入社5年後には「社内ブランド」も誕生

── 2014年に入社して修行を重ね、5年後には社内ブランド「SENA MISAWA」の立ち上げが認められるまでになったそうですね。
三澤さん:江戸切子のような伝統工芸の世界では、若手の職人が自分の作品を作るチャンスはなかなかありません。そこで、職人たちの技術向上やデザイン力向上のために「江戸切子新作展」という職人のためのコンテストがあるんです。
そこに出品した最初の作品「Capture」の、不透明な色合いやマットな質感を取り入れた作風を、親方が「おもしろい」と思ってくださって。「この作風を商品に落とし込んでみよう」と、新しい社内ブランド立ち上げに話が発展していきました。
── 自分の名前がついたブランド。デザインする際は何を意識しましたか。
三澤さん:江戸切子の文脈が感じられて、でも新しさも感じられるものをめざして、はじめに3つのパターン(文様)を用意しました。まず、江戸切子と聞いて真っ先に思い浮かぶ伝統の籠目文を取り入れたもの。親方がお父さまから受け継ぎ、アップデートさせた菊花文を取り入れたもの。そして私ならではの、切子の機能美を端的に表すシンプルなもの。この3つを通じて「切子なんだけど、新しい」が伝わるようにしました。
おかげさまでメディアにも注目され、それまで切子を知らなかった方々や海外の方からも、たくさんお声がけいただけて。本当にありがたかったです。
── その後、ブランド名「SENA MISAWA」は「N」に変更しましたね。自分の名前を残したいとは思わなかったのですか。
三澤さん:ブランド名を自分の名前にしたのは、1番は三澤世奈が心地よいと思っている、新しい風合いの切子を提案しているのだと表すためと、カジュアルな印象を持ってもらうためでした。その後少しずつ、使い手の皆さまにも、そして堀口切子のみんなにも、SENA MISAWAの風合いが心地よいものだと感じてもらえるようになったと思い、2024年にブランド名を「N」へと改名しました。
じつはブランド設立当初から、長く愛されるものになって欲しいと思っていたので、もっと普遍的な名前にいずれは改名したいと考えていたのです。「N」は、SENA MISAWAのロゴをデザインしてもらった時に、デザイナーさんが特徴的なNのみのアイコンロゴを作ってくれて、ブランドプロフィールに使っていたことと、社内ではSENA MISAWAのラインナップは略称でNと呼んでいたこともあり、すんなりとこの名前に決まりました。
私が独立する際も、「Nブランドはこれからもちゃんと育てていくからね」と親方が言ってくださって。自分の手掛けたブランドを長く愛されるものに、という願いはかなったわけです。
取材・文:鷺島鈴香 写真:三澤世奈