2020年6月5日、2019年に生まれた赤ちゃんの人数が発表され、86万5234人と4年連続の減少で、史上最少だったことが分かりました。

 

日本の「合計特殊出生率(1人の女性が生涯に生む子どもの人数)」は1.36%と、先進国の中でも非常に少なくなっています。

 

いったい海外と日本では何が違うのでしょうか?

 

「子育てしやすい」といわれる国々の制度や社会背景などを日本と比較してみたいと思います。

 

日本の出生率、下がり続ける「原因」と「対策」

厚生労働省「人口動態統計(概数)」によると、2019年に生まれた赤ちゃんの数(出生数)は前年より5万3166人少ない86万5234人で、1899(明治32)年に統計を取り始めて以来もっとも少なくなりました。

 

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菅官房長官は会見の中で、少子化の原因として

 

  • 若者の経済的不安定さや長時間労働
  • 子育てにかかる経済的負担
  • 仕事と子育ての両立の難しさなど

 

などを挙げ、「結婚や出産子育ての希望の実現を阻むさまざまな要因が絡み合っている」と話しました。

 

また、5月29日に閣議で改定が決まった「少子化社会大綱」には上記の他に次のような原因も記載されています。

 

  • 出会いの機会の減少
  • 家事・育児の負担が依然として女性に偏っている状況
  • 子育て中の孤立感や負担感
  • 年齢や健康上の理由 など

 

このままどんどん人口が減っていっては国として成り立たないという危機感のもと、これまでにも、少子化改善のためにさまざまな案が出されてきました。

 

子育て・教育の経済的負担を減らす

とにかく教育費がかかる日本では、子どもが多いとそれぞれの子に満足な教育を受けさせてあげられない…という理由から「もう1人」を諦めるカップルもたくさんいます。

 

教育費の軽減策としては、2019年10月からの「幼児教育・保育の無償化」や2020年4月からの「高等教育無償化」などがすでに実施されています。

 

そのほか、現在検討されている提案には以下のようなものがあります。

 

  • 不妊治療費用の補助・保険適用
  • 児童手当を高校生まで支給
  • 大学などの教育無償化

 

上記は現在も補助金などが用意されていますが、不妊治療なら夫婦で年間所得730万円以下、大学の学費なら所得税非課税世帯など上限があります。

 

そもそも「結婚するつもりはない」「子どもを持つつもりはない」という人に無理矢理結婚や出産をすすめることはできません。

 

しかし、「お金に余裕さえあれば…」という共働きのファミリー層にとっては、学費の補助や給付金の金額によっては、「もう1人」が現実味を帯びてきます。

 

そこで現在、所得制限のある補助金や給付金を、中間所得者層にも拡大する動きが出てきています。

 

子育てしながら働き続けられる社会作り

お金(給付や補助)ももちろん必要ですが、複数の子どもを育てるためには、仕事が続けられて安定して収入を得る必要があります。

 

そのためには、確実に保育園などに子どもを預けられることが第一条件。

 

待機児童の解消はずっと叫ばれていますが、いまだに保活激戦区もたくさんあり、全国どこでも希望すればちゃんと保育園に入れるという状況は実現していません。

 

また、昔のように、祖父母と専業主婦のママという家族構成なら2~3人の子どもを育てることができたかもしれませんが、共働きで実家が遠いのに、ママがワンオペで仕事も育児も…というのは大変すぎます。

 

しかし、男性の育児休暇はまだまだ取得率が低く、2019年でわずか6.16%。(女性は82.2%)

 

ほんとうは育休を取りたいが、そのせいで仕事の評価が下がり収入が減ったら家族が困る…となかなか踏み切れない男性もいます。

 

男性が育休を申し出ても会社が受け入れてくれなかったり、マイナス評価や転勤などのペナルティを与える会社まであることは、出生率上昇の非常に大きな障壁となっています。

 

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政府は今後5年間で男性の育休取得30%を目指していくという数値目標も明らかにしています。

 

しかし、ママを退職に追い込む「マタニティハラスメント」と並び、パパに育休を取らせない「パタニティハラスメント」を撲滅しない限り、男性の育休30%は「絵に描いた餅」のままではないでしょうか。

 

海外ではずっと前から取り組みが進む

さて、では海外の国々ではこのような問題に対し、どのような対策を取っているのでしょうか。

 

社会学では、経済が発展した国では少子化が進むとされており、実際に過去、ヨーロッパを中心に出生率は軒並み低下しました。

 

しかし国によっては、その後の取り組みで回復した例も数多くあります。

 

フランス

フランスには、すべての子どものいる家庭に「家族給付」という制度があり、国内企業がお金を出し合って財源の6割を拠出しています。

 

子どもを3人養育すると年金が10%加算されたり、子どもの多い世帯ほど所得税が軽減される「N分N乗税制」など、フランスでは子だくさんなほうが経済的に有利になるシステム。

 

また、育休後の職場復帰でポストや給与を下げるのは禁じられていて、ママがスムーズに元通り働けるように、男性も産休・育休を取るのが当たり前の社会となっています。

 

そして、上記は婚姻届を出した夫婦だけでなく、事実婚のカップルにも同じ権利が認められているそう。

 

スウェーデン

北欧の国々は税金が高いといわれますが、その使い道についてはしっかりと国民の理解を得ています。

 

世界で最初に「育休」制度を作ったスウェーデンでは、男性の育児休業取得率が80%以上と、日本の6.16%とはかけ離れています。

 

保育園の入園希望があれば、各自治体の責任者が4ヶ月以内に保育の場を保障することが義務付けられているため、9割近くの子が希望通りに入園できているということです。

 

また、通称「VAB(ヴァブ)」と呼ばれる、子どもの病気で休業できる制度もあり、復帰後に子どもが熱を出してしまったときには男女ともに育休や有給とは別に年間120日も仕事の休みが取れて、1日あたり給料の約80%が支払われます。

 

実際にパパ・ママがVABで早退・休業しているのは日常の職場風景だということ。

 

さらに、結婚せずに別れたカップルの子どもにも父親が養育費を支払う義務があり、万が一養育費が支払われない場合は国が代わりに手当を支給、元夫の給与から天引きする…といったシステムを採用しているため、比較的シングルマザーが困窮しにくくなっています。

 

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イギリス

イギリスでは、妊婦健診から出産まですべての費用が無料となる「National Health Service」という制度が有名です。

 

「チャイルド・トラスト・ファンド」は、18歳になるまで国からの補助金が定期的に口座に支給され、大学進学などに備えられる制度。

 

また2004年からの「チャイルドケア10カ年戦略」では、16 歳までの公立学校の学費や医療費・薬代などはすべて無料になっています。

 

オーストラリア

オーストラリアでは「HECS(Higher Education Contribution System)」という制度があり、世帯収入にかかわらず、すべての学生の授業料が後払いになり、卒業後に所得が一定以上を超えてから納付する仕組みになっています。

 

以上、海外の対策を紹介しましたが、実は日本の男性育休は、世界でもトップクラスに充実しているそう。

 

「育児(就学前)における妻・夫の役割」をアンケートしたところ、日本では「主に妻が行うが夫も手伝う」が 55.5%でしたが、イギリスでは「妻も夫も同じように行う」が過半数、そしてスウェーデンでは93.9%だということ。

 

いくら良い制度があっても利用できなければ意味がないですよね。

 

制度を用意するだけでなく、職場や男性・社会全体が、時代に合わせて男女の役割や働き方の常識を更新しなければ、いつまでも安心して子どもを産み育てるのは難しいのではないでしょうか。

 

もっと育児教育に予算を回してもらうには

政府は「希望出生率1.8」の実現を掲げていますが、マタハラや待機児童の問題があるかぎり、産後にキャリアを継続できるかどうかは不透明。

 

「もう少し貯金してから…」と、子どもを持つ年齢が上がっていくのも当然といえます。

 

土地や建設費・人件費、保育士さんの待遇改善などに予算を回し、待機児童をなくすことが少子化には欠かせないといえます。

 

しかし、日本の子育て分野への支出は、GDP(国内総生産)のうちわずか1.34%。

 

対してイギリスでは3.85%、スウェーデンは3.63%、フランス2.91%となっています(2014年統計)。

 

子育てに予算を回してもらうには、子育て世代のママやパパが「選挙に行く」のもとても大事。

 

「どうせろくな政治家がいないから…」と投票にいかない人もいますが、「行くこと」自体に効果があります。

 

どの党も、自分に投票してくれるかもしれない世代に役立つ政策を競って前面に出してくるからです。

 

おわりに

今回の記事中で紹介した「少子化社会大綱」の中には、

 

新型コロナウイルス感染症の流行は、安心して子供を生み育てられる環境整備の重要性を改めて浮き彫りにした

 

とあります。

 

「コロナで家事育児が大変になったかどうか」というあるアンケートに対して、「大変になった」と感じる妻が30%近くいたのに対し、夫の90%近くが「そうでもない」と答えたそう。

 

この機会にママ側への家事育児負担の偏りが見直され、「家事育児は男女同じように参加する」「フレックスタイム制」「テレワークの推進」など、働き方や暮らし方の改革が進むといいですね。

 

そして、海外の成功例をうまく取り入れ、子どもを持ちたい人が安心して子どもを育てられる社会を目指していけば、出生率は自然と上がっていくのではないでしょうか。

 

文/高谷みえこ

参考/少子化社会対策大綱: 子ども・子育て本部 - 内閣府 https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/law/taikou_r02.html

日本衛生学会「諸外国における少子化対策―スウェーデン・フランス等の制度と好事例から学ぶ」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjh/73/3/73_322/_pdf

厚生労働省|「平成30年度雇用均等基本調査(速報版)」を公表します https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05049.html