新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)によって、私たちの働き方や暮らしが大きく変わろうとしています。テレワークが進む企業が増える一方で、出勤形態や家事育児の負担は変わらないという声も。 今回は働き方改革実現会議などでも政府の委員を多数務めているジャーナリストの白河桃子さんに、コロナ禍の働き方によって見えてきたことと、これからの新しい働き方について伺いました。

 

PROFILE 白河桃子さん

ジャーナリスト。昭和女子大学客員教授、相模女子大学特任教授、東京大学大学院情報学環客員研究員。住友商事、リーマンブラザースなどを経て執筆活動に入る。働き方改革、ダイバーシティ、女性活躍、ワークライフ・バランス、自律的キャリア形成、SDGsとダイバーシティ経営、ジェンダーなどをテーマとする。働き方改革実現会議、地方創生第二期総合戦略など政府の委員を多数務める。女性のライフプランに関する講演や出張授業を多数行い、ダイバーシティ、女性活躍、働き方改革、ジェンダー平等、SDGs(持続可能な開発目標)などについて発信する。著書は『御社の働き方改革ここが間違ってます!』(PHP新書)など。

コロナで生じた問題は2つあった

──コロナ以前から「働き方改革」は推し進められてきましたが、今回一気に進んだ印象があります。課題は明確だったはずなのに、働き方がなかなか変えられなかったのはなぜなのでしょうか?

 

白河さん:

「働き方改革」が進んでいないという印象を受ける方も多いようですが、実は本来の「働き方改革」という言葉が指す範囲の働き方については、かなり改革が進んでいるんです。2019年には残業上限や同一労働同一賃金に関して定められた「働き方改革関連法」も制定されました。

 

しかし、「働き方」に関する問題は長時間労働や同一賃金だけではなく、多岐にわたります。今回のコロナ禍では、その次のフェーズの「働き方改革」が求められたと言ってもいいでしょう。

 

実は前向きな理由よりも、災害など止むを得ない理由でこうした改革は進むことが多いのです。テレワークが進んでいるフランスでも、きっかけは大気汚染問題により交通規制が敷かれて通勤に影響したことが原因でした。

 

今回の日本でも、働き方を変えざるを得ない状況に陥ったことで、これまでとは違う働き方や暮らし方を体験し、意識が変わったという人が多いのでしょう。

 

──今回初めてテレワークを導入した企業も多く、戸惑う声もありました。

 

白河さん:

調査によると、約7割の人が現在の会社で初めてテレワークを体験したそうです。突然多くの人が一斉にテレワークを体験したことで、日本は2つの大きな問題に同時に直面しました。

 

1つ目は、「全社一斉テレワークが長期間に渡った」ことです。これによって「ハンコと紙」文化やセキュリティ、個人宅のWi-Fi環境の不備など、課題が次々と明らかになりました。

 

テレワークならではの問題への対応は、それまでのテレワーク利用状況によって、企業ごとに大きな差が生じていました。入社式や新入社員研修、取締役会までオンラインに切り替え、スムーズにテレワークに移行できた企業もあれば、リモートワークによってアクセスが急増し、サーバーなどの環境構築に追われた企業、社員個人のPCやネットワーク環境を使用し、とにかく手探りでテレワークを始めた企業など、さまざまです。

 

──CHANTO WEB読者からは、「家で仕事をしながら子どもと過ごすのが大変だった」という声が非常に多く聞かれました。保育園などの預かり利用や分散登校など、子どもに対するケアも地域によってかなりの差があります。

 

白河さん:

テレワークで生じた2つ目の問題は、まさに「仕事と家庭の両立」です。内閣府調査では家庭と仕事の満足度は低下。しかし「夫の家庭への関わりが増加」した家庭は、この満足度がそれほど低下しません。

 

今回は両親共に在宅勤務で子どもも家にいる状態を、多くの子育て世帯が初めて経験しました。家庭内でのスペースの問題や、仕事しながら家事と育児を行う必要が出てきたのです。 平時であれば、親がテレワークをしているときは、子どもは保育園や小学校に通い、仕事と家庭の時間が切り離されます。しかし、今回のようなケースでは自分の仕事と家庭内での教育や育児を同時に行う必要性がありました。その結果、主に母親の負担が増えてしまったという家庭も少なくありません。

 

──家事や育児の夫婦分担は当然のことという認識は浸透しつつありますが、今回のような特殊な状況に置かれたときでも、夫婦どちらかにしわ寄せがこないような体制を整える必要がありますね。