未経験ながらも夫である親方と二人三脚で部屋の伝統を築いている放駒部屋おかみおの美智子さん。5歳と2歳になるふたりの息子の母として、おかみ業と家庭のバランスを工夫して奮闘しています。

相撲に口は挟まないけど、助け舟はこっそり

放駒親方とおかみの美智子さん

── 2019年、ご主人の元関脇・玉乃島さんが旧二所ノ関部屋を継承する形で、放駒部屋を創設。美智子さんのおかみさん生活がスタートしました。それまで働かれていたネイリストとはまったく畑が違う仕事かと思いますが、いかがですか。

 

美智子さん:ネイリスト時代は女性社会で、男性の話を聞くことがほとんどなかったので、おかみになって出会ったことがないジャンルの方々とお話しできる機会が増えました。そんな日々が楽しく、ありがたくも感じています。

 

── 部屋には若いお弟子さんたちもいらっしゃいますよね。普段から声をかけたりされるのですか?

 

美智子さん:相撲部屋には師匠と弟子、兄弟子と弟弟子という上下関係がありますが、先輩である兄弟子が弟弟子を指導し、あとから入門した弟弟子は兄弟子から相撲部屋の生活やしきたりなど兄弟子を通じて学んでいきます。だからこそ私からはあまり口を挟まないようにしているんです。目に余るようなことや、「それは少し違うんじゃないの」と思うようなことがあれば、それだけ注意するようにしています。

 

── 相撲自体には口を挟まないのですね。現場では親方やお弟子さんと関わりを持つことはありますか?

 

美智子さん:たとえば親方が稽古に熱が入り、力士たちを一方的に叱っているときは少し間を取り持ったり。力士たちが親方が怒っている理由がわかっていないときには、親方にわからないように助け舟を出したりすることはありますよ。

 

力士たちの気持ちが緩んでいると、身の回りのことも「誰かがやってくれるだろう」という甘えが出てきて、整理整頓などが疎かになることがあるんですね。そうしたときは、「放置したままだけど大丈夫」「また親方に怒られるよ」と、さりげなく伝えています。

 

── 親方が部屋を継承し、美智子さんがおかみになって4年ほどが経ちました。おかみさんが今、いちばん大事にされていることは何でしょう。

 

美智子さん:この世界に入ってあらためて実感しているのが挨拶の大切さです。礼儀作法を重んじるのが相撲界です。おかみになった当初は「この方はどなただろう」と迷っているうちに、挨拶をするタイミングを逃すことが多かったんです。でもあとになって後悔して。迷うくらいなら相手にどう思われようが挨拶しておけばよかった、と。仮に挨拶をした相手が知らない方でも、しないよりはいいと思っています。

 

── 先代のおかみさんからの学びも大きかったそうですね。

 

美智子さん:先代おかみさんの気遣いは本当に素晴らしかったんです。千秋楽パーティーなどで来ていただいたお客さまに対してはもちろんですが、裏方さんたちのケアなど、気配りがとても細かくて。ご一緒するたびにそのすごさを目の当たりにしていましたし、いろいろと勉強させていただきました。

 

おかみになるまでこの世界をまったく知らなかった私にとって、「おかみ」という仕事を学べるお手本は、先代のおかみさんしかいませんでした。そんな先代のおかみさんや裏方さんに言われたのは「おかみは縁の下の力持ちでなければならない」ということですね。「女将」は表に出る〝おかみ〟。ですが、「おかみ」は表に出ずしてサポートする裏方の存在だということ。そこは今も肝に銘じていることです。