コレクション1号は粗大ゴミ置き場から
── 記念すべき最初のコレクションはなんでしたか。
北原さん:僕の大学時代は、学生運動が盛んな時期で、ストライキでしょっちゅう授業がなくなって。「せっかく大学に入ったのにこれかい」と思って、オーストラリアにスキー留学をすることにしました。実家は東京・京橋でスキー、アイスホッケーの専門店と喫茶店をしていたので小さい頃からスキーをしてきました。
留学先でヨーロッパの方が古いものを大事にしている習慣に触れ、心打たれたんです。ホームステイしていた家のおばちゃんが古い銅鍋でスープを作ってくれたんですけど、「これ、いいでしょう。ひいおばあちゃんの代から使っている、なんでも美味しくなる魔法の鍋なのよ」って。作った人もきっと嬉しいだろうし、こうやってストーリーがあるもので作ってもらった食事をいただく僕も嬉しい。長く使うことがいいとされる文化に触れ、大量生産、大量消費の高度成長期の日本で、僕は長く大事にしたいものに囲まれた生活がしたいと思いました。
帰国して、たまたま実家近くの粗大ゴミ置き場で見つけた柱時計にビビッと来てね。壊れて動かなかったんだけど、修理して綺麗にして、油を注したらまた動き始めたんです。なんだか自分で命を吹き込んだような気持ちになって、これが僕のコレクション1号です。そのあとは不二家のペコちゃんに、アメリカを感じるようなコカ・コーラの看板などを集め始めました。
── 年代物のコレクションを多くお持ちのイメージですが、新しく発売されるおもちゃにも、ときめくことはあるんですか。
北原さん:ありますよ。「日本おもちゃ大賞」の審査委員長をさせてもらっているので、新しいおもちゃに出会う機会があって。「よくこういうものが作れたなぁ」と感心してしまうほど、新しいおもちゃにも面白いものがたくさんあります。超合金のおもちゃも立派だったなぁ。おもちゃはいつの時代のものも、作り手や作家さんの想いが込められていて、それが伝わってきますね。
おもちゃをたくさん持つ孫に「何も言えず」
── 取材でお邪魔している素敵なご自宅にも、世界中のおもちゃが美しく並んでいて、見ているだけでワクワクします。大人でもこうなんですから、この環境で育ったお子さんが羨ましいです。
北原さん:うちの子どもは小さいとき、「これはパパのだから」と言って僕のコレクションには触れてきませんでした。大事にしているのを知っていたからですかね。家は玄関入ったところからおもちゃがたくさん飾ってあったので、友達が来るとびっくりしていたんですけど、同じように説明をしてガードしてくれていてました。
ところが、今、孫が来ると大変です。見るものすべて触ってみたくて仕方ないんでしょうね。孫が来るときは見えないように隠しちゃいます。うちの孫はおもちゃをたくさん持っているのですが、ちょっと与えすぎだし、あんまりたくさんあると飽きっぽくなって大事にしなくなると思っているんです。でも妻は「自分でおもちゃをいっぱい持っている人は、そんなこと言えないよね」と(笑)。もちろん全部大事にしているんですけどね。
ものを大事にする原点
── 使い捨てのものも多い現在、ものを大切にし続けることは難しい世の中のように感じます。
北原さん:僕ら団塊の世代は、最高の時代に生きていると思っているんだけど、その理由は「ものがなかった時代」から「ある時代」に移行する過程を見ていることだと思っています。だからこそ、ものを大事にできるんじゃないかなぁ。
実家で喫茶店を営んでいた父は、新しいものが好きだったので町でいち早くテレビを買ったんですが、そのときは町内中の人がやって来ました。みんなで集まってプロレスの力道山を見るとか、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』の世界そのものでした。
冷凍庫が登場し、今まで家では食べられなかったアイスクリームを入れておけたときの喜びとかね。僕がものを大事にしたいと思う原点は幼少期の経験が影響していると思います。今の若い人は、できなかったことが可能になるっていう感動はないかもしれないけど、自分が好きなものはそれを見るたびに思い出もよみがえってくるから、ぜひ長く大事にしてほしいなと思いますね。
── いつかご自身のコレクションを展示する20世紀博物館を作りたいとおっしゃっていましたが、北原さんの原動力はなんでしょうか。
北原さん:ときめきでしょうね。コレクターは熱が上がるときと下がるときがあると聞きますが、僕の場合はありがたいことに、20歳から78歳の現在まで、58年間右肩上がり。いろんなものを見ているうちに、だんだんと昔のような感動がなくなるという人もいますが、僕は今でも新しい出会いがあるたびに嬉しさが込み上げてくるんですから、幸せですよ。ときめきの数と幸せは比例すると思っていますし、まだ出会っていないものが世界中にたくさんあると思うと、ワクワクします。
取材・文:内橋明日香 写真:北原照久