芸人の未来だけは想像できなかったからこそ

藤本淳史
仕事で産業技術総合研究所へ

── 結果的に大学院に行かずに芸人になってよかったですか?

 

藤本さん:よかったですね。毎日が楽しいですし。芸人の仕事は繰り返しではなく、毎日仕事内容が異なります。飽きずにできるところが僕には向いているようです。

 

僕はRPGのゲームをするとき、洞窟とかで、その階にある宝箱を全部開けてから次の階に進みたいタイプなんです。その階のまだ探索できていない部屋に、もしかしたらすごい武器やアイテムがあるかもしれない。もちろん何もないかもしれない。でも、ないならないで、それを確認しないと気が済まないんです。

 

そんな自分がもし就職の道を選んでいたとしたら、「あのとき芸人になってたら…」と後悔していたはずです。芸人になったらどうなるかなんて、やってみない限りわからないからです。

 

逆に、あのまま大学院に行って就職した僕の未来は、なんとなくですが想像することができます。だから、今芸人である僕に「あのとき就職していたら…」という後悔はないんです。

 

── 今後の目標はありますか?

 

藤本さん:以前はコンビを組んでいましたが、2020年からはピン芸人として活動しています。コンビのときとは違うので、まだ模索している部分はあるのですが、全員が20〜60%笑ってくれるお笑いよりも、狭くニッチな範囲でもいいのでその人たちを100%笑わせることのできるお笑いができないかなと思っています。

 

あとは勉強に関する講演会もしています。僕は勉強に関して効率のいいやり方を知ることができました。それを知らなくて勉強が嫌いになり、してこなかった人もたくさんいると思うんです。そういう人たちにこんなおもしろい勉強の仕方があるんだと、発見になるようなことをもっと伝えられればと思います。

 

 

東京大学を卒業し、お笑い芸人になるという夢を叶えた藤本さん。順風満帆な人生を歩んできたように思えますが、実は、6〜7年前に自身も予想していなかった、ADHDの診断を受けることに。そのため、現在は自分をより俯瞰してみることを心がけているそうです。

 

PROFILE 藤本淳史さん

ふじもと・あつし。1984年生まれ、京都府出身。東京大学卒業後にNSC吉本総合芸能学院に入学。コンビ「田畑藤本」を結成したが、2020年に解散。現在はピン芸人として活躍。大人になってからADHDと診断される。

取材・文/酒井明子 写真提供/藤本淳史