世界最強の兄弟として知られる井上尚弥・拓真、両チャンピオンのいとこである浩樹さん。幼少期から練習を一緒に行い、プロの道へ進み、3人とも世界チャンピオンに輝きました。「モンスター」と称される尚弥さんと同じボクサーゆえに感じた葛藤から、近年で最高の試合と評価された中谷潤人戦の舞台裏まで聞いちゃいました。

小学生の頃から違った「練習への向き合い方」

── いとこの井上兄弟とは、はたから見たら、つねに比較される存在に思えます。とくに尚弥さんに対して、重圧を感じたり、意識をしたりしませんでしたか?

 

井上さん:いえいえ、小さなときから一緒にボクシングの練習を行い、尚弥のセンスのよさを知っていましたから。小学生なのに自分のペースでパンチを打ち続けて相手を倒したり、滅多打ちしてレフェリーにストップされたり、そういう試合ばかりだったんで。当時から怪物ボクサーの片りんを見せていました。

 

尚弥とは高校生になるくらいまで一緒に練習していました。「練習だるいなあ」「やりたくねえなあ」って、お互い口にして。でも今思うと、尚弥の練習に取り組む姿勢は、当時から僕とは違っていた気がします。自分の思い描くボクシングの理想の形が頭にあり、そこに近づけるために練習を積み重ねる感じ。そういうのは僕にはいっさいなかったですね。

 

与えられた練習メニューをただこなすのと、自分で課題を見出して考えながらやるのとでは、まったく違いますよね。練習時間は同じでも、その差によって成長度合いは大きく変わるわけです。

 

井上浩樹
浩樹さんはXでファンに引退を報告し、第2の人生を歩むことを綴った

── プロになってもボクシングの理想形を目指し、取り組み続けている。それが今につながっていると。尚弥さんが他のボクサーに勝るのはどんなところでしょうか。

 

井上さん:パンチ力や技術はもちろんですけど、いちばんはメンタルの強さだと思います。プロとはいえ、ボクサーだって相手からパンチはもらいたくないんです。当たれば痛いし、何より恐怖だからです。でも尚弥の場合、その恐怖が感じられないんですよ。

 

相手のパンチに対して通常は、反射的に目を閉じてしまうんですけど、映像や写真をチェックすると、尚弥は目を開けたままパンチをちゃんと見て避けている。その避け方も大きくバックステップしたら、自分のパンチが届かなくなるから、攻撃を繰り出せるギリギリの体勢なんです。こうした駆け引きを楽しんでいる様子が、練習や試合を見ていてもわかるんですよね。楽しめるのは絶対的な自信であり、メンタルや気持ちの強さだと思うんです。

復帰を後押ししてくれた尚弥のツイート

── では、同じ道を歩んでいる井上兄弟はどんな存在ですか。

 

井上さん:尚弥も拓真も、いとこというより「家族みたいな存在」ですね。一緒にボクシングの練習に励み、ゲームをやったりして同じ時間を長く過ごしてきたので、人生の一部というか。三者三様で性格が違いますし、僕はアニメ好きのオタクファイターとして独自のキャラを築いていたので、比べられる感じではなかったと思いますが、もしかしたら比べられないように、無意識に逃げていたのかもしれませんね。

 

ふたりの存在は、僕にとって葛藤というよりも励みです。彼らがいたからこそ厳しい練習に耐えられて、ここまでボクシングを頑張ってこられた。僕ひとりだったら絶対続けられなかったでしょう。実際、僕は2020年2月にボクサーとしての自信をなくし、現役を一度は引退したんです。2022年7月に復帰したんですけど、その道筋を作ってくれたのは尚弥なんです。

 

再び自信を取り戻し復帰を決断したものの、所属ジムの大橋会長になかなか復帰の意思を言い出せずにいるときでした。尚弥がTwitter(現・X)に僕の写真をアップし、「この人、復帰まだかなあ」「早くしてくれないかなあ」などとツイートしてくれて。尚弥のツイートは大橋会長も目にしているので、僕が言い出しやすい雰囲気作りをしてくれたわけです。