健常者を基準にした社会を変える。その第一歩がサッカー日本代表「サムライブルー」のユニフォームの一元化だったと話すのは、元日本代表選手で現・日本障がい者サッカー連盟会長の北澤豪さん。障がい者も女子チームも同じユニフォーム。それだけで選手のモチベーションは上がり、責任感も芽生えたといいます。(全4回中の2回)

環境を整えるだけじゃダメ「経済的自立を目指す」

── 2016年から、日本障がい者サッカー連盟の会長として、障がい者サッカーの普及に取り組んでこられました。現在、どのようなカテゴリーがあるのでしょうか。

 

北澤さん:7つのカテゴリーの団体で構成されています。足や腕に切断障がいを持った人たちの「アンプティサッカー」、比較的軽度の脳性まひの人たちの「CPサッカー」、精神障がいがある人の「ソーシャルフットボール」、知的障がいがある人の「知的障がい者サッカー」、自立歩行が困難な重度の障がいがある人の「電動車椅子サッカー」、視覚障がいのある人の「ブラインドサッカー」、聴覚障がいのある人の「デフサッカー」です。

 

デフサッカーの日本代表メンバー
デフサッカーも大会で優勝!(C)JDFA

サッカーは、グラウンド内での立ち回りを自分自身で考えなくていけません。それゆえに成長や自立を促すことができるのですが、障がいを持つ人は他者と競争しない穏やかで優しい人が多かったり、障がいの特性によっては、他者の理解や判断することが苦手だったりします。そこで、まずは自立心をはぐくむために、監督がグラウンド内で選手のサポートとして誰かが付き添うことを禁止したんです。そうしたら、半分ぐらいの人がやめてしまった。「これで本当にやっていけるのか…」というところからのスタートでしたね。

 

でも、最初は不安そうにしていた選手たちも、プレーが進むとだんだん楽しそうな表情になって、練習が終わるころにはすごくイキイキとしているんです。みんな自分なりの自信をつかむことができて、表情が輝きだす。そうした変化を目の当たりにすると感激しますね。

 

北澤豪さん
ブラインドサッカーを体験する北澤豪さん

── 近年、パラリンピック競技でもあるブラインドサッカーが注目され、盛り上がりを見せるなど、障がい者サッカーの認知度もずいぶん上がったのではないですか?

 

北澤さん:ようやくここまでたどり着いたという感じですね。とはいえ、認知を高めてサッカー環境を整えるだけではダメだと思っているんです。障がい者サッカーの発展を目指す一方で、選手の経済的な自立もすごく大事。同時に考えていかなくてはいけません。彼らが生み出す価値を収益に変えて、それをサラリーとして支払うことができれば、選手も経済的に安定します。いま、企業のなかで障がい者の人と働く機会が増えており、対応を模索している企業も多いと思いますが、障がい者理解をするうえで、スポーツがいいツールになると考えているんです。

 

たとえば、障がい者スポーツの大会運営に関わったり、社員研修で障がい者の体験をしたりするプログラムを取り入れることで理解が深まりますし、どういう関わり方をすればいいか身をもってわかります。実際に企業から依頼を受けて教育プログラムを組み、ブラインドサッカーの選手を派遣する活動も行っているのですが、その収益が選手たちの給料にもなります。

健常者を頂点とするスポーツのあり方を変えたい

── 選手たちの雇用を生み出すことにつながっているのですね。

 

北澤さん:ブラインド用の研修プログラムだけでなく、デフ(聴覚障がい)用など、いろんな障がいを対象にしたプログラムを準備しています。いまはまだ団体数が7つですが、発達障がいや小人症など、ほかにも障がいの種類はさまざまです。小人症に関しては世界大会も開催されていますが、日本にはまだチームがなく、トーナメントも組めないため日本代表も存在しません。いろんな障がいに対応できるように、どうやって広げていくかを検討しているところですね。

 

たとえば、いま健常者としてプレーしている子がある日、突然、事故や病気などで、障がい者になる可能性だってあるわけです。そうしたときに、夢や目標を失ってしまうのではなく、「キミのできるサッカーもあるよ」と背中を押してあげられる。あるいは、サッカーを「する側」から「支える側」になって、違うカタチで夢を追えるように受け皿を作る。時間はかかるけれど、やり始めなければ何も変わりません。まだまだやることはいっぱいありますね。