スマホで愛の告白から犯罪までできる時代に
── 時代を感じますよね。
的場さん:今では家に電話がある人も少ないですが、僕が学生のときは、公衆電話から好きな女の子の家に電話をかけて、「1コール鳴らして切るから、そのあと出てよ」と言って。十円玉をたくさん準備して、公衆電話の上に並べてかけていました。ところが、電話に出た相手はその子じゃなくて相手の親父でドキッとしてね。スマホでのメッセージのやり取りにはそのドキドキってあるのかな。今思えば、あのスリルは結構楽しかった。
顔が見えないゆえの犯罪も増えましたよね。目に見えない人を信用しちゃう若者が増えたのは、スマホが出てからなのかなと。昔は、顔が見えない人間から何かされるってことは少なかったんじゃないかな。「やべぇ」って思ったらそこからダッシュで逃げたらよかった。今はスマホでなんでもできちゃうからすごいんだけど、愛の告白から犯罪までできるようになってしまったんだなと思うと、ひと昔前のコミュニケーションで培ってきた管理能力とか恋愛の甘酸っぱさっていうのは、なくなっちゃったのかなって思いますね。
僕は典型的な昭和な人間だと思うけど
── 結婚前後の頃は、奥さんとはどうやって連絡を取っていたんですか。
的場さん:当時は電話とか手紙、ファックスでした。僕は仕事の連絡のために必要なので携帯を持っていたんですが、通話料がすごく高くて仕事以外には使うことはなかった。まだそんなに携帯が普及していなかった頃でした。
仕事で東京を離れて、京都に半年行くようなときは、奥さんに電話や手紙で文通をしていました。泊まっているホテルもずっと同じだったので、宛先も変わらなくて。切手をフロントで買って、手紙はホテルの部屋にある便箋と封筒に書いて送っていました。秋には、紅葉を押し花にして一緒に送ったこともありましたね。
── 京都の紅葉!風情がありますね。
的場さん:今考えると相当、気持ち悪いですね(笑)。でも、手紙は自分の気持ちに嘘はつけないし、送っちゃったら後にも引けないし、味があるなって思いますね。
── 手紙は相手が受け取ってしまったら、携帯のメッセージのように取り消すこともできませんしね。来年でご結婚30年を迎えるそうですが、今も奥さんと文通は?
的場さん:便箋と封筒のやりとりはさすがにないけど、奥さんとは今も書き置きで、ある意味で文通はしています。家を出るタイミングに奥さんがいないときはメモを書いていくんですけど、「行ってきます。たぶん夕方には戻ります」と書いて、テーブルに置いておきます。僕が帰ってきて奥さんがいないときは、「買い物に行ってきます。何時頃には戻る予定です」と書いた紙が置いてありますよ。
── お互いがいないときも相手の存在を感じますね。
的場さん:手書きで文字を書くっていうのがいいよね。もしかしたら奥さんが僕に合わせてくれてるのかなって思いますけど(笑)。今はスマホで送ったメッセージに相手の既読がつくかどうかを気にする人もいるみたいだけど、基本的に相手に何か送るときは一方通行だと思ってるんだよね。返事や見返りは期待しない。返事を期待したいなら相手にわかるように「お返事ください」って書かなきゃ。
手紙は、基本的に相手からの返事を期待せずに「ご自愛ください」と相手をねぎらうとか、「またお目にかかれるのを楽しみにしてます」というような内容を文末に書くものだよね。
僕はスマホが苦手ってこともあるけど、やっぱり人とは会って話すのがいいし、文章で伝えるなら手書きのほうが伝わると思ってます。スマホで会う約束はするけど、長くやり取りをすることはまずないね。その時間があるなら、直接会ってお茶でもしながら話したほうがいいって思っちゃう。いろんな意見があると思うけど、僕は典型的な昭和の人間で、あの時代の感覚がやっぱり好きですね。
取材・文:内橋明日香 写真:的場浩司