盆踊りで響き渡る河内音頭、歌うのは河内家菊水丸さん。30歳ころから年2回の人間ドックを怠りませんでしたが、知らぬ間に甲状腺がんの転移が進み、50歳のとき、「魚の骨が刺さった感覚」がまさか、歌手生命を脅かす余命半年の危機を迎えるとは…。日常に潜む病や死について考えます。

魚の骨を抜いてもらうはずが「がん告知」

── ロックやレゲエなどを取り入れて河内音頭の可能性を広げてきた、伝統河内音頭承継者の河内家菊水丸さん。皇太子時代の現・天皇陛下の御前で河内音頭を披露したり、紅白歌合戦にも出場したりするほか、世界各国から招待も受けてきました。しかし50歳のとき、歌い手としての大きな危機に瀕したそうですね。

 

河内家さん:今でもはっきり覚えています。2011年11月、のどに魚の骨が刺さったような違和感を持ちました。物が飲み込みづらく、時間がたってもその状況に変化がないので、「魚の骨を抜いてください」と病院に行きました。でも、魚の骨は見つからず。エコーで診てもらうと、胸の甲状腺のあたりで医師の手が止まり、医師が「あっ」と小さな声を上げたんです。

 

「甲状腺がんです。すでに転移が始まっているので、すぐに甲状腺専門病院で細胞診してもらってください」と、その場で診断と告知をされました。ちょうど、50歳になる年でしたが、まさかと思いました。こちらは魚の骨を抜いてもらおうと気軽な気持ちで受診したのに、いきなりのがん告知です。とくに私は30歳から年に2回人間ドックを受け、まわりに「30代からそこまでやらなくても大丈夫じゃない?」と言われるくらい、健康管理してきたつもりだったんです。

 

しかも、甲状腺がんは罹患する男女比率が男性約1に対し、女性が3から4と、女性に多く見られるがんなので、調べてもいなかったんです。紹介された甲状腺がん専門病院の待合室も、女性がほとんどでした。

 

── そんなに女性患者が多いがんなんですね。専門医の診断は?

 

河内家さん:針を刺して細胞を採取する細胞診で陽性が確定し、がんが声帯に浸潤し、巻きついているという説明を受けました。その専門病院では「気管切開手術をしてがんを取り除けば、命は助かります」と、言われました。これは声帯も含めて取り除くという意味で、歌手にとって一番恐ろしいことをいとも簡単に言われて、あせりました。

 

「ちょっと待ってください。声帯をとると声はどのくらい出るんですか?」と聞いたら、「これくらいです」と吐息程度で…ほとんど声になりません。「では、手術しなければ?」と食い下がると、「余命はほぼ半年です」と。詳しく質問すると、先生が「手術をしないと余命半年ですが、進行を遅らせる薬を使えば、翌年の10月くらいまでは生きられるでしょう」とおっしゃったので、「翌年の盆踊りの間は生きていられる!」と思いました。手術して声帯をとり歌うことをやめるか、ひと夏歌って余命半年を終えるか、の二択。私は、迷いなく、後者を選びました。