子育てにおいて、親も子どもも経験を積み重ねることは大切だけれど、「子どものために」と特別な体験を求める必要はないことを知った。そう話すのは、元TBSアナウンサーの青木裕子さん。日々感じる子育ての難しさや不思議さについて、心の内を聞かせてくれました。(全3回中の3回)

「子育て優先」とすることに迷いはなかった

── TBSアナウンサーとして、様々な番組で活躍された青木さん。当時は相当忙しかったと思います。

 

青木さん:入社してからはすごいスピード感で、あっという間に大きな世界に巻き込まれてしまったような感覚でした。意識の低いまま、自分のコントロール外で物事が進んでいき、一気に1万歩分を進んだような経験をして、そこにぽつんといる感覚でしたね。30代前後で自分の生き方や働き方を見直すことがあり、自分の生活をもっと大切にした働き方をしたい気持ちになりました。

 

幼少期の青木裕子さん
幼少期の青木裕子さん「かわいい妹と一緒に」

── 2012年に退社し、結婚。翌年に第一子を出産。猛烈に働いたアナウンサー時代から、生活が一変しました。

 

青木さん:フリーになってからは、がむしゃらにやるよりも、いま自分は何ができるか、何をしたいかを探りながら、一つひとつの仕事にじっくり向き合いました。私はあまり器用なほうではありません。なので、子育てと仕事の両立においては子育てを優先する、とバランスの取り方を決めたんです。子どもが学校から帰ってくるまでの間に仕事ができることが理想で、夕方や夜の仕事については要相談にしています。

 

── 子育て第一と決めてから、迷いや後悔はないですか?

 

青木さん:まったくありません。猛烈に働いた時期を経験して、やれること、やりたいことをやりきった気持ちがあるのが大きいかもしれませんね。いまは子育てに猛烈に取り組みたいフェーズです。

 

青木裕子さん

「子どものため」と特別な体験を求める必要はない

── 小5と小3の兄弟を育てていますが、季節の行事から富士登山まで、さまざまな体験を親子でしていますね。

 

青木さん:子どもを育てるうえで「体験が大切」とわかっていても、長男のときは何をどうすればよいのか、わからなくて迷ったことがあります。毎日、子育てするだけでも大変なのにさらに体験まで…?教育上ためになることをすべて網羅しなくてはいけないような気がして、気持ちばかり焦ったり、よその家庭と比べて、できなかった私はダメな親なのかと思ったり…。

 

でも、特別な体験でなくても、親子一緒に楽しめることならいいのかなと思うようになりました。時間とお金を使って遠くに行かなくても、週末に家で一緒に料理をして、心に残るできごとになるなら、それが一番じゃないかなと。「特別なことをしないといけない」と考えていたころは苦しかったのですが、長男の小学校受験のときに、体験は何をするかより、そこでどんなふうに取り組むかのほうが大切だとわかり、心がラクになりました。

 

── 同感です。ついついまわりと比べて「あそこに行かなきゃ」「これをしなきゃ」と、頑張りすぎるとしんどくなります。

 

青木さん:何より、私は自分(親)が楽しめることを選ぶようにしました。それと、ムリしすぎないことですね。キャンプと言っても、必ずテントを立てなくていいと思います。グランピングでバーベキューだけでも、ムリしてアウトドアをせずホテルに泊まるのでも。

 

── キャンプ以外にもアウトドアに積極的にチャレンジする様子が、著書に描かれていますね。一家で富士登山のきっかけは?

 

青木さん:小学校受験対策で塾からすすめられて登山に挑戦し、最初は高尾山に登りました。とくに次男が山登りにハマり、少しずつ練習して富士山へ登ることに。私、それまで登山なんてしたことなかったんです。でも、子どもがいるから、初めてチャレンジできて、一緒に楽しむのは私にとってもいい経験になっています。登山は夫も一緒に挑戦しました。

 

また、うちの子たちは外で体を動かすのが好きなので、家で行う季節行事にはあまり興味がないのかと思っていましたが、毎年、お月見団子作りや柏餅作りも楽しそうにやっています。その時期になると「今年もやるんでしょ」と、兄弟でお団子やお餅を作っていますね。実際に幅広いことに挑戦してみると、これも楽しめるんだ、という発見がありますね。

 

青木裕子さんの次男
親子で毎年作る柏餅

── 青木さん自身も、ご両親といろいろ経験しながら育ってきたのですか?

 

青木さん:私自身はアウトドアに熱心ではない家庭で育ったので、子どもが生まれてからは、「私にどんなことができるか」から始まりました。最初はムリをして「自分の中で楽しいかどうかわからないけど、みんなが教育にいいと言うからやろう」と、取り組んだことは何度もありました。でも「あなたのためにやってあげるんだから」の気持ちで臨むと、子どもから思ったような反応が返ってこないとき、疲れがどっと出てしまってお互いにとってよくないと感じました。

 

── 「子どものために」で疲れてしまう…皆さん経験あるでしょう。「何かを学んでほしい」「成長してほしい」という親の欲も、プレッシャーになりますよね。

 

青木さん:子どもたちも押しつけられてもイヤでしょうから、自分が楽しいと思えることを一緒にやるよう切り替えました。子どもがあまりのらなくても、「私がやりたかったから、つきあってくれてありがとう」くらいの気持ちでいられたらいいかな、と思います。