26年7月より障害者の法定雇用率が2.5%から2.7%へと引き上げられ、さまざまな課題が議論されています。「障害者雇用で就職したものの、同僚とのすれ違いが生まれて」と話すのは、HTLV-1関連脊髄症という難病を抱える有本奈緒美さん。車椅子を使う障害者になったことで感じた社会の壁、雇用の壁について話してくれました。

車椅子姿に注がれる視線が痛くて

有本奈緒美
2015年、足の麻痺が進み装具を製作したとき

── 有本さんは、2014年にHTLV-1関連脊髄症と診断され、歩行障害により現在は車椅子生活を送られています。車椅子を使い始めた当時は、周りの目が気になられていたそうですね。

 

有本さん:初めて車椅子で外出したときに「見られている」と痛烈に感じました。チラチラ見るだけでなく、私の姿を上から下までジーッと眺める方もいて、とてもつらかったです。

 

── 見ている側はほとんどが自覚も悪意もなく、助けが必要なのか気にしている人もいるかもしれません。しかし、当事者の方には「見られている」ことが大きな負担になるものですね。

 

有本さん:職業支援員として働いていた際、障害者の方と一緒にポスティングするなかで視線を感じた経験があり、障害者に向けられる視線については理解した気になっていました。でも、実際に当事者になってみると「まったく違う」と衝撃を受けたんです。とにかく猛烈というか「視線が痛い」という感覚でした。

 

── 外に出るのがつらくなり、その後しばらく家に引きこもるようになったそうですね。

 

有本さん:障害の引け目から友達とも疎遠になり、仕事も辞めて社会とのつながりがなくなり、精神的に追い詰められていきました。同時にひとりで何もできないことへの家族に対しての申し訳なさが高まって、ある日「ママのこと、恥ずかしいと思っているんでしょう」と子ども達に気持ちをぶつけてしまったことも。

 

でも、それに対し子どもが「どんなママでもママだよ」と言葉をかけてくれて。その言葉に「泣いている場合じゃない。かっこいい車椅子のママになろう」と決意したんです。

ラメ入りの車椅子が変えたコミュニケーション

──「かっこいい車椅子のママ」とは具体的にどんなイメージでしたか?

 

有本さん:そのとき考えていたのは「外に出て、バリバリ働くママ」でした。その実現のために、まずは車にアクセル・ブレーキを手元で操作できる運転補助装置をつけて、ひとりでも車を運転できるようにしました。子どもたちの送り迎えなどに出かけたり、外にアクティブに出ていけるようにしたんです。

 

── 以前は外出すると人からの視線が苦痛だったとおっしゃっていました。しかし、その視線の受け止め方にも変化があったそうですね。

 

有本さん:障害があると、どうしても「かわいそう」という暗いイメージを持たれることが多いと思うのですが、私はそのイメージを明るくしたくて、ラメの入ったピンクの車椅子を使い始めたんです。この車椅子に乗るようになったら街でいろんな方から「かわいい」「それなら私も乗りたい」と声をかけられるようになって。知らないおじいさんから「それ高いんだろう?」と興味津々で聞かれたこともあります(笑)。

 

今も外に出ると見られることに変わりはありません。でもそうしたコミュニケーションの積み重ねによって少しずつ自信も生まれて、視線の受け止め方もポジティブなものに変わってきました。ちょっとしたコミュニケーションでも、障害者側の視線への意識は変化するし、周りの方の障害へのイメージが変わるきっかけになるのではないかと感じています。