育休退園制度、ここがヘン?
育休退園制度がそれぞれの自治体の判断に任されている以上、待機児童が多いエリアであればあるほど、今後苦肉の策として退園制度を取り入れる可能性があります。
ここまでに紹介したほか、次のような点でも「おかしくない?」「不公平では」という声があり、課題はまだまだ多いといえます。
待機児童がいないのに退園?
所沢市が市民向けに公開しているQ&Aには、以下のようなやりとりが記載されています。
Q:入園のしおりに「現行制度の取り扱いをふまえ」とある。「保護者の希望や地域の実 情を踏まえ」ともある。待機児童が少ない地域に住んでいると思われるので、退園しな くてもよいか? A: 保育の必要性がない場合は退園となります。所沢市において待機児童が発生している 状況であることから、地域に関係なく市内一律の取扱いといたします。
待機児童のママから見れば…
現在、待機児童として1歳と4歳の子を育てているママは次のように話します。
「長男の出産後は保育園に入れず、ずっと待機児童。戻る予定だったパートには結局戻れませんでした。次男が生まれて仕事を探そうにも、子どもの預け先は?と聞かれると答えられません。もしママが下の子の育休中で家で過ごせる子がいるのなら、職探しの間だけでもその枠を譲ってほしい…と思ってしまいます」
専業主婦はどうなる
自治体によっては、赤ちゃんのお世話が一段落するとして「生後6か月を過ぎてから退園」と決まっているところもあります。夜泣きは生後半年頃から本格化してくる子も多いので、それはそれで疑問ですが、いったん置いておき…。
新生児と手のかかる2歳以下の上の子を昼間に母親1人で育てるのは負担が大きいという声に対し、
「専業主婦はどうなるの?毎日やっていますが」
という反論も出ています。
これについては、全国的には、もしママが専業主婦であっても、体調や他の家族の協力度・子どもの状況などにより一時保育を受け入れている園や自治体が増えてきています。
しかし、育休退園制度がある自治体ではそもそも保育施設や人員が足りていないことが多く、専業主婦のワンオペ育児は依然として支援されにくい状況です。
3歳以上の子がいると逆に不利になるケースも
「上の子が3歳以上であれば保育園をやめなくていい」という園がほとんどですが、それ故に次のような問題も起きています。
所沢市などでは、3歳未満の上の子を退園させた場合、下の子が入園できずに職場復帰できないと困るから、下の子に100点を加算。育休明けに合わせて二人同時に入れる…という制度も用意しました。
しかし、上の子が3歳以上で園に在籍している場合は下の子に100点の加算がないため、今までなら問題なく入園できていたであろう下の子が、押し出される形で入園できなくなるケースも出てきているそう。
これがママ同士の関係にまで悪影響を及ぼしているといいます。
あるママは、 「上の子たちはこの先小中学校も一緒なのに、親同士が、お互い”ずるい”とか”申し訳ない”と感じるような制度はおかしいと思います」 と怒りを表しています。
いずれの場合も、受け入れに適切な余裕があれば回避できることではないでしょうか。
岡山市では、平成27年に制度を改正し、すべての子が園に残れるようにしましたが、待機児童を減らすための取り組みも並行して進めた結果、待機児童数は確実に減っているそう。
すべての自治体で、子どもの気持ちや親のライフプランを尊重し、実情に合った制度運営が望まれます。
おわりに
もしあなたがケーキ屋さんで、お客さんが10個のケーキを買ったらどうしても箱に入りきらない…という場合、どうするでしょうか?
お客さんに「8個しか入らないから、あと2個は明日買いに来て」と言うのではなく、大きめの箱を用意しますよね。
待機児童が多いからといって「待っている子のために退園してください」という対策は本質的ではなく、少子化に拍車をかけるばかりだと思います。
お子さんとママの気持ちを尊重し、育休中だけ家で一緒に過ごすことも、保育園に通い続けることも、専業主婦が産前産後に上の子を預けることもできる。
そんな多様なニーズに合った受け入れ体制を整えること、そのためにも保育士さんの待遇を改善して人手不足を解消すること…それが正当な解決策ではないでしょうか。
また、子育て支援に熱心な政治家や議員に投票したり、若い世代が選挙に足を運ぶだけでも、保育園の増加や人員確保などに予算が回る確率も高まります。忙しい毎日ですが投票にはぜひ行くようにしたいですね。
文/高谷みえこ
岡山市「平成30年10月の待機児童数と平成31年4月における保育の受け皿確保の状況について」
保育園を考える親の会『100都市 保育力充実度チェック(2014年度版)育児休業中の上の子の在園の可否』