今でも捨てられない1500円の「魚のリング」

── いっぽうで残すもの、捨てられないものは何でしょうか?
根津さん:値段にかかわらず、思い出や気持ちがこもったものは捨てられないですよね。たとえば、夫と出会ってすぐの頃に東急ハンズで買ってもらった魚モチーフのリング。1つ1500円ほどだったと思うんですけど、おそろいで買ってくれたんです。夫はフライフィッシングが趣味で、毛針を自作するのがこだわりだったのですが、その材料を買いに行ったのが、デートといえばデートなんでしょうか。
釣り具のエリアでたまたま見つけたリングを、「これいいね」と言って買ってくれたのは、高級店のブランドものをもらうより嬉しかったし、忘れられない思い出です。
── 夫・根津甚八さんが家族に残してくれたものは何でしょうか?
根津さん:『根津甚八』という名前や出演作品、そして家族としての誇りです。根津甚八が出演している多数の映像作品がいまでも配信やDVDなどで見られますし、俳優として輝いている夫や父を見るたびに、やはり家族として誇らしい気持ちになるものです。
もちろん、映画『乱』の出演が決まった際に黒澤明監督が描いてくださった根津の似顔絵や、蜷川幸雄さんや「ゲージツ家」のクマさん(篠原勝之さん)が手描きしてくれた状況劇場(唐十郎主宰、根津甚八が所属していた伝説の劇団)のポスターといった、お宝も大切に残していますよ。
── 写真もたくさん残っているでしょうね。
根津さん:そうですね。それも替えが効かない思い出です。子どもが小さい頃って、みなさん子どもだけの写真を撮るでしょう?できれば親も一緒に写った写真がいっぱいあるといいと思う。子どもが成長したときに、若い頃の親を見るのは感慨深いものです。そして大人になって「写真のお父さんと同じ年になったな」「こんな風に抱っこされてたんだな」と、思える瞬間があるのは素敵じゃないですか?
取材・文:富田夏子 写真:根津仁香