国内には同じ路線名なのに目の前で分断されている路線があります。それが兵庫県を走る阪急今津線です。阪急今津線は西宮北口駅で「今津北線」と「今津南線」に分断されています。なぜ、分断されているのでしょうか? 今回はその謎を解くために西宮北口駅に出かけてみました。
そもそも、阪急今津線とは?
阪急今津線は今津駅と宝塚駅を結ぶ全長9.3キロの路線です…と言いたいですが、途中の西宮北口駅で分断されています。一般的に西宮北口駅~宝塚駅間は「今津北線」、西宮北口駅~今津駅間は「今津南線」と呼ばれています。
今津北線6号線・7号線ホームからは宝塚行きの電車が出発します。西宮北口駅~宝塚駅間の普通は6両編成で運行され、平日朝ラッシュ時には宝塚駅から大阪梅田駅に直通する準急が運行されます。準急は西宮北口駅には止まりません。
今津北線側の駅名板を見ればわかるとおり、今津北線と今津南線は完全に切り離されています。
今度は今津南線5号線ホームを見てみましょう。こちらは高架ホームになっており、西宮北口駅~今津駅間の普通電車が行ったり来たりしています。今津南線は3両編成で運行され、車掌がいないワンマン運転となっています。
分断の謎を追って「阪急西宮ギャラリー」へ
今津線の分断の謎を解き明かすために、阪急西宮ガーデンズにある「阪急西宮ギャラリー」を訪れてみました。阪急西宮ガーデンズは西宮北口駅の南にあり、西日本最大級のショッピングモールとして知られています。
ギャラリーの中央には1984年以前の西宮北口駅の模型がありました。北側(宝塚方面)から撮影しているため、奥は南側(今津方面)になります。左手は東側(大阪方面)、右手は西側(神戸方面)です。模型で見ればわかるとおり、1984年以前、今津線は宝塚~今津間は線路がつながっており、神戸本線とは西宮北口駅で平面交差していました。左側にある球場はオリックス・バファローズの前身にあたる阪急ブレーブスの本拠地、阪急西宮スタジアムです。阪急西宮スタジアムは約15年前に取り壊されました。
交差部分をアップしてみましょう。ちょうど、神戸本線と今津線が直角に交わっていることがわかります。この平面交差した箇所は「ダイヤモンドクロス」と言われ、西宮北口駅の名物となっていました。電車が「ダイヤモンドクロス」を通るたびに、「タタンタタン」という音を鳴らしました。
1984年に「ダイヤモンドクロス」が廃止され、今津線は分断されました。これには列車本数の増加と神戸本線の10両編成化が背景にあります。平面交差ですから、神戸本線と今津線の電車が同時に「ダイヤモンドクロス」に進入すると、正面衝突事故を起こしてしまいます。そのため、今津線の電車が来ない間に神戸本線の電車を通過させる必要があるため、列車本数を増やすことが難しくなっていました。
10両編成化のために神戸本線のホームを伸ばす必要がありました。しかし「ダイヤモンドクロス」がじゃまになり、ホームが伸ばせない状態でした。「ダイヤモンドクロス」がなくなった後、西宮北口駅は10両編成運転と列車本数の増加に対応した駅に生まれ変わりました。
阪急西宮ガーデンズの前に実物の「ダイヤモンドクロス」がある?
阪急西宮ガーデンズの北側に小さな公園があり、「ダイヤモンドクロス」の一部が保存されています。想像よりも小さかったですが「ここに電車が通っていたのか・・・」と思うと興味深かいですね。あと、神戸市北区にある北神急行電鉄谷上車庫にも「ダイヤモンドクロス」の一部が保存されています。
公園には「ダイヤモンドクロス」が使われていた1982年当時の西宮北口駅の写真が展示されていました。「ダイヤモンドクロス」に進入しているのは今津線の電車です。このように、今津線が分断された背景には輸送力増強による「ダイヤモンドクロス」の廃止であることがわかりました。
他にも西宮北口駅のミステリーはある?
ところで、西宮北口駅のミステリーはまだあります。先ほど述べたとおり、今津南線が発車する5号線ホームは高架となっています。5号線ホームが高架ホームとなったのは2010年のことです。一般的に高架になると踏切はなくなります。
ところが、西宮北口駅では高架化に伴い、神戸本線と今津南線を結ぶ引き込み線に踏切ができました。この踏切は今津南線高架化にともない、南側の東西交通の分断解消を目的としています。
文・撮影/新田浩之