転び方がヘタで、ケガや骨折する子が増えているといいます。状況を改善するために大切なのは何か?幼児・小学生の運動教室や中学・高校の部活動で、子どもたちと接する機会が多い理学療法士の加地真也先生に話を聞きました。(全2回中の2回)
知っておくといい「スキャモンの発育曲線」とは
── 転ぶ子が増え、ケガするケースが多いといいます。なぜでしょうか?
加地先生:幼少期における外遊びの経験や運動機会の減少、タブレットなどを見る時間の増加が要因と考えられます。身体を動かしたり支えたりする方法を学ばないまま成長した結果、転びやすくなっています。また、転び方がヘタで身体を支えられず、ケガにつながるケースも多いです。これは成長期に適切な運動をしないため、骨と筋肉、神経が発達していない可能性もあります。子どもが成長するうえで、運動はとても大切です。人間の身体は20歳までの間に身長や臓器が大きく成長していきますが、この時期にたくさん身体を動かして身体に適切な負荷をかけることで、丈夫になっていくのです。
── 20歳までの間に、身体はどのように成長していくのでしょうか?
加地先生:人間の成長過程をあらわす図として「スキャモンの発育曲線」があります。これは子どもが20歳時点での発育を100として、身長や臓器の成長具合を4つの型に分類し、グラフで示しています。
4つの型とは以下のとおりに分類されています。
- 一般型/身長や体重、筋力、骨格の成長を示す。0歳のときと12歳前後に大きく変化する。
- 神経型/脳や脊髄、視覚器などの神経系や感覚器系を示す。12歳くらいまでに、ほぼ大人と変わらないレベルに達する。
- 生殖器/男性や女性の生殖器、乳房、咽頭などの成長を示す。思春期に急上昇。
- リンパ型/胸腺などのリンパ組織の成長を示す。
このなかで身体機能の発達として注目したいのが「一般型」「神経型」です。身長や体重、筋力、骨格の成長を示す「一般型」は、小中学生で大きく伸びていきます。この時期に運動をして身体に適切な負荷を与えることが大切です。とくに、骨を強くすることは重要です。骨密度は20歳ごろ最大に達し、その後は年齢を重ねるとともに横ばいか、ゆっくりと低下していきます。成長期にあまり運動をしないでいると、成人後も骨のもろさが残ってしまうのです。
公園での遊びが最強?さまざまな運動機能が高まる訳
── 具体的にどのような運動をしたらいいのでしょうか。
加地先生:過度の運動は身体に負荷がかかりすぎ、スポーツ障害を引き起こす可能性があります。身体の成長に合わせた運動に取り組むのがおすすめです。
幼児期は立つ、座る、歩く、走る、ものを握る、投げるなど基本的な動作を習得する時期です。公園などに行き、身体を自然と動かしたくなる環境を作るといいでしょう。ブランコでもジャングルジムでも好きな遊具で遊べば、幼児に適した運動ができます。たとえば砂場遊びは、基本的にしゃがんでいることが多いため、それほど大きな動きがともなっていないと感じるかもしれません。でも実は、子どもが習得するべき動作がたくさんあります。砂をつかむのも大切な運動。しゃがんでシャベルで砂をすくい、立ち上がり、別の場所に移動する際も、しゃがむ、立ち上がる、歩くなど、さまざまな動きが入っています。
ひとつの遊具だけで遊ぶと、決まった動作だけになりがちなので、さまざまな遊具がそろう公園で遊ばせることで、動作のバリエーションは増えます。その際、気をつけたいのは大人が強制しないこと。干渉しすぎると、嫌がって運動をやめてしまいます。安全を考慮しながら、子どもの好奇心の体現を見守りましょう。また、子どもが自然と遊びたくなる工夫が大切です。たとえば、走らせたいなら一緒に追いかけっこをするなど、遊びの中で自然とその動きができるようなゲームを取り入れるのがおすすめです。
小学生になると基本的な動作はある程度、習得されています。さらに発展させるのが望ましいです。たとえばものを投げる場合も、ただ投げるだけでなくドッジボールやバスケットボールなどを行うのがいいでしょう。こうしたスポーツは、相手に向けてボールを投げることになります。ねらったところにボールを届けるためには、重心のかけ方やひじや手首の使い方など、より複雑な身体の使い方が必要になります。中学生は身体の成長にともなって、肺が大きくなります。そこで持久的な動きを取り入れると発展しやすくなります。バスケットボールやサッカーなども小学生のときに比べてプレイ時間を長くすることで、持続時間が増えていきます。
猫背でいるとケガのリスクが高まることも
── 子どもの年齢や身体の発達状況により、適切な運動の内容は変わってくるのですね。
加地先生:それに加え、どの年齢の子にも言えるのが「正しい姿勢」をとることが大切です。猫背でいると、身体によけいな力が加わります。ひざなどに負担がかかり、慢性的なケガが起こりやすくなる可能性が高くなるのです。
──「正しい姿勢」とは具体的にどのようなものでしょうか?
加地先生:重力に対し、耳・肩・腰・膝・くるぶしが一直線になる状態をいいます。身体の部位が正しい位置にあり、長時間でも余計な力が入らず、疲れにくくなります。壁に背を向けて立ち、頭の後ろ、胸の後ろ、お尻、かかとを壁につけ、腰の後ろに手のひらがギリギリ入るくらいのすき間が空いているのが理想です。
ただ、子どもたちは自分の身体の位置をイメージするのが難しい場合があります。言葉で身体のパーツの位置を説明するよりも、動作のイメージを説明したほうがわかりやすいです。たとえば、「遠くを見るように立ってみよう」と伝えると、身体はまっすぐになりやすくなります。また「首元まであるジャージのファスナーを締めるイメージで、少しあごを引く感じにする」「頭のてっぺんを上から引っ張られるイメージで立つ」といった伝え方もイメージしやすいようです。姿勢を意識することで、身体への負担は軽減され、適切に鍛えることができます。
(※注1)日本臨床スポーツ医学会学術委員会整形外科部会:子供の運動をスポーツ医学の立場から考える~小・中学生の身体活動が運動器に与える効果~ (https://www.rinspo.jp/files/proposal.pdf.)P7より引用
PROFILE 加地真也先生
かじ・しんや。日本大学第二高等学校サッカー部、京都府立桂高等学校駅伝部、大阪桐蔭高等学校女子バスケットボール部・女子サッカー部スポーツパフォーマンスコーチ、一般社団法人日本スポーツ医学検定機構広告広報ディレクター、東京科学大学非常勤講師、東大阪大学柏原高校非常勤講師、GRIT NATION Zero ディレクター。理学療法士。
取材・文/齋田多恵 写真/PIXTA