「崖っぷちアイドル」と命名した功罪
── 熊切さんと言えば「崖っぷちアイドル」のイメージを持つ方も多いと思いますが、ご自身で名乗ったのが始まりだったそうですね?
熊切さん:テレビ番組で明石家さんまさんから「何をされている方ですか?」と聞かれてとっさに「崖っぷちアイドルです」と、答えたのが発端でした。タレントというほどテレビにも出ていないし、グラビアも卒業してやっていなかったので。それがきっかけで話題にもなって、お仕事をいただくようになりました。ただ、自分でそんな肩書きの看板を掲げたことへの苦悩もありました。
「崖っぷちアイドルだからなんでもやる」という立ち位置になってしまい、「予定していた方がこれをやりたくないとNGになったから、あさみちゃんならできるよね?」という代打のお仕事が増えました。たしかに、当時は本当に崖っぷちでしたから「これはチャンス。代打のほうがよかったと言われるようにがんばろう」とポジティブでした。でも、それが何年も重なってくると、1回きりだからがんばれたものも、2回目は体が拒否してできなくなってしまって。
わかりやすく言うと、バンジージャンプなどの恐怖感が大きい仕事が無理でした。1回目こそ「私は崖っぷちアイドルだから挑戦しないと!」と、勢いでいけたのですが、1度怖さを知ってしまっているから、2度目は体が拒否して…。精神論だけではやれなくなってしまったんです。「崖っぷちアイドル」という肩書が裏目に出て、正直、限界を感じるようになりました。自身がかけた看板なのに、言った通りにできてないなって。私が夢見た芸能界のお仕事とは違う、と複雑な気持ちにもなりましたね(笑)。
キャバクラ修行がバレて「1か月で退職」
── 崖っぷちアイドルとして呼ばれるお仕事が、ご自身を苦しめてしまった。そのイメージ脱却に向けて、そこからどのように舵を切って行ったのですか?
熊切さん:仕事を選べればよかったのかもしれませんが、仕事がなくてスケジュールが埋まっていないことがすごく怖くて、そんな立場ではありませんでした。とはいえ、自分の強みもなく、何かスキルアップしないといけない気持ちだけはありました。
私は高校生から芸能の仕事をしていて、社会を知らずにこの世界に入ってきてしまったので、ちょっと社会を見てみたいと思い、キャバクラで働こうと思い立ちました。芸能界でのトーク力や空気を読む力のスキルアップにつながるのでは、と思ったのです。
東京から新幹線で1時間ほどの地方のキャバクラで友だちと一緒に住み込みで働くことに。事務所にも内緒にしていました。お店で「熊切あさ美に似ているね」と、バレそうになることもありましたが、「妹です」とごまかして乗り切りました(笑)。
トーク力がついたかというと、何とも言えませんが、その期間は正直すごく楽しくて。というのも、それまで夜遊びをしたことがほとんどなかったので、その年齢にして友だちと飲み明かして、早朝のカラスを初めて見る経験もして、人間力をつけるという意味ではすごくいい修行となりました。結局、事務所に見つかり1か月で強制的に終わったんですが。
そうした経験を経て、「仕事の量が減ってもいいから、やりたいことにまっすぐに向き合おう」と思って。それまでの事務所を辞め、勇気を出して新たに進み始めました。
「自分に正直に生きること」が自分を救ってくれた

── 仕事を失う恐怖があっても、結果的には自分に正直に前進なさったことが熊切さんが理想としていたご自身への近道になったのではないでしょうか。
熊切さん:そうですね。自分を信じることって難しいですが、それが出来たら新しい世界が見えてきますし、信じてあげられた自分のことを愛せるようになります。芸能界で壊れずに踏みとどまれたのは「偽りのない、自分」という自信です。自分を偽ると、自分がみじめになるだけ。正直に生きて、それでお仕事をやらせてもらえなければ、それはしかたないと受け入れられるというか。「自分に正直に生きる」ということが、何よりも自分を救ったように思います。
取材・文:CHANTO WEB編集部 写真:矢島泰輔 熊切あさ美