「ママがフリーランスで働くこと」をテーマに、全4回でお届けしているこの特集。最終回となる今回は、「これからの働き方」について考えます。
新型コロナウイルスの影響で、多くの日本人の価値観や仕事観が変わってきています。時差通勤やリモートワーク、在宅での家事との両立に少しずつ慣れてきたママも多く、これまで当たり前と思っていた働き方を見つめ直す人もいるようです。
「自分にとって一番合っているのは、どんな働き方?」。時間ができたからこそ、そんな風に立ち止まって考えてみるいいタイミングかもしれません。
話を聞いたのは、第1回・第2回と同じく、フリーランス協会・代表理事の平田麻莉さん。アフターコロナの日本で、どんな働き方が求められるようになるのか伺いました。
Profile 平田麻莉さん
一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会・代表理事。大学卒業後、PR会社で国内外50社以上の広報業務に従事。修士号取得、専業主婦を経て、現在はフリーランスで広報や出版を行う。長男(6歳)と長女(4歳)の母。https://www.freelance-jp.org
日本型雇用の時代はもう終わる?これから求められる働き方とは
——コロナ禍で多くの人の仕事に影響が出ています。フリーランスは補償が少なく、継続が困難などの問題がニュースでも流れていますね。
平田さん:
そうですね。フリーランスを含む個人事業主には「持続化給付金」というものが給付されますが、セーフティネットなど保障制度の部分は、会社員に比べてまだまだ弱いことも浮き彫りになりました。
一方、興味深い調査結果もあって。フリーランス1723名を対象にした調査で、コロナの影響で取引停止や収入減など業務に支障がある方は全体の9割弱いたのですが、「アフターコロナもフリーランスの働き方を継続したいか」という質問に対して、意外にも「継続したい」と回答した方が85.8%もいたんです。
「継続したくない」は2.1%、「わからない」は12.1%。みなさんこれだけ影響があったにもかかわらず、フリーランスを辞めたいという方は2%程度しかいなかったことは、私も正直びっくりしました。
逆に、会社員として働く人のなかには半強制的にリモートワーク化が進んだことで、「自宅でも仕事ができるんだ」と気づいた方が増えています。そのせいか、副業のクラウドソーシングやマッチングサービスの会社は、どこも登録者数が増えているそうです。
——日本の旧来の働き方が変わっていきそうですね。海外のように働き方の自由度が高くなりそう、というか。そんな海外では、フリーランスの立場は日本とどう違うのでしょうか?
平田さん:
海外のフリーランス人口は日本より格段に多いです。アメリカやヨーロッパでは起業する人にはフリーランスが多いですし、会社員も終身雇用ではありませんからね。契約内容に基づいて仕事をしていて、それができなければクビにもなるし、転職もありうる。人材の流動性も高いですね。フリーランスのアーティストが社会的な地位が高いとされている国も多いです。
日本は、いわゆる「日本型雇用」といわれる、会社に入ったら年功序列で終身雇用されるという考えが根強い国。ゆえにフリーランスも少なかったのだと思います。しかしその日本が今、ものすごい勢いで変化しています。
一番の理由は労働人材不足です。ひとつの会社が人材をずっと抱え込んでいては社会全体の労働力が間に合わないんですね。今後ますます、みんなで労働力をシェアしていく考え方にシフトしていくでしょう。
一方で、労働寿命が長くなって「人生100年」とも言われていますよね。シニアや子育て中の女性もみんな働こうという流れに変わってきているので、柔軟な働き方が求められるようになりました。
ポジティブな話ではないですが、今回のコロナショックでどの企業も多かれ少なかれ影響を受けていて、今後、人を雇用することに対して負担を感じる会社も出てくると思います。
社員の保障をどうするか?という話が出るなかで、「その人は雇用である必要があるか?」と見直すようになるかもしれません。
場合によっては、必要な時に必要なスキルをもったフリーランスの人材に、プロジェクト形式の業務委託で仕事発注するような人材活用にシフトしていく可能性も感じています。
——企業の考え方も変わってきて、今後は社会全体の働き方自体に変化が生まれそうですね。雇用される立場の人もそうでない人も、それぞれが働くことに対して何かを変えていく必要があるのでしょうか。
平田さん:
会社員の方も、すでにフリーランスの方も、今は先行きが見えなくて社会全体として不安や戸惑いがある時期だと思います。
予測不能な社会だからこそ、「何のために働くのか」「どういうワークスタイルやライフスタイルを実現したいのか」ということを、いったん立ち止まってじっくり考えるにはいい機会かもしれません。
コロナ禍でリモートワークが進んでいますから、今後はますます場所や時間にとらわれない働き方が可能な社会になっていきます。そのなかで、家庭や子育てと仕事のバランスが、どういう状態だと自分にとってハッピーなのか。また、それを実現するために何ができるかを考えてみてください。
一人ひとりが感じる幸せの形も、多様化しています。都心の大きな会社でバリバリ働きたい人もいれば、地方に移住して二拠点居住をしながらライフワークバランスを大切にしたい人もいる。それでいいと思うんです。
いい大学を出て、いい会社に入って、定年を迎えて年金をもらう…。そういう昭和型のロールモデルに、誰もが幸せを見出せる時代ではないですよね。1社だけにずっと雇用されて60歳を迎える方が、むしろハイリスクとも考えられます。
そこで、会社員もフリーランスも、リスクを分散する働き方が必要となるでしょう。つまりは副業するということなのですが、職種的な副業という意味もありますし、クライアントを分散するという意味もあります。
いずれにしても、収入源を分散しておくことが一番のリスクヘッジになります。今後は柔軟に働くことができて、困難を切り抜けられる人が強いと思います。
母親の背中を見て育つ子どもたち。「楽しそうに働いている」と思ってもらいたい
——最後に、共働き世帯のママが多いCHANTO WEBの読者が、今後も前向きに働くために必要なことは何でしょうか?
平田さん:
もはや夫が働いていれば主婦はパートで安心、という時代でもないですし、夫の会社の業績が右肩上がりでお給料は安泰という社会でもありません。何年先も、ずっと同じ人と結婚しているかもわからないですからね。
そのときに、ひとりの人間としてきちんと働き続けられる、そして稼ぎ続けられるということが、人生の選択肢を増やすことにつながると思います。働き方や収入面もそうですし、子どもの教育面もそう。
だから、いつでもその選択肢を持てる自分でいるということはすごく大事なこと。そのための自己投資や、自分のために時間を使うということを惜しまないでほしいなと思います。
子どもがいると自己犠牲の感覚になりがちですよね。子どものために時間を使うことが偉くて、仕事にかまけているとダメな母親だとか、毎日一汁三菜作らなきゃとか、いろいろな呪縛にとらわれているお母さんは案外多いと思うんです。
でも、そんな風に思わないでください。今から育つ子どもたちは、母親の背中も含めて、大人の背中を見て、将来どういう大人になるかという未来を描きます。
だから、お母さんの背中には、堂々としていてほしい。決して自分を卑下しないで、自分がやっていることややりたいことに自信をもってほしいですね。会社員でも非正規雇用でもフリーランスでも、自分が納得できる働き方で働けているなら、それでいいんです。子どもが見て「楽しそうに働いているな」とか「お母さんの仕事って社会の役に立っているんだ」と感じてもらえれば、それで十分です。
ただ、「どうせ自分はできない」と最初から諦めるのはもったいないなと思います。自分ならではのバリューがあるからこそ、今も働けているんですから。自分を褒めてあげられるのは自分だけ。前向きに自分を評価して、今後の働き方と向き合っていけるといいと思います。
取材・文/大野麻里