本当に困っているのは、障がい者か健常者か

大平啓朗さん
2022年11月、フランスパリの学生たちと。各国からの学生と大学で交流している

── 視覚障がいがある方をサポートする場合、具体的にどうしたらいいのでしょうか?

 

大平さん:気づかれにくいポイントなのですが、まず何者かを名乗ってもらえるとありがたいです。たとえば駅で声をかけられたとして、目が見えないと相手が駅員の恰好をしているのか、通りすがりの人なのか、視覚的にはわからないわけです。

 

こちら側の受け答えも相手によって変わってきますよね。なので、「近所に住んでいる者なんですけど、何かお手伝いしましょうか?」といった形で自分が何者なのか伝えてくれるとうれしいですね。

 

突然引っ張る、触るのは絶対に危険です。皆さんが思っている以上に、全盲の人を相手にすると引っ張ったり触ったりしてくる人が多いです。たとえば、歩いている視覚障がい者が立ち止まったりすると、「道に迷ったのかな?」「困っているのかな?」と気を遣って、「こっちです」と急に引っ張ったりする人がいるんですけど、まずは、実際に困っているかどうか、聞いてほしいです。

 

実は、本当に困っているのは障がい者じゃなくて、障がい者とどう接していいかわからない健常者のほうということもあるんじゃないかと思っています。もちろん、駅のホームから落ちそうだとか身体的な危険がある場合には、とっさの声かけや体を触って助けることはぜひお願いします。

 

大平啓朗さん
全盲の旅カメラマンとして活動する大平啓朗さん

── 困っている方がいたら助ける、というスタンスは相手が健常者でも同じですよね。

 

大平さん:たとえば、仕事が終わって帰宅中のサラリーマンが突然、白杖を持った視覚障がい者に声をかけられて、「すみません、このあたりにコンビニはありますか?」と聞かれたとします。それが帰り道や近くにあるコンビニなら一緒に行くとか、案内するということになりますよね。コンビニに無事到着し、「ありがとうございました。素敵な案内でした!」と言われたら、そのサラリーマンは家に着いてから「俺、今日いいことしたな」と心が温かくなるのではないでしょうか。それが子どもであれば親に「今日、めっちゃいいことした!目が見えない人に道案内した!」と報告して、家族みんなハッピーな気持ちになりませんか?

 

人がお願いすること、されることは社会の中でハッピーを生み出すことだと思うんです。もちろん度が過ぎたお願いはダメですし、タイミングは重要ですけど、誰かに頼られて何かをするというのは、お互いの気持ちがハッピーになると思うんですよね。日本人は優しいのにそれを秘めているし、どう接していいかわからないだけというのは、もったいないです。一日一善ならぬ、『一日一お願い』、これで世界はハッピー!

 

PROFILE 大平啓朗さん

おおひら・ひろあき。1979年北海道生まれ。24歳で失明後、約1年かけて47都道府県ひとり旅を制覇。全盲の旅カメラマンとして活躍し、訪れた海外は20ヶ国を超える。2021年、自伝的フォトエッセイ『全盲ハッピーマン』を出版。2023年に全盲女性と結婚し、「世界100都市ハネムーン」を実践中。

取材・文/富田夏子 写真提供/大平啓朗