「70代になって」後悔しないよう走り続ける
── ものすごくパワフルでいらっしゃいますよね。
渡辺さん:決してパワフルではないですよ。もともと病気がちでしたし、体は丈夫なほうではありません。でも「自分の信念を貫きたい」という思いが強いのだと思います。高校のころから「戦争をなくしたい」とずっと願ってきたのに、いまだに紛争は起きているし、それどころか激しくなっている。富めるものが貧しい人たちや弱者のめんどうを見たりするような、そんな世の中にならないものだろうかと思うんですけどね。

そして、フェミニズムや女性問題については、日本ではまだ男女の格差がありますし、要職につく女性は少ないですよね。そもそも男性側が差別に気がついていないのが問題です。それが異常な状況だということを私たち女性がもっと伝えていかないといけないなと思うんです。いつ死んでもおかしくないような年代にさしかかってきたこそ、あきらめないで、いまのうちにできることを精一杯やりたい。後悔しないためにムリして頑張っちゃってる感じですね。
── 独立して大変だと思うことはなんでしょう?
渡辺さん:やはりお金のことですね。芝居って、大入り満員でも赤字が出たりするんですよ。舞台を作り上げるためにはスタッフが何十人も関わっていますし、さらに生バンドを入れていたりしているので、お金がかかるんですよね。それをどうやって捻出するか、毎回、頭を悩ませていますね。そもそも「世の中お金がすべてじゃない」と言っているのに、現実的にはお金がないと芝居が作れない。それがもどかしいし、悔しいです。国から助成金が出たり、スポンサーがついたりすればいいんでしょうけれど、そういうこともこれから自分で探してやっていかないといけません。やることが山積みなので、休んでなんていられないんです。
── 70代も多忙な日々が続きそうですね。
渡辺さん:今年は古希の記念の年として、舞台や映画、コンサートも控えているので、頑張ってやりきることで頭がいっぱいです。6月には、私が前からずっとやりたかった『唐十郎追悼公演「少女仮面」』の舞台をやるのですが、演出と主演の両方を務めます。この作品は28歳のときにパルコ劇場で演じたことがあり、ありがたいことにとても評判がよく、幻の舞台と言われているんです。それを70歳になったいま、再びやろうとしています。全身脱いだり、ふつう70歳だとやらないような役。すごく迷いましたが、ラストチャンスだと思って挑みます。
12月には特別コンサートも予定しています。私は池袋の舞台芸術学院を卒業し、40歳ころまで池袋に住んでいたんですね。長く過ごした街で何かやりたいと思い、池袋のプレイハウスでコンサートをやります。70歳で古希のお祭りということで『70祭』というタイトル。これまでの作品で劇中歌をやってくれたミュージシャンの方々、そして、私が高校時代に影響を受けた大好きなロックバンド「頭脳警察」のメンバーも全員出てくれるんです。司会はテツandトモにお願いするなど、まさに70歳のお祭りのような賑やかで楽しいイベントになると思います。
来年もすでにスケジュールは真っ黒。いつまで続けられるのかはわかりませんが、やりたいこと、なすべきことがまだまだたくさんあります。いつ死んでも後悔しないように、頑張って走り続けます!
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66歳のときに独立して、今年は70歳のメモリアルイヤーを迎える渡辺えりさん。両親の死や16年以上連れ立った愛犬や愛猫との別れを経てもなお、悲しみにくれることなく、パワフルに活動を続けます。
PROFILE 渡辺えりさん
わたなべ・えり。1955年、山形県生まれ。「オフィス3○○」主宰。1983年、『ゲゲゲのげ』で岸田國士戯曲賞を受賞。以来、現在に至るまで、舞台や映画、テレビ、歌、戯曲やエッセイ執筆など、幅広く活躍。主演公演『唐十郎追悼公演「少女仮面」』(6月11日〜22日・下北沢スズナリ)、『70祭 渡辺えりコンサート ここまでやるのなんでだろ?』(12月20日・21日・池袋プレイハウス)が開催予定。
取材・文/西尾英子 写真提供/渡辺えり