アスリートでも会社員でも引退後に「することがない」と話す人もいますが、サッカー日本代表選手として活躍した北澤豪さんは引退後もサッカー協会の仕事、子どもたちの指導、畑作り、テレビの情報番組の出演など大忙し。いまも東へ西へと駆けぬける日々を聞きました。(全4回中の3回)

野菜作りの秘けつを知りたい「園芸番組に逆オファー」

── 現役引退後はサッカー解説者など、メディアでも幅広く活躍されています。2012年からは5年間、NHKの園芸番組『趣味の園芸 やさいの時間』にも出演され、野菜作りに打ち込む姿が印象的でした。もともと園芸には興味があったのですか?

 

北澤さん:父親が畑を借りて趣味で野菜を作っていたので、子どものころから園芸や農業には興味がありました。もともとは好き嫌いが多い子どもでしたが、家で作る野菜は新鮮ですごくおいしかった。おかげで、野菜嫌いを克服できましたね。大人になってからは、自分でも畑を借りて野菜を育てていたのですが、なかなかうまくいかなくて。収穫はできるけれど、おいしくないんですよね。一度、きちんと専門家から学んでみたいなと思っていたので、NHKに「ぜひ出演させてもらえませんか」と逆オファーをしていたんです。

 

北澤豪と長女
娘さんと

── 北澤さんからのアプローチだったのですね。

 

北澤さん:そうなんです。だから、僕にとって最高に楽しい時間で、毎回ノリノリでしたね。番組で先生に野菜作りのポイントを教わってからは、すごくおいしい野菜が収穫できるようになって感激しました。やっぱり専門家に教わることは大事だなと。園芸って、ちょっとスポーツに通じる部分があるんですよ。

 

── 園芸がスポーツ…ですか? 

 

北澤さん:どちらも野外で体を動かすし、体力がないとできません。それに、土とふれ合う感触や大地の匂いなど、グラウンドにいるときのような感覚があります。野菜を育てる過程は、子育てや選手の育成とも共通する部分が多いです。すぐには結果がでないけれど、手間と時間と愛情をかけることで着実に応えてくれる。成長した姿を見ると、達成感が得られます。実のなる部分に栄養を行きわたらせるために、いらない枝を切らなくてはいけないのですが、せっかく手塩にかけて育ててきたから、切りたくなくなって…それが悩ましいところですね。

「鳩との攻防戦も」簡単ではない野菜作り

── 育てた野菜への愛情を感じますね。農作業は体力作りにもなりそうです。

 

北澤さん:畑をおこすのはかなりの重労働ですごくいいトレーニングになるので、隣の田おこしも手伝ったりします。大きな畑なら機械でおこしたりもしますが、小さな畑は手作業ですから。豆を植えているときには鳩が必ず来るので、その動向を気にしながら作業をしなくてはいけません。

 

北澤豪
「東京と山梨、九州で畑を借りています」(北澤豪さん提供)

── まさかの鳩との攻防戦まで(笑)。ちなみに、どんな野菜を作っていらっしゃるのですか?

 

北澤さん:トマトやナスにピーマン、トウモロコシ、枝豆、大根、にんじん、玉ねぎやイチゴなど、季節ごとにいろいろな野菜や果物を育てています。なかでも難しいのは、スイカやかぼちゃですね。虫が来て自然に受粉できればいいのだけれど、うまくいかない場合も多いので、自分の手で人工授粉をするんです。ランニングコースの途中に畑があるので、朝、走ってから受粉をして、家に戻ります。スイカなんて10個ぐらい育てても成功するのは2個程度ですが、自分で作って食べるスイカのおいしいこと!

 

── 地方にも農園を借りていらっしゃるとか。

 

北澤さん:河口湖の近くと兵庫県にも農園を借りて、家族や友人らと一緒に野菜作りに励んでいますね。サッカースクールで合宿をやると、野菜嫌いの子どもがけっこう多いんです。聞けば、彼らの親も野菜が苦手な人が多いようです。子どもたちに栄養バランスの取れた食事をしてもらうには、まずは親の野菜嫌いをなんとかしないといけないなと思い、「一緒に畑づくりをしましょう」と呼びかけました。親が園芸の趣味を持つことで獲れた野菜が食卓に並び、子どもたちも野菜を食べる機会が増えて、食育につながります。

 

山梨にある合宿所では、子どもたちにも収穫を経験させて、作る喜びと食べる喜びを味わってもらうんです。畑で収穫したトマトをみんなで食べるのが恒例なのですが、野菜嫌いの子どもたちも「おいしい!」といって食べてくれますね。

 

── ご家族と一緒に畑づくりをされることもあるのですか?

 

北澤さん:もちろんです。子どもが小さいころから家族みんなで野菜作りを楽しんできました。うちの妻は健康志向で食に関心があるので、獲れた野菜を使って工夫しながらいろんな料理を作っていますね。たまに、研究途中なのかな?という「攻めた料理」もでてきますけど、せっかく作ってくれたものだから、黙っていただきます(笑)。

 

収穫量が多いので、ご近所さんに差し上げたり、友人たちを呼んでバーベキューをしたりすることも。近所のレストランに野菜をおすそわけをしたら、おいしいラタトゥイユになって戻ってきたこともありました(笑)。野菜作りをきっかけに、人間関係も広がっていいことずくめですね。わが家の3人の子どもたちも毎日新鮮でおいしい野菜を食べていたので、野菜嫌いにならず、元気に育ってくれました。いちばん上は、もう28歳になりますね。