元プロバスケットボール選手で公認会計士試験にも合格した岡田優介さん。彼が今全力で向き合っているのは、知的障害と自閉スペクトラム症のある長男・朔玖(さく)くんとの日常です。「お兄ちゃんが喋らないのは当たり前」と受け止める幼い妹の姿、そして「他人の目はどうでもいい」と言い切る父親の覚悟 ──。息子の障害を公表した岡田さんに、家族の絆と強い想いを伺いました。

兄の障害を欠点ではなく前提だと理解する妹

公園で元気いっぱいに遊ぶ朔玖くん

── 2021年には長女が誕生しました。妹の存在は朔玖くんにどのような影響を与えていますか。

 

岡田さん:間違いなく、朔玖の成長を加速させる素晴らしい存在になっています。面白いもので、朔玖は自分より小さな妹に対して、お兄ちゃんとしての自覚を芽生えさせているようです。おもちゃの取り合いになっても、ふっと譲ってあげることが。もちろん、危害を加えるようなことはいっさいありません。言葉は介さずとも、そこにはたしかな配慮と、相性のよさが存在しているような気がしますね。

 

── 妹さんは、兄・朔玖くんのことをどのように理解しているのでしょうか。

 

岡田さん:彼女は「朔玖がいないと嫌だ」と口にするほど、兄である朔玖のことが大好きですね。面白いエピソードがあって、私が「朔玖はしゃべれないからね」と言うと、彼女は「そんなの当たり前じゃん」という顔で、「朔玖がしゃべるわけないでしょ!」と逆に私につっこんでくるんです(笑)。彼女にとって、お兄ちゃんがしゃべらないことは欠陥ではなく、彼の前提だと理解しているんです。

 

ただ、今後、彼女が成長し、社会に出て周囲との違いに悩む時期が来るかもしれません。そのときは、私が培ってきた哲学をしっかり伝えていきたいと考えています。でも、今のふたりの間に流れる当たり前の風景こそが、最も尊いものだと感じています。

 

── 朔玖くんとコミュニケーションを取るときに、特に意識されていることはありますか。

 

岡田さん:徹底した愛着形成ですね。言葉が通じないからこそ、抱っこをしたり、添い寝をしたり、全身で愛情と安心感を伝える、ボディランゲージを最優先しています。深夜3時に目が覚めて「あーあー」と声を上げる睡眠障害のような症状が出ることもありますが、根気強くギュッと抱きしめてベッドに戻す。親が自分にとって絶対的な安全基地であると認識させることが、感情の起伏や癇癪を抑え、朔玖が安定した生活を送るための基盤になると考えています。

長男の障害を公表した理由は

── 岡田さんは、なぜ息子さんの障害を公表するという決断に至ったのですか。

 

岡田さん:社会の至るところにある断絶に違和感を覚えたからです。障害のある人々が、まるで別の社会に置き去りにされ、蓋をされているような感覚。世間からの「不幸な人たち」という感じのレッテルや、「そっちはそっちでやってよ」という無言の排除。

 

でも、実際の人間社会はグラデーションのなかにあります。グレーゾーンの人も含めれば、こうした特性を持つ人は決して珍しい存在ではありません。それなのに、親たちは「外に出ると迷惑がかかる」「白い目で見られる」とみずからを律し、さらに孤立していく。この悪循環を断ち切りたかった。SNSの時代、隠すよりもオープンにするほうが、結果として本人も周りも生きやすくなるという確信がありました。

 

── 公表後の反響の大きさはいかがでしたか。

 

岡田さん:凄まじい数、そして熱量のメッセージをいただきました。「言ってくれてありがとう」「岡田さんのような人が発信することで、自分たちの存在が認められた気がした」という感謝の言葉をいただきました。同じ境遇の親御さんたちが抱えていた孤独感や疎外感を、連帯感へと少しでも変えることができたのであれば、発信した価値はあったと感じています。

 

驚いたのは、知人や友人からも「実はうちもそうなんだ」という連絡を数多く受けたことです。みんな、あえて言うことではないと隠していた。でも、私が公表したことで「実は…」と言い合える空気が生まれた。隠す必要なんてない、普通に生活の一部として載せればいい。そのほうが、社会の寛容さの総量は増えていくはずです。

 

── 一方で好意的な意見ばかりでもなかったと思います。

 

岡田さん:「子どもの障害を公表すべきではない」という声が一部にあったことは承知しています。たしかに、もし朔玖の障害が軽度で、将来自立して社会生活を送り、意思疎通も十分にできるようになるのであれば、そうした考え方にも一定の理解はあります。ただ、当時から息子が言葉によるコミュニケーションや複雑な意思疎通を続けていくことは難しいだろうという認識がありました。

 

そうした前提があるぶん、世間の方が思い描く状況とは少し違っていたのだと思います。いずれにせよ、息子を最も理解し、これからも責任を持って向き合っていくのは親である私です。誰かが代わりに息子の人生を支えてくれるわけではありません。だからこそ、自分の信念をもって息子の障害と向き合っています。

 

── プロバスケットボール選手としてのリスク管理という視点でも、公表はメリットがありましたか。

 

岡田さん:もちろんです。試合会場に息子を連れて行く際、彼が大声を上げたりしても、事前に知ってもらっていれば「岡田選手の息子だからね」と温かい目で見守ってもらえる。これは私にとってもファンの方にとっても、一種のリスク管理であり、心理的安全性の確保なんです。隠し事のない状態で向き合うほうが、プロアスリートとしても、ひとりの人間としても健やかでいられます。