49歳の晩婚で妊活を始めたのは55歳のとき。「子どもを授かっても正直、実感が沸かなかった」というクリス・ペプラーさんに突如「心が追いつく」瞬間が訪れます。(全3回中の1回)
「年相応」と言う生き方が苦手だった
── 2006年に22歳年下の女性と結婚し、2020年に63歳でパパになったクリスさん。以前、メディアでご自身のことを「先延ばし人生」だとおっしゃっていました。
クリス・ペプラーさん:もともと結婚したのが49歳で晩婚だったんです。結婚も子どもも、「いずれは」と思ってはいたのですが、もともと世間一般で常識とされている「年相応」や社会通念にとらわれて生きるのが苦手で、大好きな仕事や趣味の音楽など、やりたいことに没頭していたらこの年齢になっていたという感じでした。
── お子さんを持つことについてはどんなふうに?
クリス・ペプラーさん:僕も妻も、「結婚=子ども」というふうには考えていませんでした。2人ともやりたいことがたくさんあったし、子どもについては自然な流れに任せていました。
55歳くらいのときに、小さいお子さんを連れて歩いているパパを見て、「子どもがいる人生もいいなあ」とあらためて思い始めて。妻も40歳だったので、子どもを望むなら最後のチャンスかなと思い、夫婦で妊活を始めました。ただ、なかなか授かることができず、何度か専門医にアドバイスを受けながらチャレンジしては諦めて…というサイクルを経て、ようやく子どもを授かることができました。
── さぞかし、うれしかったでしょうね。
クリス・ペプラーさん:もちろんそうなのですが…正直、最初はあまり実感がわかなかったんです。女性の場合は、お腹の中に新しい命を宿し、子どもと一心同体の時期がありますよね。でも、男性の場合は、そうした過程を経ていないので、「父親になるんだ」と頭では理解しているものの、いわゆるエモーショナルな実感というのはまったくなかったんです。左脳で反応しているような感じというか。
でも、妻が妊娠6か月ぐらいのとき、検診に付き添ってエコーを見た瞬間、自分のなかの父性のスイッチがいっきにONになったんです。
── どういう状況だったのでしょう?
クリス・ペプラーさん:すごくちっちゃいのに、もう人のカタチをしていて、生命の神秘を感じて胸が熱くなりました。モニターに映った小さな心臓がバクバクバクバクと動いていて、一生懸命に生きようとしている。それを見た瞬間、心の中のダムが決壊して、感情が一気になだれ込み、診察室で号泣してしまったんです。心と頭が合致して、「ああ、こういうことなんだな」と妻の気持ちが初めてわかりました。あの感動は、きっと一生忘れないと思います。
──「心が追いついた」瞬間だったのですね。
クリス・ペプラーさん:男性もフェロモンや匂いだったり、何かのきっかけで「お父さんホルモン」が解除されるという話をよく聞いていたのですが、僕にとっては、まさにあの瞬間がそうでした。娘の小さい心臓が懸命に生きようとしているのを見て、「僕はこの子のことを一生愛するし、この子のためだったら何でもできる」と強く思いましたね。