前回は、「

中学受験に挑む家庭のスタンスは3つ!親はブレない考えを

」にて、

中学受験が多様化してきている中で、3つのうち、どのパターンで取り組むのかを決めるべきというお話をうかがいました。今回は引き続きプロ家庭教師である安浪京子さんに、小学校低学年の時期にやっておくべきことや、いつから塾に行かせるべきかについてうかがいました。

 

──家族で話し合った結果、中学受験をさせようとなったら、早いうちから塾に行かせた方が有利ですか?

 

安浪さん:

そう考える親御さんも多いんですけど、低学年のうちは本人が興味を持っていることを伸ばすとか、算数をやるにしてもパズルみたいなものを一緒に楽しんでやるとか、そういうことの方が大事だと思っています。座学はあとからでもいいのです。

 

塾で中学受験の勉強を先取りしたところで、あとから入ってきた子たちにすぐに追いつかれてしまいますから、あまり意味があるとは思えないですね。

 

最近では少子化の影響もあって、「学童代わりにうちに入れてください」などと早期囲い込みをする大手塾も増えています。中には「全部面倒見ます」とか「親御さんは何もしなくて大丈夫です」とかいう塾もあって。でもそれは現実的には無理な話です。結局、塾や家庭教師が見ていない時間は家庭ですから、家庭での過ごし方が大切なんです。

 

これは私の経験上いえることですが、早くから塾通いや家庭教師をつけている子ほどスイッチが入らない。なぜなら、子どもはその環境に慣れちゃうんですよね。逆に、「どうしても行きたい学校がある」とか「絶対に地元の公立には行きたくない」という強いモチベーションを持った子は、5年生や6年生から始めても結果が出たりするんです。

 

読者の皆さんには、塾の囲い込み戦略に踊らされないで、まずは家庭でできることをしっかりやっていただきたいですね。

 

 

──塾に行かせていれば安心ということではないんですね。家庭では何をしておいたらいいですか?

 

安浪さん:

低学年のうちは一番大事な基礎学力をつけておくことが重要ですから、まずは学校の勉強をちゃんとやることです。学校の勉強が疎かになっている子が上位校を目指すのはまず無理です。

 

親御さんは忙しいとは思いますが、低学年のうちは宿題もそれほど多くないし、内容も難しくないので、宿題を見る時間は作ってあげてください。1〜3年生で小学校の内容を親子である程度取り組め、かつテストで8〜9割取れる、という場合は中学受験に進んでも頑張って乗り越えられる素地はあると思います。この段階で「もうしっちゃかめっちゃか、全然ダメ」ってなったら結構きついと思います。家での学習ベースができていないとあまりうまくいかないものなのです。

 

 

──子どもだけでなく、親がサポートしていけるかどうかも重要ということなんですね。

 

安浪さん:

そうですね、親が受験するわけではありませんが、小学生の受験はやはり親の多角的なサポートが必要です。家庭でできることをやらずに塾や家庭教師にばかり頼っていてもできるようにはなりません。宿題はもちろんですが、学校のテストには目を通して、何ができていて、何ができていないのかを見てあげてください。例えば九九や漢字などができていなければ、一緒にお風呂に入りながら九九の練習をするとか、漢字のとめ・はね・はらいを見てあげるといいと思います。そして、たとえ完璧にできるようになったとしても、しばらくすると子どもは忘れてしまいますから、九九でもなんでも、とにかく繰り返しやることが大切ですね。

 

子育てって手間がかかりますよね。まして学力をつけるって本当に手間がかかる。大変ではありますが、そこは家族で協力しながらやっていけるといいですよね。

──人任せにするのではなく、家でできることはちゃんとやってあげなきゃですね。ちなみに親が勉強を見るときに気をつけた方がいいことはありますか?

 

安浪さん:

よくやってしまいがちなのが、手が空いた時に「勉強見てあげる」と言って、そのときに子どもにやる気がなかったり、先生と教え方がが違うと文句を言われたりすると「私がこんなに疲れている中でもやってあげてるのに!」って怒るパターンですね。これは子どもにとって迷惑この上ないので、怒るくらいなら手を引いた方がいいです。親子で勉強する時間は「夕食の後30分」「日曜日の午前中」など、一週間の中できちんとスケジュールとして組み込む方がいいですね。 

 

あとは、子どもが何かの問題でつまずいたとき、親ってつい徹底的に理解させようとしてしまいがちなのですが、完璧なんて無理なので、子どものテンションが下がってきたらその問題はやめて、次の問題をやるとかした方がいいですね。子どもに「嫌だ」っていう気持ちをなるべく持たせない方がいいです。勉強嫌いになってしまうので。

 

うまくいっている例としては、一緒に勉強動画を見るという方法があります。いまは無料で見られる勉強動画がたくさんアップされていますから、子どもに一方的に勉強しなさいっていうのではなくて、一緒に動画を見て一緒に勉強する。そうすると親子で衝突しにくくなります。子どもにだけやらせて上から文句をいうのが一番よくないですね。

 

4年生になると塾に行かせるご家庭が増えますが、最近の塾はやることが多すぎて、演習ばっかりというところが少なくありません。一番大切な基礎理解、つまり自分の頭で考えるという時間を塾では削がれているんです。そのため、つい楽な暗記学習に流れがちですが、その方法をとってきた子は5〜6年生になってから伸び悩み、過去問でも全然点が取れず苦しみます

 

3〜4年生のうちはまだ時間があるし、親も理解できる内容が多いので、効率よく点数をとることは考えないで、子どもの「どうして?」や「よくわからない」というところに徹底的に時間をかけて付き合ってあげてください。それが5〜6年生の学力につながりますから。

 

 

──自分で考えることって、大人になっても大事ですよね。なるべく親子喧嘩にならないように取り組みたいですね。これまでお話をうかがってきて、中学受験にはやはり親のあり方が大事なのだと感じました。

 

安浪さん:

そうなんです。私もこれまでたくさんのご家庭を見てきましたが、中学受験って親子関係がすべてだといっても過言ではないくらいなんです。

 

例えば私の授業でも、雑談がすごく多くなって勉強時間が減ってしまうというお子さんがいて。そういう子は普段、親に話を聞いてもらえていないから、学校であったことなどを全部私にぶつけてくるんです。普段から親がちゃんと話を聞いてあげていれば、雑談の時間はあまりいらなくて、すぐ勉強に集中できたりします。

 

ですから、仕事から帰ってきてあまり時間がなくても、子どもの話を5分でも10分でも聞いてあげてください。それだけで全然違います。帰ってきてすぐに「塾どうだった?」「宿題は?」「明日の準備はしたの?」とか「これだけお金をかけて勉強させているのに、どうして成績上がらないの?」とか言ってしまうと子どもは嫌になってシャッターをおろしてしまいます。そして最終的には「うるせー」しか返ってこなくなってしまいます。

 

どんなにお金をかけていい塾いい家庭教師に外注したとしても、愛情だけは外注できません。そこだけはしっかりと手綱を持っておいてほしいと思います。

 

次回は「

中学受験の志望校はどう選ぶべき?人気の「お得な学校」も要注意

」をお届けします。

 

PROFILE 安浪京子(やすなみ・きょうこ)

株式会社アートオブエデュケーション代表取締役、算数教育家、中学受験専門カウンセラー。神戸大学発達科学部にて教育について学んだのち、関西、関東の中学受験専門大手進学塾にて算数講師を務める。その後プロ家庭教師として多くの親子から支持を得ている。『最強の中学受験 〜『普通の子』が合格する絶対ルール〜』『中学受験 大逆転の志望校選び 〜学校選びと過去問対策の必勝法55〜』『中学受験 6年生からの大逆転メソッド 〜2019年入試版 最少のコストで合格をつかむ60の秘策〜』など著書多数。http://artofeducation.co.jp/

 

取材・文/田川志乃、撮影/masacova!