一般社団法人全国心臓病の子どもを守る会」の配布しているパンフレットにも、親へのメッセージとして以下のような記述があります。
大多数の先天性心疾患は、いろいろな多くの要因が関与して発生すると想像されています。複雑です。赤ちゃんの先天性心疾患は、「私のせい」とは絶対に思わなくていい、「誰のせいでもない」のです。
社会が「母親のせい」にしたがる理由
『母原病』という言葉を聞いたことはないでしょうか。
これは1970年代に発売された小児科医の本のタイトルですが、内容は「原因不明・難治性の子どもの疾患の多くは母親の接し方が原因で、母親が変われば病気は治る」というもので、なかには「母親が甘やかすから喘息が治らない」などの記述もありました。
たしかに、周囲の接し方しだいで精神状態によって子どもの症状が悪化したり軽快することは考えられます。
ただ、「原因」となる大人はなにも母親とは限らず「子どもが愛着形成を築ける誰か」であり、父親でも祖父母でも保育士でも同じです。
当時の日本社会は急速に核家族化と、サラリーマンの夫+専業主婦の妻という家族構成が増えた時代でした。いつも子どもと一緒にいるのは「母親」だったので、タイトルも「母原病」とされて広まり定着したと考えられます。
しかし、40年以上が経った2020年でも、日本ではいまだに育児の大部分を母親が担っている状況はあまり変わっていません。
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本来なら、夫婦で分担するべき育児のほとんどを引き受けた上で、何かあったときだけ母親のせいにされることの理不尽さについて、あるママはこんな風に話してくれました。
「たとえばレストランのアルバイト。ほぼ毎日お皿洗いを担当すれば、年に数枚はお皿を割ってしまうかもしれません。いっぽう年に2~3回しか皿洗いをしなければ、勤続10年で1枚も皿を割ったことがありません!と威張れますよね。でも、それって長く担当していた人が悪いの?誰が担当しても数枚の皿は割れる、それが真実じゃない?」(Fさん・39歳・中1と小5のママ)
育児の父親不在があたりまえの時代が長く続いたために「育児=母親がやること」と言う認識が刷り込まれている人がとても多く、全夫婦の3分の2が共働きという現代でも、容易に人々の意識から抜けていない…それがこの「何でも母親のせい」という違和感につながっているのではないでしょうか。
3人以上育てたママ&パパに聞いてみた
いくら親が工夫して育てても、生まれつきの気質は変えられないのではないか…。
この疑問のヒントとするため、3人以上のお子さんを育てているママ・パパに「生まれつきの気質と育て方、どちらが人格形成に大きなウエイトを占めていると思いますか?」と聞いてみました。
すると、なんと回答は満場一致で「生まれつきの気質が大きい」という結果に。
「長女・次女・長男、私は大きく育児方針を変えていませんが、まったく違う性格です。長女は優しいけどくよくよしがち、次女は完璧主義で融通がきかないし、長男はいくらていねいに言い聞かせても予測不能な動きをします」(Uさん・38歳)
「男・女・女・男で4人育ててます。2人目までは、短所は親が矯正できると思っていましたが、性格や能力って生まれた時点でほとんどできあがってる感じ。親がどうこうできるもんじゃないと実感してます」(Yさん・45歳)
「長女の出産後に離婚、再婚して次女・三女を出産したので、長女は父親が違います。離婚時はまだ小さかったので父親のクセや考え方などは記憶にないはずですが、ときどきびっくりするほど似ているので、生まれつきの要素は確実にあると思います」(Jさん・38歳)
「中学生を筆頭に3人息子がいますが、同じことで悩んでいても、親のアドバイスや意見を聞く子と聞かない子、三者三様です。親としては誘導しても無駄なので、とにかく善し悪しやルールを伝えることしかできませんね」(Sさん・43歳)
と、多くのお子さんを育てた人ほど、「1人ずつ生まれつきの気質や能力がある程度あって、親の育て方よりそちらが強い」と実感していることが分かりました。
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ただし「毒親」については話が別
ここまでで、どうやら、子どもの長所も短所も、母親はもちろん「親のせい」とばかりは言えない…ということが見えてきましたが、いわゆる「毒親(どくおや)」のもとで育つ子は、本来の気質や長所を抑えつけたままで成長し、人格形成にも悪影響が出ることがあります。
毒親とは、暴言・暴力などで子どもを支配したり、過干渉で自分の思い通りに操ろうとしたり、自分の欲求に子どもを利用したり、子どもにとって「毒になる親」の総称です。
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「まさか自分(または配偶者)が毒親?!」と不安になっても、自分で自分のことは客観的に見られないもの。
上記の記事の後半には「毒親セルフチェック」がありますので、自分自身やパートナーにそれぞれの項目に当てはまる点はないか、ぜひチェックしてみて下さい。
おわりに
「子どもの育ちに親の影響は一切なく、全て生まれつきだから母親のせいじゃない」
「子どもは育て方次第で天使にも悪魔にもなってしまうから、母親のせいだ」
…どちらも極端な意見であり、100%そうとは言い切れません。
子どもには人としての善悪や危険を避ける方法、最低限の社会のルールやマナーを教え、あとは本人の選択を信じる。
母親に限らず、親にはそのくらいしかできないのかもしれません。
他人に向かって言わないのはもちろんのこと、もし理不尽に「母親の育て方が悪い」と言われたら「子どものいいところも悪いところも、生まれつきの気質もあれば他からの影響もある。母親だけのせいじゃないです」と言える意志を持っていたいですね。
文/高谷みえこ
参考/一般社団法人全国心臓病の子どもを守る会「先天性心臓病のためのハンドブック 1 子どもが心臓病と言われたら」 http://www.heart-mamoru.jp/__uploads/documents/15474416411241547441645.pdf