障害者雇用の現場で起きたすれ違い
── 運転ができるようになってから、仕事を探されたそうです。
有本さん:車があれば通勤もできるので、「社会とつながるために仕事をしたい」とハローワークに通い始めました。でも、そもそも障害者雇用の枠は少なく、人並みの給与がもらえるだけの仕事はごくわずか。その現実に衝撃を受けると同時に、障害者向けの支援施設で働いていたのに、現実をまったくわかっていなかったことを反省しました。
それから相談員の方に何度も相談しながら求職活動を続けて、やっとある企業で採用が決定。障害者雇用で事務職として働き始めました。
── 仕事はいかがでしたか?
有本さん:それまで、老人ホームや障害者支援施設で働いたことはありましたが、事務はまったく初めてでした。ただ、会社側は私の症状や状況も理解してくださって、部署の同僚の方も「何かあったら相談してください」とすごく好意的だったんです。
当時は障害者雇用とはいえ残業もして、同僚のみなさんと同じ業務量で働いていました。しかし麻痺がひどくなり、入社5か月目のときに筋肉のこわばりを和らげるため筋弛緩剤を直接注入する機械を腹部に入れる手術を行うことになったんです。手術のためひと月お休みをいただき職場復帰したあと、同僚から無視をされるようになりました。
その理由を尋ねると「有本さんはお手洗いや休憩で席を外す時間が長すぎる。そのうえ、管理職から守られているのが気に食わない」と言われました。それまで症状や状況を理解いただけていると思っていたので、実際はそんなふうに思われていたのかと驚きました。
── 最初は優しかった同僚からそう言われ、ショックも大きかったと思います。同僚の方の言葉に心当たりはあったんでしょうか?
有本さん:休憩については、ずっと座った状態だと足がこわばってしまうため、休憩スペースで足をマッサージしてほぐす時間を取ることを許可されていました。みなさんに申し訳ないので、数分ですませ、回数も抑えてはいたんです。
お手洗いは、足が動かない状態での移動や服の脱ぎ着のほか、病気の関係で排泄の障害もあり、どうしても時間がかかってしまいます。会社側とは入社前にそうした状況を詳細に共有していて、同僚達にも共有されているのだと思っていました。でもひょっとしたら、単に時間がかかるということだけの共有で、なぜそうなるのかの理由までは伝わっていなかったのかもしれません。今考えると、そうした部分でのすれ違いがあったのかもしれないです。
── お話を伺って、見えづらい障害や困まりごともあり、どこまで、どう共有していくのかは難しいのだと感じました。
有本さん:私も、排泄障害のことなどは話しづらい話題で同僚達には明確に話していなかったので、開示できていたらもう少し関係が円満になっていたのかなと思うこともあります。でも、障害のあるなしに関わらず、個人のセンシティブな事情を職場でどの程度開示するかは悩ましい問題だなと感じます。
また、本当のところは席を立つ時間以外にも無視の理由があったのかもしれません。あくまで私の推察でしかないのですが、同僚の方も「障害者雇用だから、配慮しなければ」と、入社後からずっと私に気をつかっていた部分があったのだろうと思うんです。そうした気配りや我慢が積もって、障害への配慮が「守られている」「ひいきされている」という意識につながってしまったのかなと思います。
人事部に相談しましたが、結局その後も無視は続いて。仕事にも支障が出るようになり、1年の契約更新のタイミングで退職しました。
障害者雇用、就職がゴールではない
── 会社側は事情を理解したうえで採用したものの、現場までその理解は及んでいなかったと。就職後の定着が障害者雇用の課題のひとつだとも言われていますね。
有本さん:企業の法定雇用率が決まっていますが、個人的には単純に数で決めるのはどうなのかなと思っています。障害者側としては就職するのがゴールではなくて、長く働き続けることがゴールです。障害者を雇ったとしても、現場はどう対応していいかわからず負担になってしまったり、どんな仕事をしてもらえばいいかわからないケースが多いと聞きます。それにより障害者が一度就職したものの、職場でうまくいかなくてやめてしまう方も多いんです。
難しいとは思うのですが、なにか困りごとが出た場合に抱えこまずにすぐに共有し合える環境、特に、障害者側だけではなくて、障害者を受け入れる側の現場の声を聞く場があるといいんだろうと思います。障害があってもなくても、結局は人と人同士。ただ雇用して終わりではなく、お互いにコミュニケーションして、それぞれに納得しあって働ける仕組みづくりが必要だと感じます。

── 現在、有本さんは自分と同じ車椅子ユーザーの自立支援の取り組みを行なっています。
有本さん:退職後にまたハローワークに通ったもののなかなか次の仕事が見つからなくて、「じゃあ気晴らしにネイルでもしよう」とネイルサロンを訪れたら、車椅子を理由に断られてしまったんです。それで、以前からネイルに興味があったこともあり、「仕事もない。おしゃれもできない。ならば自分で仕事にしてみよう」とバリアフリーのネイルケアサロンを立ち上げました。
今はネイルのケアだけでなく、現在は車椅子ユーザーの方向けにネイルの技術を学べるオンラインスクールも始めました。ネイルは上半身が動けば施術ができますから。まだまだ障害者の仕事の選択肢がないなかで、その技術がみなさんの自立の一歩につながったらと考えています。
取材・文:阿部祐子 写真:有本奈緒美