いまや「共働きの三種の神器」ともいわれるようになった、ロボット掃除機・全自動洗濯乾燥機・自動食洗機。
限られた家事の時間を短縮し、そのぶん子どもと向き合ったり、心身を休めたり、趣味やゆとりの時間を持てたりと、忙しい共働き家族の強い味方となってくれるはずの時短家電たち。
なのに、それらの家電を購入しようとすると「高い」「うちには必要ない」と夫が反対するという女性がとても多いようです。
この夫の反対、巷では「夫ブロック」とも呼ばれているそう。
そこで今回は、「夫ブロック」の心理や、説得するにはどうすればいいかなど、ママたちへのアンケートをもとに考えてみました。
「夫ブロック」とは?
今回、0歳から14歳のお子さんを持つママ・パパたちに「夫ブロック」という言葉を知っているかどうかたずねてみたところ、
- 知らなかった…75%
- 聞いたことはある…25%
という結果で、意味まで詳しく知っている人はほとんどいませんでした。
ちなみに、男性がいざ転職!という段になって「妻の賛同が得られませんでした」という理由で内定先を断ることは「嫁ブロック」と呼ばれています。
関連記事:「嫁ブロック」は夫の転職の妨げ、それとも救いの手!?
同様に、妻が専業主婦から仕事を始めたりパートから正社員やフルタイム勤務に変わろうとすると、
「家事や育児に支障が出るんじゃないか」
「ろくな社会経験もないし資格もない、お前には無理だよ」
と夫が妨げる場合にも、「夫ブロック」という言葉が時々使われます。
ただし今回は、家事の時短に役立つ電化製品や家事代行サービスなど、おもに今まで「主婦の仕事」ととらえられてきた作業への投資に夫が反対すること=「夫ブロック」としています。
家電購入に「夫ブロック」してしまう夫の心理
家族の困りごとや負担は、みんなで話し合って減らしていくのがチームとしてのあるべき姿。
なのに、なぜ「夫ブロック」で妻の提案をことごとく却下しようとするのでしょうか?
アンケートで見えてきた夫の心理で多いのは、次のようなものであると考えられます。
夫ブロックの心理1:手間ヒマかけること、苦労することが愛情度の表れだと思っている
4歳児と2歳児を保育園に預け、フルタイムで働くSさん(35歳)。
「今流行の、食材を入れておけば自動で料理ができる調理家電。保育園から帰ると6時過ぎで手の込んだ料理を作る時間もないんです。でも、これならお風呂に入れているうちに1品できてるんだよ?すごくない?と持ちかけたんです」
ところが夫からはこんな返事が返ってきたそう。
「”え、昼も給食でしょ?夜まで手抜きしたら子どもがかわいそうじゃない?6万円もするなら、子どものために貯金しようよ”と。そういわれると、なんだか罪悪感を感じてしまい、結局あきらめました」
ちなみに、夫自身は帰りが遅い日も多く、家族のために夕食を作ってくれるわけでもないそうです。
上記のように、家事や育児において時間や手間をたくさんかけること=愛情の大きさ、と考えてしまう人が一定数います。
しかし、心身をすり減らしながら手間ヒマをかけるより、家電や買ってきたおかずを活用して労力と時間を軽減し、ニコニコと子どもに接する方がよほど愛情が伝わり、プラスなのではないでしょうか。
夫ブロックの心理2:自分の母親など、育った環境と同じレベルの家事を求めてしまう
掃除・洗濯・食器洗い…これまでの歴史のなかで、家事は時代ごとに機械化が進んできました。
今の時代に、妻が「洗濯機買いたいんだけど」と言ったら「なんで?タライと洗濯板で洗えるじゃん」「高いから贅沢」などと言う夫はまずいないでしょう。
それなのに、「食洗機買いたいんだけど」に対しては「なんで?手で洗えばいいじゃん」「高いから贅沢」と言う夫はまだまだ存在します。
この違いはどこにあるかというと、やはり、自分自身が子どもの頃に見てきた母親の姿によるのではないでしょうか。
そして、それは夫だけではなく、妻の側にも意外と強く残るマインドブロック(思い込み)かもしれません。
妻自身、無意識に母親の家事レベルを基準にしてしまうことが、夫に家電導入を反対された時に「やっぱりそうかな…」と引き下がってしまう要因の1つになっているとも考えられます。
夫ブロックの心理3:自分でやらないから家事の値打ちが分からない
実家では母親に、結婚後は妻に家事育児を任せきりにしていたり、たまに自分の皿洗いや洗濯物を干す程度では、毎日の家族全体の掃除・洗濯・後片付けがどの程度大変なのか理解できていない夫もいます。
ロボット掃除機や食洗機などにかかるお金が、電気代やランニングコストを含めて数万円だとしても、人がやることのコストや値打ちがきちんと分かっていないと「そんなの高いよ、いらない」と思ってしまいがちです。
夫ブロックの心理4:現状すでに妻がやってくれているから必要性がない
乾燥機付き洗濯機や食洗機・ロボット掃除機など、時短家電を導入する最大の目的や魅力はなんでしょう。
「自分が他のことをしている間に家事が終わる」
これではないでしょうか。
しかし、現状、ほとんどの家事を妻が引き受けている場合、夫にとってはすでに「他のことをしている間に家事が(妻の手により)終わっている」状態。
夫からすれば、「今と何も変わらないのに、なんでわざわざ高額な家電を買う必要があるのか?」と思うのは、ある意味当然なのかもしれません。
夫ブロックの心理5:他人がラクするのは許せない
最後に、すべての夫ブロックに当てはまるわけではありませんが、アンケートからこんな声も紹介します。
「日本人って、他人のために犠牲になったり苦しんだりすることが尊いっていう価値観が強くないですか?子どもの頃から、部活などでもそう植え付けられてきていると思うんです。夫も、会社で理不尽な目に遭ったり、人間関係でイヤな思いをしていて、それでも家族のために頑張っているのは本当に感謝していますし、尊いと思います」
と話すAさん(37歳・5歳児と3歳児のママ)。
「だからといって、自分はこんなに苦しんで働いているのに妻だけ家電でちゃっかりラクしようなんてずるい、という考えはおかしくないですか?」
そんな夫がいるのか…と驚きますが、これは行動学や経済心理学などで「スパイト行動」と呼ばれるもの。
自分が何か被害を被るわけではないのに、他人が得したり、いい思いをするのが許せないという感覚に基づく行動です。
最近では「ごはんおかわり自由」の定食チェーンで「ずるい」という声によりサービスが廃止されたのを覚えている人もいるでしょう。
また、いわゆる「姑根性」といわれるもの、つまり義理の親や職場の先輩が「わたしたちの頃はあんなに苦労したのに、いまの人は楽することばっかり考えて」と、実情に合わない古く大変なやり方を踏襲させようとするのも、一種の「スパイト行動」といえます。
各国の実験結果データ比較によると、特に日本人にはこの価値観を持つ人が多いと言われています。
日本特有の自己犠牲の精神は尊いかもしれませんが、その裏返しに他人にも犠牲を求め、そうしない相手に敵意を抱いてしまう可能性もはらんでいます。
そして、家庭内でこの価値観にもとづいてしまったなら、家族で共に過ごす時間が減ったり、妻の疲れやイライラが増したりするだけで、何のプラスにもならないのではないでしょうか。
自分がやるなら即購入。一見優しい夫にも要注意
ところで、「夫ブロック」とは少し違いますが、以下のような体験談も寄せられています。
「夫は時短家電の導入に消極的で、いつもそれ本当に必要?と渋っていました。ところが、私が2人目を妊娠した後、切迫流産とつわりが重く入院。退院して家に帰ると、新しい食洗機がキッチンに据え付けられていたんです。その時は、私のために…と感謝しましたが、よく考えると、自分も皿洗いを担当せざるを得なくなったとたん即決で買ったってことですよね(苦笑)」(Mさん・37歳・6歳児と1歳児のママ)
「友人はバリバリの総合職で、残業も出張もこなします。ご主人はお仕事があまり続かないとのことですが、ちらっと聞いた収入や労働時間から考えても、ご主人がメインで家事を担当するのが妥当と思えるのですが…彼女の収入が高いのをいいことに、毎日、家事代行さんに料理や掃除をしてもらっているとか。果たして夫婦の状況が反対でもそうなっているのか疑問ですよね」(Uさん・36歳・1年生のママ)
妻が家電購入を考えると、そのくらいできると言って反対するのに、自分が担当するとなるとためらわずに家電や家事代行を利用してしまう夫。
いっけん優しく見えて、実は家事の大変さを知っているわけなので、より確信犯的といえるかもしれません。
しかし、これは、やはり家事は誰が担当しても大変なもので、その立場になってはじめてそれを理解する夫が大半である…ということを表しているのではないでしょうか。
「夫ブロック」は説得できる?もめずに回避する術
家電購入や家事代行の利用に対する「夫ブロック」。
話し合って夫を説得することはできるのでしょうか?
前述のように「手間ヒマ=愛情度」と思い込んでいたり、自分の子ども時代を基準に考えていたりする夫に、正面から説得しても同じことの繰り返しかもしれません。
悪くすると、「どうして私の大変さを分かってくれないの!」「そんなに家事が嫌ならやめてしまえ!」などと、子どもの前でケンカに発展する可能性も。
男性は、一般的に感情に訴えるより客観的データを示した方が説得しやすいといわれています。
政府の調査などに基づく、時短家電の全国での普及率は以下のようになっています(※ロボット掃除機に関してはまだ全国的な普及率が分かっていない状況です)。
- ドラム式乾燥機能付き洗濯機の普及率…34.6%(最多は滋賀県40.8%)
- 食器洗い乾燥機の普及率…26.9%(最多は広島県で34.0%)
(出典:都道府県別統計とランキングで見る県民性)
「ほんとに洗濯が毎日大変なの!」
よりは、
「子どもがいない家庭や、お年寄り2人の家庭も含めて、40%の家でドラム式を使っている時代だよ?子どももいるのに使っていないわが家の方が少数派かもよ」
のように、数字で説得してみる作戦も考えられます。
そのほか、
「それぞれの家事に必要な時間を、実際に測ってみて、家電に置き換えたら何分浮くかシミュレーションしました。その時間でできることをいくつも書き出して、息子とパパに選ばせたら、息子の嬉しそうな表情を見てその気になったみたいです」(Jさん・33歳・4歳児のママ)
「正面から訴えても、しょせん他人事の夫からは否定的な意見しか出てこない。パンフレットを揃えたり、この中から買おうと思うんだけど…など、YES/NOではなく、買っちゃう流れにしてしまいます」(Kさん・38歳・6歳児と2歳児のママ)
「先にドラム式洗濯機を購入した姉に協力してもらい、お正月に夫のいる前で、いかに乾燥機付き洗濯機が重宝するかをレクチャーしてもらいました」(Fさん・31歳・3歳児のママ・第2子妊娠中)
などの意見もありました。
あとからトラブルになるのを避けるためにも、夫婦が納得した上で購入するのが一番ですが、時には直球より変化球の方が説得に成功するケースもあるかもしれませんね。
おわりに
今回のように、家電や家事代行について「そんなの贅沢じゃない?」ととがめる発言は、夫からだけでなく祖父母から言われた経験がある人もいました。
逆に、「わが家は夫も同じくらい家事をするのですが、夫はガジェット(電化製品)が好きで、あれこれ新製品を買いたがるのを私がブロックしてるかも…」という声も。
家事育児へ理解のない「夫ブロック」はぜひとも解消していきたいですが、同時に私たちも、家庭や職場などで知らず知らずのうちに誰かの希望を「ブロック」していないか…いちど振り返ってみるべきかもしれませんね。
文/高谷みえこ
参考/内閣府経済社会総合研究所「消費動向調査2月実施分」202020年 https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/honbun.pdf
都道府県別統計とランキングで見る県民性 https://todo-ran.com/t/categ/10037
「経済実験におけるスパイト行動」 https://shiga-u.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=7857&item_no=1&attribute_id=19&file_no=1