「努力しても成果がでないので、自分が怠惰な人間だと思っていた」。理解能力に異常はないが文字の読み書きの学習に困難がある学習障害「ディスレクシア」と診断された、株式会社NankaでCEOを務める森分啓太さん。自分が学習障害だとわからずに苦労してきた経験を元に、現在は障害が障害じゃなく受けとめられる社会を目指して奮闘しています。

自分は「努力の足りない、怠け者だと」

森分啓太
学習支援サービス「もじソナ」の開発を行う森分さん(真ん中)

── 森分さんは現在、株式会社NankaでCEOを務めていますが、文字の読み書きに困難があるディスレクシアという学習障害に昔から悩んできたそうですね。どのような経緯でわかったのでしょうか?

 

森分さん:実は同僚にディスレクシアの人がいました。ディスレクシアとは理解能力に異常はないのですが、読み書きの学習に困難を抱えている障害のことです。個人差はありますがまったく読み書きができないわけではなく、文字から情報を得ること、考えたことを書くことの正確さやスピードが人よりも遅いとイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。

 

私自身は自分がディスレクシアという認識はなかったのですが、思い返してみると中学生くらいからは教科書を理解するのに3〜4回読まなければいけないし、本は1〜2ページ読むのが精一杯で読みきれたことがありませんでした。内容を理解しようと思っても難しく、気がつくと寝落ちしているのです。特に英語の文章が理解できず、プリントはいつもヨダレでベタベタに。高校のころは長期休みに出される英語の課題を提出できたことは、一度もありませんでした。

 

それで、ディスレクシアの同僚の存在を知ったときに、本を読みきれない、何度も読み返すと理解ができるという「理解ができないわけではないのに、読み書きがだけが苦手」な部分を見て、もしかしたら自分も…と思うようになりました。

 

── ディスレクシアだとわかったときは、どう思われましたか?

 

森分さん:検査を受けてわかったときは、もっと早くわかっていたらという気持ちになりました。これまで大学受験で苦労したり、社会人になって研修資料のマニュアルやお客さま資料を読んで寝てしまったりしたのも、ディスレクシアのせいだったのだと。

 

ディスレクシアは文字を読んで理解するのは苦手ですが、耳から聞けば内容を理解することができます。読むだけでなく理解したことを紙などに正確にスラスラ書くことも苦手ですが、キーボードを使用したり、声で入力したりすることで、アウトプットもしやすくなるのです。自分の特性を知り、適切なやり方がわかっていれば、もっと自分の能力を発揮できて、人生はもっと違っていたのではと思いました。

 

── 人生が変わっていたというのは?

 

森分さん:そうですね。私自身は自分がずっと「努力の足りない、怠けている人間」だと思っていました。どんなに努力しても課題を最後まで読むことができない。読もうとしても理解できずに寝てしまう…自分はダメなやつだと反省し続けるのと同時に、どうせやっても無理だと問題から逃げてしまうような癖がついてしまったと思います。

特性さえわかれば、対策はできる

── それまでの人生では学習障害があることであきらめたことも多かった?

 

森分さん:あきらめたというか、努力しても成果がでないので、自分が怠惰なのだと思いこんでいました。実際にディスレクシアの同僚も読み書き以外はキャッチコピーの提案、デザイン、マーケティングなどはすごく優秀で能力が高い人です。

 

でも、同僚も今まで努力をしても報われない、つらい経験をたくさんしてきたのだと思います。自己肯定感が低くなってしまい、学生時代は希望する進路に挑戦できないなど、絶対にできるはずのことも「私には無理だから」とあきらめてしまう。自分の能力をつぶしてしまっている姿を何回も見て、もったいないと思ってしまいました。

 

── そのように原因がわからずに努力しても報われないことで、自信も失われていってしまうのですね。

 

森分さん:特にディスレクシアは本人が気づきにくいうえに、周囲から見てわかることでもないので難しいですよね。自信を失わないために大切なのは、まずは自分や子どもがディスレクシアだと気づくこと。わかったら障害の特性を理解して、それに合った対策をしていくことだと思います。

 

私の場合、長い文章は「読む」ではなく「聞く」ことで理解できるとわかったので、対策ができるようになりました。たとえば会議で資料が配られたときなどは、パソコンにその資料を読み上げてもらって音で聞いて理解することで、今では仕事がスムーズです。同僚も自分の特性を理解してから、社会人としてキャリアアップに成功しました。

 

「もじソナ」という代読代筆ができる学習支援アプリを開発しているのですが、タップすると教科書やプリントの文字を読み上げたり、文字を声やキーで入力したりすることができます。ディスレクシアや外国ルーツの子どもたちが、学校で使えるように広めているところです。

 

──「もじソナ」が広がれば、救われるディスレクシアの子どもは増えそうですね。

 

森分さん:ただ、アプリを授業で使うことはできても、入試などで使用することはまだ難しいと感じています。私も会議では資料をパソコンが代読してくれますが、昇進試験などで長い文章が出たときに代読を使うことはおそらくまだ理解されにくい。

 

どんなに使えるアプリを作ったとしてもディスレクシアの認知が低ければ、そもそも自分や子どもがディスレクシアということにさえ気づけません。どんなに便利なツールがあっても使われることがないし、もしディスレクシアとわかって使ったとしても、周囲がディスレクシアのことを知らなければツールを使うことを理解してもらうのは難しいのです。