現在、ドイツ・ベルリンに暮らす小川さん

 

—— ここからは、現在のライフスタイルについてお聞かせください。ドイツでの生活はいかがですか?

 

小川さん 

以前は夏だけだったのですが、2年半くらい前からドイツのベルリンと東京を行ったり来たりして生活しています。初めてベルリンに行ったときに、住んでいる人が楽しそうで幸せそうで、活き活きとしている印象を受けました。ここなら自分も無理せず生活できるんじゃないかなと思ったのが、ベルリンを選んだ理由です。

 

なんとなく実家を出て、なんとなく東京に住んでいたけれど、本当は自分の住みたいところは自分で選べるはず。一生に一度くらいは自分の意思で住みたいところを選んでみたいと思っていました。

 

—— 小川さんが感じた日本とドイツの共通点または、違いなどはありますか?

 

小川さん 

共通点は真面目なところですよね。時間を守るところはすごく似ていると思います。違いといえば、ドイツの子どもたちをみていると、幼い頃から自分の考えを持っていてそれをきちんと人に伝えています。そこは、日本と違うなという印象です。それが大人になっても続いていくので、自分も尊重するし、相手の考え方や生き方を尊重する。自由というものにたいして、自分たちの手で守っていかなければいけないという考え方は、壁があったことも大きく影響していると思います。

 

小川糸さん公式サイト:「糸通信」より。

 

—— 食事はいかがですか?

 

小川さん 

基本的には和食です。ベルリンに行ってから、お味噌を作るようになりました。想像していたよりも簡単で、材料は豆と生の麹と塩だけ。空気が乾燥しているので、カビが生えにくいから、すごくいいお味噌ができるんです。自作のお味噌と日本から持っていくにぼしで作ったお味噌汁と、ご飯を炊いて。近所でおいしい卵が手に入るので、たまごかけごはんにしています。

 

小川糸さん公式サイト:「糸通信」より。

 

—— ドイツ料理で得意なレシピはありますか?

 

小川さん 

ドイツの人はそんなに料理をしないんです。ハムやソーセージ、パンを買ってきて食卓に並べるだけ。ジャガイモをオーブンで蒸し焼きにして、薄く切ったハムにをのせて食べるのも好きですね。切って並べるだけのシンプルなレシピでも素材がおいしいので、立派な料理になるんです。

 

—— ドイツといえばパンもおいしいですよね。

 

小川さん 

近所に美味しいパン屋さんを見つけて、そこで買うようにしています。基本的に、お取り寄せという考え方はないです。冷蔵便がないですから。食べ物は自分が買いに行ける範囲のお店で買うのが当たり前なんですよ。

 

最近ではAmazonとかで買う人も増えているようですが、配達が追いつかないという印象です。在庫がないと、手に入れるまでに何ヶ月もかかることもある。それだったら、自分の足で買いに行くほうが早いし、確実ですからね。不便だけど、だからこそ地元の商店街、パン屋さんやお肉屋さんのような専門店がやっていけるのだと思います。地区ごとに街を愛する「郷土愛」のようなものを感じるのもそういった理由なのかもしれません。

 

小川糸さん公式サイト:「糸通信」より。

 

—— シンプルで丁寧で素敵な生活ですね。では、最後にCHANTO WEBの読者にメッセージをお願いします。

 

小川さん 

子育てや働くことは、自分を犠牲にする場面がすごく多いと思いますが、その都度、自分の心の声を聞いて「無理しない」ことも大事。そうすることがなかなか難しい状況ではあっても、自分自身を大切にしてほしいなと思います。

 

小川糸 / 作家 

2008年に発表した小説『食堂かたつむり』(ポプラ文庫)は柴咲コウ主演で映画化され、ベストセラーに。同書は、2011年イタリアのバンカレッラ賞、2013年フランスのウジェニー・ブラジエ小説賞をそれぞれ受賞。そのほかおもな著書に、『喋々喃々』『ファミリーツリー』『リボン』(以上、ポプラ文庫)、『にじいろガーデン』(集英社)、ドラマ化された『つるかめ助産院』(集英社文庫)や『サーカスの夜に』(新潮社)がある。その他、エッセイ『ペンギンと暮らす』(幻冬舎)『これだけで、幸せ 小川糸の少なく暮らす29ヶ条』(講談社)、多部未華子主演でドラマされた鎌倉を舞台にした『ツバキ文具店』(幻冬舎)も話題に。

 

『ライオンのおやつ』(著・小川糸/ポプラ社刊/定価:本体1600円+税)

 

取材・文/タナカシノブ