「ビタミン剤と思って飲んで」を信じたら

── 精神科ではどんな診断だったのですか?

 

松野さん:医師からは「軽いうつ病かもね」と言われ、「ごく軽い抗うつ薬を出すから飲んでみてください」と、薬を処方されました。でも、精神科の薬って、いま思えば偏見なんですけど、「飲み始めたらやめられなくなる、ずっと飲まなくちゃいけなくなるんじゃないか」って怖かったんですね。

 

それで恐る恐る飲んでみたところ、さらに食欲が落ちて気分も悪くなって…。次の予約を待たずに病院へ行き、「先生、薬を飲むのが怖いんです」と訴えました。そうしたら先生は「薬はビタミン剤と同じような成分だから、こう言ってはなんだけど、正直、効くかどうかわからないほど軽い薬なんですよ。常用性もまったくないし、いつやめてもいいから安心して飲んで大丈夫ですよ」と、ごく軽い調子でおっしゃるんです。

 

── 少し気が楽になる声かけですね。

 

松野さん:「それならば」と飲み続けると、2週間経ったころに「あれ?少し元気が出てきた?」と感じて、受診すると先生も「顔見たらわかるよ。先週より元気になっているね」と。その後は、気分が徐々に上向きになるのが自分でもわかって、6週間経つと「あ、私もう大丈夫かもしれない」と思えるようになりました。

 

そのことを先生に伝えると「じゃあ、今週から薬を飲むのやめようか。でも、念のため処方しておくから、お守りとして持っておいてね」と。それからは薬を持ち歩きながら「今週も大丈夫だった」「今週も飲まずにいられた」というのを繰り返し、その後3年経ちますが、今に至るまで薬は飲んでいません。

 

── もちろん、本当にビタミン剤だったわけではないんですよね?

 

松野さん:ちゃんとした抗うつ剤でしたよ。深刻にならずにうまく薬が飲めるよう、先生が誘導してくださったのが、私にはよかったんですよね。あのときに森林浴に行かず、勇気を出して精神科を受診したから回復が早かったのかもしれません。

 

とはいえ、今もエレベーターなどの閉鎖的な空間や、美容院のシャンプー台、歯の治療中など自由に動けない状況は怖いし苦手です。他にも何かのきっかけで、当時の息苦しい感覚がフラッシュバックするときもあるのですが、「ちょっと自律神経が乱れているだけだから大丈夫、今だけ」って、自分で自分を落ち着かせて、立て直せるようになりました。ただそれだけだから、たいしたことないんだって。

 

最近は少しずつ当時抱えていた心の不調を周囲に明かすこともあるのですが、「じつは私も…」という方がけっこう多くて。同世代の方はとくに「まさか私が」と精神的な病に抵抗あるかもしれないし、家族や友人が「病院へ行きなさい」と言っても本人がその気にならないと精神科の受診は難しいかもしれません。でも、思い当たる症状がある人はひとりで悩まないで、一度病院へ行ってみてはどうかとお伝えしたいですね。

 

取材・文:富田夏子 写真:松野有里巳