プロアスリートも競技人口1%未満のマイノリティ

── プロアスリートとしての経験は、現在のご自身の支えになっていますか。
岡田さん:私の競技人生は、95%が負けや悔しさ、思い通りにいかない苦労の連続でした。でも、その厳しい環境で揉まれてきたおかげで、「なんとかなるでしょ」という前向きに受け止める力が育ち、困難を乗り越える強さが身につきました。
プロアスリートという職業自体、競技人口の1%に満たない究極のマイノリティです。「人と違うこと」が生存条件である世界で生きてきた私にとって、息子がマイノリティであることは、「たいしたことではない」と受け流せる範疇にあります。かつて、誰もやらないからこそ価値があると信じて公認会計士試験に挑んだときのように、困難を希少な価値に変換するクセがついているんです。
── 公認会計士への挑戦もそうですが、簡単ではない道を選択してきた印象があります。それはなぜでしょうか。
岡田さん:当時はまだBリーグもなく、バスケットボールの人気は決して高くありませんでした。だからこそ、この楽しい競技を日本にもっと広めたいという思いが学生時代から強くありました。そのためには、まず自分自身が力をつけなければいけない、そう考えて勉強を始めたんです。若い頃の素直な発想ですが、口で言うだけでは何も変わらない。実力をつけて初めて世の中を動かせると思ったんです。
そんなとき、公認会計士という難関であり、社会的な信頼性も高い資格があることを知りました。「これに挑戦してみよう。プロ選手としてプレーしながら目指す人なんて、ほとんどいないだろう」そう思ったのがきっかけです。単純な動機ではありましたが、挑戦する価値があると感じました。
── 現役でプレーしながら勉強を両立させることは簡単なことではないと思います。
岡田さん:大変な挑戦だったと思います。でも、だからこそ価値があると感じていました。誰もやらないことに踏み出すからこそ意味が生まれる。その感覚が自分のなかにずっとありました。20代の頃は、そんなふうに自分自身の成長だけを追い求める自分中心の原動力でしたが、今はそれが家族や、息子のような子供たちの未来を守るための力へとシフトしました。土日は家族との時間に充てる。そんなまろやかな変化も、今の私にとっては心地よい成長の一部になっていますね。
ただひとつ言えるのは「他人の目はどうでもいい」
── 現在はご自身でもチームの代表やBリーグの理事などを務めていますが、これからの岡田さんのビジョンを聞かせてください。
岡田さん:これからの人生は、これまでいただいた多くのご縁を丁寧につなぎ直し、ひとつの流れとして社会に還元していく時期だと感じています。
私の中心にはいつもバスケットボールがありました。その軸を起点に、教育、キャリア支援、福祉へと活動の幅が広がってきた。これらを別々の領域として捉えるのではなく、1本のストーリーとして形にしていきたいと思っています。
子どもたちと向き合ってきた時間や、保護者の方々との関わりから得た学びは、私の価値観を大きく育ててくれました。人を育てること、誰かの未来に寄り添うこと、その積み重ねが、今の自分の方向性を自然と導いてくれています。
そして、息子の存在は私にとって最大の「縁」でした。彼を通じて、社会にある断絶や、支援が届きにくい現実に気づかされました。福祉を自分事としてとらえられるようになったのも、彼がいてくれたからです。
同じような境遇にある子どもや家族が、少しでも前を向けるような仕組みをつくり、「岡田さんがいてくれてよかった」と言ってもらえるような実感のある活動を形にすること。それが、私に与えられた使命だと思っています。
── 同じ境遇にある親御さんたちへ、何か伝えたい言葉はありますか。
岡田さん:状況は人それぞれで、言葉で言い尽くせない苦労があると思います。ですから、何かを押しつけるつもりはありません。ただひとつだけ言えるのは、「他人の目はどうでもいい」ということです。自分がどう思うか、自分の子どもとどう生きたいか。そのひとつを、進む方向のよりどころにしてもらいたい。
幸い、日本は福祉の制度が整っています。世界を見渡せば、今日を生き抜くことさえ困難な場所もある中で、私たちは前を向いて歩んでいける環境にいます。あまり深く考えすぎず、自分のペースでやっていきましょう。お互い頑張りましょう、それだけです。
── お話を伺っていると、どの経験も前向きに受け止めてこられた印象があります。
岡田さん:だから後悔することはまったくありません。いつ、いかなるときも、その瞬間にベストだと思う選択を、自分の意思でくだしてきました。誰かに委ねた人生なら後悔もしたでしょうが、私はすべてを自分で引き受けてきました。その結果が今ここにある。だから納得していますし、これからもこの経験を糧に、次の意思決定を積み重ねていくだけです。
取材・文:石井宏美 写真:岡田優介