2020年の4月30日、テレビやインターネットのメディアで、新型コロナウイルス感染拡大防止のため休校している全国の学校に対し、「小1・小6・中3から先行して登校再開予定」というニュースが流れました。
「いつから登校するの?」「高3はどうなるの?」「家に祖父母がいるから感染が不安…」など大きな話題となりましたが、その翌日の5月1日、文部科学大臣の記者会見が開かれ、詳細について語られています。
そこで今回は、会見の内容をもとに今後の見通しを予想、子どもを持つ親としてどう備えるべきかを考えてみました。
「小1・小6・中3から登校再開」の理由は?
今回、なぜ「小1・小6・中3」が先行して登校開始とされたのでしょうか?
萩生田光一文科相が5月1日に行った記者会見のうち、学校再開に関しては次のような内容でした。
専門家会議の意見に基づいている
文部科学省が新型コロナウイルスの専門家会議に学校再開について意見を聞いた結果、
「この感染症の完全な収束にはまだ時間がかかり、長期的な対策が必要。感染リスクがゼロになるまで完全休校を続けると、いつまでも子どもたちの学びが再開できない可能性がある」
「いっぽう、日本はもちろん世界各国のデータから、子どもや10代は死亡率はもちろん発症や重症化のリスクも相当低いことが分かってきた」
ということであり、ならば、ゼロ(完全休校)か100(通常通り再開)かという2択ではなく、その中間として、段階的に子どもが学び続けられる環境を実現していってはどうか…という方針になったということです。
どう安全に配慮するのか
では、具体的にはどのように子どもたちの安全を守るのでしょうか。
会見の中では、次のような案が挙げられていました。
- 1クラスを複数のグループに分けて別の教室に入り、身体的距離を確保
- 学年ごとに分け、2部制・3部制で登校日をもうける
- 歌や体育の集団競技など密集する学習はしない
- もし感染やクラスターが発生したら従来通りすぐに学級(学校)閉鎖などの措置をとる など
そして、これらは全国一律ではなく、学校の設置者(各自治体の長など)が、その地域の状況を総合的に判断して決定することになっています。
また、「基礎疾患があり感染リスクを避けたい」「高齢者と同居しているので学校に行かせたくない」と家族や子ども自身が不安な場合は、引き続き欠席扱いにしないよう、各自治体に求めていくということです。
「小1・小6・中3」の理由とは?
現在、新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるには「人との接触を8割減らす」ことが効果的といわれています。
学校で接触8割減を目指すには、たとえば「1学年だけを登校させる」といった選択肢がありますが、その場合、卒業までに遅れた学習内容を取り戻す時間がない「最終学年」の6年生・中学3年生や、初めての学校生活で先生の対面支援がもっとも求められる「小学1年生」を優先することが望ましいのではないか…という理由だということです。
なお、報道を見て「小1・小6・中3は必ず登校しなければならない」と思った人や、逆に「小1・小6・中3以外は登校してはいけないのか」と思った人もいるかもしれませんが、そのような意図はなく、あくまでも1つの提案だとのこと。
また、「6年生が登校になっても、2年生の下の子を留守番させられない」という家庭に向け、在宅の子の居場所作りも検討中とされています。
「学校再開」各地の状況と、親と子の本音
上記の方針を受けて、各地では登校再開の時期を早めたり反対に延長したりと、それぞれの自治体ごとに対応を取りはじめました。
佐賀県では5月14日から県立学校の授業を再開(部活の対外試合は中止)、長野県では県立中・高の授業再開を10日から23日に延長。
東京都は、都立高など約250校の休校を31日まで延長、小中学校の休校期間も同様となっています。また大阪府など都市部を中心に感染者数の多い地域でも、5月末までの休校を継続する自治体が多くなっています。
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そこで、現在小学生・中学生・高校生のお子さんがいる各地のママたちにインタビューし、現状や気になっていることを教えてもらいました。
「学校が再開になったらどうする?と子どもと話しました。子どもはやはり感染したら不安なので、できればオンライン授業にしてほしいといいます。でも、クラスメイトが登校していて、何怖がってるの?チキン?などと言われるのが嫌なので、行くと思う…と」(Yさん・42歳・中2の男の子のママ)
「テレワークしつつ子ども3人を育てています。宿題を見たり兄弟げんかを仲裁したり食事を作ったり、ストレスがたまるだろうから仕事の後はできるだけ遊んであげて、職場にはいつもすみませんと謝りどおしなので、心身はもうフラフラです。正直、少しだけでも登校してくれれば助かるのですが…やっぱり友達と会えば近づいて遊びたいだろうし、感染を完全に防ぐことができるのか心配です」(Kさん・39歳・6年生と4年生と1年生の男の子のママ)
「うちの市は人口も感染者数も多いので、5月末まで休校は続くと思います。でも、月に1回プリントが配布されて去年の学習内容のおさらいをするだけ…他の都道府県で学校再開されれば、どんどん差が開いていきます。なんとか、今年の内容をオンライン授業で始められないのでしょうか?」(Sさん・45歳・高1と5年生の女の子のママ)
話を聞いてみて、やはり、ほぼ全ての親子が本音では不安や心配を抱いていることが伝わってきました。
今後どのように状況が変わるかは分かりませんが、再開後は「不安」と言い出せない子どもや、自主休校を選ぶ時の子どもの心のケアが最優先事項のひとつになりそうです。
ただし、いつか学校が再開した後も
ただ今後、感染者数の上昇が抑えられ各地で学校が再開したとしても、完全にもとどおりの学校生活が送れるのはまだまだ先になりそうです。
ワクチンや治療薬の普及、集団免疫の獲得など、インフルエンザ程度の警戒度でよいと判断されるまでにはまだまだ時間がかかり、感染防止の観点からすると、引き続き分散登校や部活動・行事の中止は続くと考えられます。
その間にも受験は刻々と近づいてきますが、授業を再開した都道府県とそうでない都道府県、全児童生徒がタブレットやパソコンでオンライン授業を受けられる私立校とそうでない公立校など、さまざまな部分で格差が出てしまうことも懸念されています。
おわりに
今回話題となった小1・小6・中3の先行登校再開のほかにも、安全に配慮しての全校登校再開、無期限の延長、9月入学への転換、全学年の1年延期…現在、さまざまな案や可能性が提示されています。
しかし、いつ再開か・何年生か…といった細かい部分もさることながら、「すべての子どもたちが最終的に必要な内容がきちんと学べるかどうか」がやはり重要ではないでしょうか。
安全を最優先しつつ、子どもたちが不公平なく学べる方法を選択していくのはとても難しいことですが、子どもの未来を考えてみればそれを目指すしかありません。
また、今後も自治体ごとに異なる対応が続くと予想されますので、全国的な正解も見つけにくい状況です。
親の立場としては、それぞれの状況でわが家はどう対応し子どもにはどう伝えていくのか、真剣に考え続けていく必要があるでしょう。
文/高谷みえこ
参考:文部科学省動画「萩生田文部科学大臣会見(令和2年5月1日)」 https://youtu.be/dVdL5jWJRnk
「新型コロナウイルス 感染症対策の現状を踏まえた学校教育活動に関する提言(令和2年5月1日)」 https://www.mext.go.jp/content/20200501-mxt_kouhou02-000004520_1.pdf
学校再開等に関するQ&A:文部科学省 https://www.mext.go.jp/a_menu/coronavirus/mext_00003.html