夜8時まで保護者を待つ教員も…その切実な理由は

── 授業や学校での活動がありますから、教員がいじめなど個別に対応するのは放課後になってしまいますよね。

 

内田教授:そうです。そんな状況のなかでも、先生たちは保護者にいち早く連絡することを第一に考えています。大きな理由は2つあり、1つ目は、子どもから保護者に情報が伝わる前に、教員から客観的な情報を保護者に伝えるため。2つ目は、時間が経つほど被害者の保護者側に不信感が高まってしまうので、それを防ぐためです。

 

ですから、日中に保護者に電話しても仕事で出られないとなると、教員は保護者と連絡が取れるまで、場合によっては夜8時になっても待っている。ほかの行政機関や民間業者では基本的にありえないことですよね。

 

── 勤務時間が朝8時から夜8時までと考えると、かなりの長時間労働になります。

 

内田教授:いまは、従業員に残業させずに業務を回す環境やシステムづくりに熱心に取り組む企業が増えていますよね。しかし、学校はいまだにこういった残業が常態化していて、しかも公立校の場合は給特法という法律の規定により、残業代が出ません。では、なぜ教師が夜遅くまで保護者のために待っているのか。子どもたちへの想いがあるのはもちろんですが、保護者に気をつかっているからです。いろいろなタイプの保護者がいるなかで、教員は保護者に理解してもらえるかを最優先で考えていて、自分の働き方やライフスタイルはあと回しになっている印象があります。

 

学校はまず、この状況を変える必要があります。専門的なスキルを持った外部機関の力を借りながら、いじめの実態の解決に取り組んでいくことが必須だと思っています。

 

── では、子どもや保護者が、自分からアプローチできる専門機関はどういったところが考えられますか?

 

内田教授:実は私自身、あまり特定の答えを持たないほうがよいと思っていて。つまり、オルタナティブをたくさん作るということです。

 

私が中学生を対象にしたアンケートの結果でわかったことですが、「自分がいじめを目撃した場合は、先生に相談する」という子どもが多い一方で、自分が被害を受けた当事者になると、「先生ではなく親に相談する」という答えが増えます。置かれた立場や状況によって、相談先となる相手は異なることが考えられます。

 

たとえば、「担任には相談しにくいけれど、たまに学校に来るスクールカウンセラーだったら言えるかもしれない」、「保健室にいる養護教諭には言えるかも」、「学校の関係者は信じられないけれど、電話相談、チャット相談など、学校の外の機関だったら話せそう」など。こんなふうに選択肢がたくさんあることを、親御さんは、普段からいろいろな形で子どもに伝え続けることが大切だと思います。子ども自身が、「いろんな相談先があるんだ」と思えて、いつか自分に合った選択肢を見つけ、相談できるように。

 

現在、私が期待しているのは、小学校の高学年クラスや中学校で広がっている、「学年担任制」や「チーム担任制」です。この目的は、教員1人が1学級を持つこれまでの当たり前をなくすことで、複数人の教師が学年でチームを作り、週替わりで担任が入れ替わっていく方法です。私は今後、この「学年担任制」や「チーム担任制」にすごく期待を持っています。

 

かつては担任として学級を持つことで一人前として認められる、または学級王国を作ることが高評価につながるといった考え方が教育界では根強かったのですが、いまでは、状況が変わっています。逆に、「1人の教師が疲弊するような方法から、責任を分散させて、全体で協力し合う方法へ変えよう」という働きがけが加速しています。教員側の負荷を下げると同時に、子どもにとっての相談先を増やすのです。

 

── 担任の先生が複数人いれば、子どもたちは自分が話しやすい先生を選べて、相談しやすくなりそうですね。

 

内田教授:そうなんです。教員と子どもの相性が合わないことはどうしてもありますよね。だからこそ、担任が複数人いたほうがいいと思うのです。教員が体調を崩して次々に倒れている現状では、「みんなで責任を分散して、支え合っていくほうがいいでしょう?」という意味を含めて、「学年担任制」や「チーム担任制」は今後もっと広がっていくといいなと思います。

 

PROFILE 内田 良さん

うちだ・りょう。名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授。各メディアで家庭や学校の課題解決に向けて議論のきっかけを作っている。著書多数。『いじめ対応の限界』『教育現場を「臨床」する:学校のリアルと幻想』『ブラック部活動 子どもと先生の苦しみに向き合う』など。

 

取材・文/高梨真紀 写真・画像提供/内田 良 (※)文部科学省「令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」より