元夫から精子提供を受け、「選択的シングルマザー」として娘を育てているジュリワタイさん。出産後、彼女が新たに向き合うことになったのは、「この子に、どう出生を伝えていくか」という問いでした。
「隠す」という選択肢が消えた日

── 子どもを望んでいたものの、当時婚姻関係にあった夫とは子どもを持つタイミングについて考え方が一致せず、元夫から精子提供を受けて娘さんを授かったジュリワタイさん。出産後、「選択的シングルマザー」として子育てをするなかで、娘さんに出生をどう伝えるかという問題にも向き合うことになったそうですね。
ジュリワタイさん:妊娠中は無事に生まれるかどうかばかりが気になって、出生についてどう伝えるかまで頭がまわっていませんでした。
ですが娘が1歳になるころ、「これから大きくなって言葉がわかるようになったら、どう説明したらいいんだろう…」と現実味が急に出てきて。大阪の男女共同参画センターへ行って資料を探したところ、AIDで生まれた方たちによる書籍を見つけたんです。
── AID(非配偶者間精子提供)は、夫以外の第三者から精子提供を受けることです。ワタイさんご自身は当時婚姻関係にあった夫からの精子提供でしたが、実質的にはAIDに近い状況だったと考えてらっしゃるんですね。
ジュリワタイさん:はい。そこで手記を参考にしようと手に取ったのですが、そこには出生について隠されてきた方たちが深く傷ついたということが書かれていました。「なぜ隠したんだ」という怒りが感じられて、「これはきちんと向き合わなければいけない問題なんだ」と衝撃を受けました。同時に、自分の身内にも出生について隠されて育った人がいたことを思い出しました。その方は高校生ぐらいのときに偶然、自分の「出自」を知ってしまい、ショックで家を出て何年も家族と連絡を取らなくなってしまったんです。
── 当初は精子提供から生まれた事実を隠すという選択肢も考えていたのでしょうか?
ジュリワタイさん:正直、どうするべきかわからなかったというのが本音です。私は両親がいる家庭で生まれたので、この子にとって何が一番いい選択なのか想像できませんでした。でもその本を読んで、「言わない」という選択肢は消えました。いろいろ調べていくうちに、子どもには「出自を知る権利」があることも知ったんです。「この子が生まれながらに持っている権利なんだから、親の都合で隠してはいけないんだ」と思いました。
先人のいない告白。 特別養子縁組をヒントに
── 以前、日本で行われていたAIDでは「提供者については匿名」というケースが多かったそうです。
ジュリワタイさん:そうした背景からなのか、私が調べた当時は、AIDで出産した親向けの情報や当事者のコミュニティなどもほとんど見つけられなくて、何を参考にしたらいいかわかりませんでした。
そんなとき、里親制度に関する自費出版の絵本を見つけ、特別養子縁組の方たちの告知手法を参考にしようと思ったんです。読み聞かせのためのガイドまでついていて、「物心つく前から当たり前のこととして話してください。1歳ぐらいから読んでください」と書いてあって。「そっか、これをしなきゃ」と思い、1歳ころから積極的に読み聞かせていました。
絵本を繰り返し読むうちに、「じゃあ私はどうだったの?」という質問も出てくるだろうなと思いながら、準備していました。絵本だけでは伝えきれない部分については、その都度自分の言葉で話していこうと考えていました。
── とはいえ、精子提供による出産と特別養子縁組とでは状況が違いますよね。
ジュリワタイさん:内容がそのままでは伝えきれないこともあり、娘が小学校に上がる前に自分で絵本を作ることにしました。「遺伝子」という言葉は子どもには理解しにくいと考え、「男の人の『かけら』をもらいました。ママの『かけら』と合わせました」という表現にしました。また、私が子どものころに伯父夫婦からもらった名前入りの絵本がすごくお気に入りだった記憶があったので、お気に入りの一冊になればという願いを込めて、名前を入れられるかたちにしました。
── 一番伝えたかったメッセージは何ですか?
ジュリワタイさん:「どんな経緯であれ、あなたのことが大好きだよ」ということです。妊娠の経緯は一般的ではないかもしれないけれど、「愛されて生まれてきたんだよ」ということだけは、ちゃんと伝えたいと思いました。