定期的に反対する母の言葉がやる気につながる

── 2011年4月に吉本興業の養成所である「よしもと沖縄エンターテインメントカレッジ」に入って経験を積んだ大屋さん。2018年、手話コメディー集団「劇団アラマンダ」を立ち上げたそうですね。聞こえる人も聞こえない人も楽しめる劇団とのことですが、どんな経緯で設立にいたったのでしょうか?

 

大屋さん:養成所に入ったときに「いつか手話とお笑いを融合させてみたい」と考えていました。とはいえ、お笑い自体をよく知らないままこの世界に飛び込んだし、自分のなかに引き出しがなかったから、ずっと何をどうしたらいいのかわからなかったんです。

 

2014年、ガレッジセールのゴリさんが「おきなわ新喜劇」を立ち上げました。那覇市の国際通り沿いにできた常設劇場「よしもと沖縄花月(2022年閉館)」で毎週、公演を行っていて、私も参加させてもらったんです。そこで新喜劇のお笑いについて学びました。

 

そのときに「新喜劇に手話をつけたらおもしろいだろうな」と感じました。経験をつみ、自分のやりたいことのイメージが少しずつできていくなか、2年後の2016年4月1日に「沖縄県手話言語条例」がスタートしました。これは聴覚に障がいがある人とそれ以外の人が、意思疎通を行うために「手話」が必要な言語だという認識のもとに、手話の普及を図るものです。

 

その条例にまつわるイベントが数多く開催されるなかで、私も「手話ができる芸人」として呼んでいただく機会があって。手話通訳時代の仲間に再会したり、手話に関わる人たちと知り合ったりしたんです。それで2018年「沖縄聴覚障害者情報センター」5周年のお祭りで聞こえる人、聞こえない人でも楽しめるお笑いを披露してほしいと依頼されました。

 

──どんな演目を行ったのでしょうか?

 

大屋さん:所属する「よしもとエンタテインメント沖縄」の仲間を呼び、手話つきの漫才や、言葉がなくてもおもしろさが伝わる、体を張った芸を行いました。芸人たちが頭の上でテーブルクロス引きをしたり、ゴム手袋を鼻までかぶって鼻息で割ったりする芸を披露すると、ろう者の方々がとても喜んでくださって。そのときにようやく、ずっと自分のやりたかったものが形になった気がしました。その後、よしもとエンタテインメント沖縄の仲間と一緒に劇団・アラマンダを立ち上げました。

 

じつは、母は私が芸人になることをずっと反対していたんです。「芸事では食べていけない。この先どうするの?」と言われ続けていて。娘を持つ親としては心配になるんだろうなと思いました。私自身も母の言いぶんはその通りだと思うし、焦る気持ちもあります。でも、お笑いを始めてからは楽しくて辞める気はありませんでした。「いつか母に認めてもらいたい」という気持ちも抱いていて。実際に劇団・アラマンダの公演を観た母は、とても楽しそうに笑っていたんです。

 

── ようやくお母さんに認められた瞬間だったのですね。

 

大屋さん:母が喜んでくれる姿を舞台袖から見て、すごくうれしかったです。でも、そこで終わらなくて…。母は公演が終わってしばらくは応援してくれるんですよ。でも、時間がたつと気持ちも冷めるのか、「この先どうするの?芸事は食べていけないよ」と、また同じことを言われるんです(笑)。これは定期的に公演を続けなくては…と思いました。でも、それがモチベーションにもつながっています。ある意味とてもありがたいです。

 

私は自分のことをすごくラッキーだと思っています。これまでの人生を振り返ると、大きな転機があるんですよ。先ほどお話した、面接でお笑いを勧められたのもそのひとつです。実際にお笑いを始めて数年経ち、しんどいなと思ったタイミングで大きな仕事をいただいたこともあります。こうして手話とお笑いを融合させられたのも、いろんな縁に恵まれたおかげです。

 

── 今後の目標はありますか?

 

大屋さん:これからも、手話とお笑いの融合をめざしたいです。そして、もうひとつの大きな夢として、手話をもっと普及させたい。手話はひとつの「言語」です。だから、ろう者の方のなかには音声言語の日本語が理解できない人もいます。とくに私の親世代は、文字に書かれた言語(日本語)を見ても理解するのが難しい人もいます。だからテレビなども字幕をつければみんなが理解できる、というわけでもないんです。

 

とても壮大な夢なんですが、テレビや舞台、雑誌などで当たり前に手話がついている世界になったらいいなと思っています。テレビには当たり前に手話通訳が映っていて、雑誌にはQRコードが載っていて、読み込んでアクセスしたら手話通訳の動画が見られるといったふうに。そして、たくさんの人に楽しく手話を学んでもらえたらとも思います。少しでも手話に興味を持ってもらえるよう、たくさん公演できるよう頑張りたいし、SNSでの発信もしていきたいです。

 

取材・文/齋田多恵 写真提供/大屋あゆみ