【この記事は、CHANTOママライターによるウェブ限定記事です】
ライター名:外山ちえ子
江戸時代も女性はメイクをしていた?
実は私、2020年東京オリンピックの「東京都おもてなしボランティア」に登録している東京都民です。そのため、海外の方に日本の伝統文化を解説できるよう、英語の勉強と並行して、今まで未知の分野だった日本の伝統文化について、コツコツ情報を集めています。そんなとき、とても綺麗な和製陶器に入った化粧品の写真を発見し、詳しく調べてみました。それは『紅(べに)』。江戸時代の女性が口紅やアイラインとして使用していたものなのだそうです。平成の世になった現在でも、職人さんが江戸時代からの製法を受け継いで作っており、かつ紅について学べるミュージアムが東京にあるとしって興味津々! このミュージアムでは紅を使ったワークショップが定期開催されていて、夏休み期間には親子向けのワークショップも開催しているとのことで、さっそく申し込み、紅について親子で学んできました。
写真はミュージアム入口のディスプレイ。赤い座布団の上のまあるい陶器に紅が入っています
「伊勢半本店 紅ミュージアム」で学んでみよう!
日本で唯一、昔ながらの紅を製造できるのは『株式会社 伊勢半本店』のみ。実はこのメーカーは、私が中学生だった頃に使っていた色付きリップクリーム『キスミー(アラフォー世代女性にはなじみ深い商品のはず)』の製造元、株式会社伊勢半さんのグループのひとつ。「紅の歴史・文化、そして伝統の技を後世に残したい」という願いを込めて設立したのが、今回訪れた東京・青山にある『伊勢半本店 紅ミュージアム』です。ここでは『小町紅』の体験サロンをはじめ、江戸の化粧習慣の紹介や江戸時代の化粧道具の常設展示があります。今回、私たち親子は、「『紅』ってなあに?」というワークショップに参加しました。
写真はワークショップの掲示物。今回、参加したのは、紅について総合的に学べるワークショップ。子供の自由研究のヒントになるようにと、夏休み期間に親子向けワークショップとして開催したそうです。今年は8月上旬と中旬の2回開催され、筆者親子は8月中旬の午後のコースを受講してきました。当日の参加者は私たち親子含め5組の参加でしたが、男子は息子だけ、後は全て女子でした…予想はしていましたが…。(それでも息子は可愛い女の子が数人いる中でニコニコ鼻を伸ばしてご機嫌でしたのでまあ良いかと)。
ワークショップで『紅』のすごさを体感!
紅花が紅になるまでの行程を学ぶ
まず紅花から紅が出来るまでを学びます。各テーブルには紅花のドライフラワーが置かれていたのですが、鮮やかなオレンジ色の花からどうやって鮮やかな紅が取れるのか最初はなかなか想像できませんでした。それもそのはず、一つの紅花から取れる赤色色素の量はたったの1%! 紅は約1,000個分の紅花からお猪口一個分の量しか取れないほど、とても貴重な素材というから驚きです。さらに、紅花から紅を作る工程も。まずは紅花生産農家で「花摘み」→「紅花の花洗い」→「紅花の発酵」→「紅餅(発酵した花びらを臼で搗き、団子状に丸めて押しつぶし、天日干ししたもの)作り」の作業を経て、紅問屋へ運ばれます。ここから先が紅職人さんのお仕事です。「紅餅から色液を作る」→「ゾク(麻で作った紐の束)を浸す」→「ゾクを絞り紅液を作る」→「紅の抽出」→「紅の採取」→「紅の保存」→「紅を刷(は)く」工程を経て、紅は完成します。今回は、紅職人さんの作業である「紅餅で色液を作っての試し染め」と、「お猪口に紅を刷く」実演を見学しました。
お酢の割合で紅の色がかわる!?
まずは紅餅からの抽出液で白いスポンジを染める実演を見学。まず、この液にスポンジを漬けると、スポンジが黄色に染まるんです。が、この液にちょっと酢酸を加えたものだと、スポンジはオレンジ色に染まりました! さらに多めに酸液を加えた液でスポンジを染めると、今度はなんと鮮やかな紅色に!1種類の紅液から何色もの色合いの染色が出来る手品のような光景に、子供達は目をキラキラさせていました。
※写真は左から「紅餅」、中央「3種の液で試し染め中」、右「染め上がったスポンジ」
紅は乾くと玉虫色に変色する!?
染め体験の後は職人さんが「紅を刷く」作業を披露。伊勢半本店の紅は、陶器の器かお猪口に刷かれているのですが、今回はお猪口に紅を刷く作業を間近に見ることが出来ました。紅は光に当たると変色しやすいそうで、光に当たらないように保存するのが大事。職人さんは黒い小箱から紅を筆で取り、くるりとお猪口に塗り付けてから、ヘラのような道具を使って少しずつお猪口に紅を均等に伸ばしていきます。その鮮やかな手技に子供達も大人達も思わず釘づけ!紅を刷いた後は乾燥させます。本来は自然乾燥させるのだそうですが、今回は時間の関係でドライヤーでグングン乾燥。すると、乾いた部分から鮮やかな紅がどんどん玉虫色に変わっていくのです! 子供達がわあっと歓声を上げて驚いていましたが、本当に魔法のようでした。この工程ができる職人は今では日本にふたりしかいないそうで、貴重な技をみることができて感動です。
紅を使ったお守り作りに挑戦
最後に、紅を使ってお守り作りに挑戦。もともと昔から、赤色は魔除けの力があると信じられてきた色で、なかでも紅は特に大切な時に使われてきました。例えば、赤ちゃんが生まれて初宮参りに行くとき額に紅で文字や印を書いたり、七五三のお参りに行く娘さんの着物に赤色が多かったり、花嫁さんの婚礼衣装の白無垢にも赤が部分的に取り入れられているのも、その名残だそうです。さっき職人さんが紅を刷いたお猪口からとった紅で、黒い台紙に自分の名前を書きます。書きあがった台紙を和紙に包み、赤い紐で結めば、お守りの出来上がり。驚いたのが、黒い台紙に紅で文字を書くと、玉虫色に文字が浮かび上がるということ。息子も「うわー、文字が玉虫色だ!」と大騒ぎしながら書いていました。紅職人さんたちが思いを込めて作った紅を使ったお守りですので、本当に効き目のあるお守りになりそうです!
紅で昔ながらのメイクを体験♪
お守り作りが終わった後は、紅点(さ)し体験。玉虫色の紅は水を含ませた筆で溶くと紅色になるので、この紅を唇に点(さ)したり、タトゥーの様に肌に描いていきます。さすがに息子の唇に紅を点(さ)すわけにはいかないので(笑)、腕にタトゥー風に模様を描いて、私が唇に紅を点(さ)してみました。水分多めに溶いた紅だったので、唇は淡いピンクになりました。水分少なめに溶くと、濃いピンクになるので、水分の加減でいろんな色味を楽しむことができます。ただし、実際に使うならリップクリームと併用した方が唇はしっとりしますよ。また、タトゥー風に肌に紅で模様を描くと、光の加減で玉虫色に見え、ミステリアスに仕上がります。
江戸時代は、化粧の基本色がおしろいの「白」、眉やお歯黒用の「黒」、そして「紅」の三色のみでした。その三色のなかでも「紅」は、唇の他に頬紅、目弾き(アイライン風の化粧)、爪紅と大活躍したとの事です。そして唇についても紅の薄塗だとピンク色ですが、たっぷり塗ると玉虫色になります。玉虫色の唇は花柳界(芸者・花魁の世界)で流行った化粧法ですが、別の意味では「私には高価な紅をたっぷり貢いでくれるリッチな旦那様がついているんですの」という富の象徴・見栄のような意味合いもあったそうです。確かに浮世絵をよく見ると、花魁や芸者さんの唇が黒っぽい絵は結構あります。あれは玉虫色という訳ですね。こういう歴史的なエピソードも教えて頂きました。
紅は食品にも使われている!
最後は紅染めのお菓子と紅花茶をいただきました。現在でも、紅花は実はさまざまな食品の着色料として利用されているのだそう。今回は紅花染めの落雁を紅花茶と一緒に。落雁はピンクの色合いが可愛らしく、口の中でほろっと溶けていき、幸せな気分になりました。息子も喜んで頬張っています。紅花茶も癖のないすっきりした味で、お菓子との相性が良く、美味しくいただけました。思い出してみると結構市販のお漬物などの商品詳細ラベルの原材料欄に「ベニバナ色素」と記載されていた記憶があります。食品の着色料として使われる位ですので、口紅として利用するのも、体に安心という訳ですね。以上でワークショップは終了となりましたが、予想以上に濃い内容の日本文化について学べたというのが筆者の感想です。こんな素晴らしい紅の伝統・製法を守り続けた伊勢半本店の皆様に頭が下がります。ワークショップ後は、ミュージアム会場の常設展示を見学させてもらい、これまた素晴らしい細工のお化粧道具や錦絵等を見学させて頂き、大満足でミュージアムを後にしたのでした。この充実度で無料だとは…神対応のミュージアムですね。
女子力UP必須! ぜひ母娘で訪れて欲しい♪
今回ワークショップに参加して「わぁ素敵!羨ましい!」と思ったのが、お母さんが娘さんに盃の上の紅を紅筆で溶いて、娘さんの小さな唇に塗っている姿。絵画のようでとっても素敵でした。紅は食品色素にも使われているくらい安全な素材ですから、小さなお子さんの口紅には最適と思います。ワークショップ開催時以外でも、ミュージアムに併設されているサロンで紅を試すことができるので、機会があれば母娘で是非とも訪れてみては? 紅はミュージアム併設のサロンにて「小町紅」という商品名で販売されていますが、どの紅も可愛い盃や陶器に入っていてとても綺麗です。七五三や十三参り等の行事や、お稽古ごとの初めての発表会を控えている娘さんへのプレゼントにしても素敵ですね。また、紅ミュージアムでは年に数回「企画展」が開催されています。化粧品や紅色に関連する企画がほとんどですので、女性であればテンションが上がる事間違いなし!と思われます。今年の「芸術の秋」は、いつもとは少し気分を変えて、日本の化粧文化の歴史に母娘で触れてみてはいかがでしょう?