物忘れが増えてきた85歳の母と実家の整理をめぐって大バトルを繰り広げたという鈴木蘭々さん。「捨てたくない」母と、「捨てないと住めない」と主張する娘。母への思いとは裏腹に、心にもないことを言ってしまい── 。(全4回中の4回)

人がよすぎる母は物忘れが多くなってきて

── 鈴木さんのブログには、お母さんとのエピソードがたびたび紹介されています。鈴木さんにとってお母さんは、どんな存在ですか?

 

鈴木さん:母は昔から支えてあげたくなる存在なんです。人がよすぎてダマされやすいタイプで、一生懸命なのにちょっと報われないところがあります(笑)。「でも、ダマすより、ダマされるほうがいいのよ」なんて、母はケセラセラで笑っていますけど…。私とは性格が違いますね。

 

誕生日を祝うケーキ
昨年のお母さまの誕生日を祝うケーキ

── そのお母さんが高齢になり、鈴木さんはどのように接していますか?

 

鈴木さん:まさにこの数年で、私が母を物理的にもサポートしなければならない現実がやってきました。物忘れが増え、同じことを聞いてきたり、物がないと言ったり…。できないことも増えてきて、悲しく感じた時期もありました。でも、同じような経験をしている人はたくさんいます。じつは親しい友人が親の介護を経験していて、だいぶ先をいっています。彼女の話を聞くだけで、自分はどうやって乗り越えていけばよいのかを学べました。精神的にも支えになり、実務的にどこに連絡して、こんな制度を利用すればいい、というところまで教えてもらいました。

 

── 介護経験者から話を聞けるのはいいですね。現在は鈴木さんがお母さんを主にサポートしているのですか?

 

鈴木さん:母の家の近くに住む兄夫婦と協力しながらやっています。母は、現在ひとりで住んでおり、私が通ってサポートしています。去年、今年と体調を崩して入院したりと大変でしたが、いまは安定しています。施設への入居も考えたのですが、母の場合は勝手に帰ってきそうなので(笑)、落ち着ける自宅で、デイサービスを上手く使いながら頑張っています。

「捨てる、捨てない」で親子ゲンカと自己嫌悪

── 物忘れが増えるにつれてお母さんとの間で認識の違いにとまどったり、困ったりすることはありませんか?

 

鈴木さん: 「老齢の親あるある」だと思いますが、とにかく家に物が多い!さらに、腰などを悪くしたことも相まって、整理整頓がおっくうになり、家が散らかっていました。先々を考え、娘としてはベッドを入れたかったので、「整理をしないとマズい!」と考えました。でも、母は「捨てたくない」と手放さない。最初は穏やかに…と気をつかっていても、だんだん言い方がお互いキツくなって親子ゲンカに発展。

 

あのときは、人生でこんなにイライラしたことってあったかなっていうくらい、頑固な母にイライラしました。すべてがいい方向にいくように進めたいのに、そうならないジレンマ。自分にも余裕がないので、言わなくてもいい余計なことまで言ってしまって、「どうしてもっと相手の立場になって上手くできないんだろう」と、帰りのバスの中で、ひどい自己嫌悪に陥ったりもしました。

 

アクセサリー
お母さまから譲り受けたアクセサリー

── それはつらいですね。結局、実家の整理はどうしたのですか?

 

鈴木さん:母と一緒に片づけるとケンカになるので(笑)、母が不在の間に片づけました。母が白内障の手術をする際、忘れないように私が目薬をさしてあげないといけないので、1か月ほど私の家で一緒に暮らしたことがあったんです。その間に「仕事に行ってきます」と言っては母の家に片づけにいく…というのをくり返して、最後は業者さんに手伝ってもらいました。

 

── 家の整理後に、ご自分の家に帰ったとき、お母さんの様子は?

 

鈴木さん:留守の間に自宅が片づけられていたことに対して、母はショックを受けていたようでした。ただ、以前から自分でも片づけなければいけないとわかっていましたし、片づけの必要性に関しては、物忘れが進む前からよく話をしていたんです。何よりもともと私たち親子はとても仲よしで絆も深く、母にとって何がいちばん大切であるかなどを私は熟知していました。だから、母が子どものころから大切にしている『小公女』の本や、趣味で集めていた食器類やアクセサリー類、ヒールが高くてもう履けないし履かない靴であっても、靴を集めるのも趣味だったので、あえて残しました。あと、ジョニー・デップ関連のグッズも(笑)。日ごろからの信頼関係がないと、これは難しいですね。

 

── ずいぶん配慮されたんですね。お母さまは、片づいた家に慣れましたか?

 

鈴木さん: じつに快適そうです(笑)。きれいになったので、いろんな人を家に呼びたがって、皆で鍋を囲んだり、お寿司パーティーをしたり、いまとなっては散らかっていたときを忘れて、「もともと、こんな感じだったわよ」と言っているくらいです(笑)。