3年間ホームページの求人情報を見続けて

── ただ、いったん別業界に就職すると、目の前の仕事に流されて、切子の世界から遠ざかってしまいそうです。そうならなかったのはなぜですか。

 

三澤さん:堀口切子のことはずっと気になっていました。「親方の考え方は素晴らしいから、今後はきっと会社の規模が大きくなって、人を雇うようになるはず」。そうお話ししたときに感じていたので、諦めきれない気持ちがあり、堀口切子のホームページは定期的に見ていました。

 

また、職人の世界は金銭面で苦しいという話を聞いていたので、なるべく必要なものだけにお金を使う習慣をつけました。生活コストを下げるために、シェアハウス暮らしを続け、節約にも励んでいました。

 

── そしてついに、堀口切子の求人情報が出たわけですね。

 

三澤さん:ほとんど更新されなかったホームページのニュース欄に小さく「スタッフ募集」と載っていて。見つけたときは、驚きと喜びがありつつも、その時働いていた場所で本腰を入れ始めていたので、すごく悩みました。しかし、後悔したくないと思い、「あのときお話を聞いていただいた三澤です」と面談をお願いしたんです。

 

ただ、体力面などの心配から親方はなかなか「いいよ」と言ってくださらなくて。「お試しでいいからとにかく働かせてほしい」と食い下がって、なんとか雇ってもらうことができました。

「雑務の徹底」が学ぶ時間を生み出した

── たとえば料理の世界などでは、下積み期間が長く、料理の修行に入るまでに何年もかかるところが少なからずあると聞きます。弟子入り後はどんな毎日が待っていましたか。

 

三澤さん:親方からは「すごくきついよ」と聞かされていましたが、自分にとってはすべての作業が楽しく思えて、特段きついという印象はなかったです。学生時代は飲食業をはじめ、いろんな職種のアルバイトをしたことも大きいかもしれません。人手が足りないタイミングだったこともあって、切子作業についても、思っていたより早く実践的な作業をやらせてもらえました。

 

切子の作業は、高速回転するホイールでガラスを削って模様をつけていくというもので、やり直しがききません。慣れないうちは緊張しますが、「どんどんやってもらわないと」って。

 

── 「早く技術を覚えなくては」というプレッシャーがかかりますね。技術習得のために工夫したことはありますか。

 

三澤さん:自分としては切子を加工する作業を早く覚えたいと思う一方で、工房をまわしていくには、しなくてはならない仕事がほかにもたくさんあります。梱包や発送業務、在庫管理、オンラインショップの管理やSNSの発信業務なんていうのもあります。遠回りに思えるかもしれませんが、私はそういう業務を積極的に引き受けるようにしました。自分のぶんはもちろん、少しずつ親方の雑務も任せてもらうようにしていきました。親方がどれだけ忙しく、教える時間を確保するのが難しいかわかっていましたから。

 

また、雑務をただ言われた通りにこなすのではなく、少しでも短時間で済むよう小さな工夫を重ねました。発送用の段ボールに貼る「割れ物注意」のシールは、そのつど貼るのはやめて、すき間時間に全部貼っておく。梱包用の紙もまとめて切っておく。ひとりでできる在庫確認や検品作業は工房に自分ひとりのときに一気に終わらせておく…。そうすることで、親方に教えてもらう時間を確保できるよう努めました。

 

── 親方がやっていた雑務など、指示されていなかったことまでやっていくのは、相当な目配り、気づかいが必要で、多くの新人にとっては難しいことです。もともと、得意なタイプなのですか。

 

三澤さん:自分は頭がいいほうではなく、真面目さだけが取り柄、というタイプだと思います。だから、そこまで器用に気づかいができていたわけではありません。ただただ、早く技術を習得したい一心で「できることはないか」と探して、気づいたことは片っ端から「やるしかない」という気持ちで取り組んでいました。やるべきことが全部終わっていれば、親方も「じゃあ、次はこれやってみて」と、新しい仕事を任せてくれるので。