「理想の母になるため頑張りすぎる女性ほど苦しみは深いです」と語るのは、20年以上虐待被害に遭った子どもや若者を支援してきた「ゆずりは」所長の高橋亜美さん。子どもへの感情的な言動を抑えるためにできることをお聞きしました。(全3回中の3回)

子どもに2時間かけたら自分に1時間半くらい注いでほしい

高橋亜美さん
大好きなお酒と、おいしい料理でエネルギーチャージをする高橋さん

── 子どもに虐待をしてしまう親は、どんな心理状態だと考えられるでしょうか?

 

高橋さん:私たち「ゆずりは」では、親の虐待から逃げてきた10代以降の人たちの相談に応じていますが、子どもへの暴言や暴力が止められないお母さんたちのプログラムも実施しています。彼女たちが虐待をしてしまう背景には、複雑な要因が絡み合っていますが、「お母さんを一生懸命やりすぎている人」が多い印象です。「ちゃんとした母親であらねば」と苦しんでいる方が多い。

 

「子どもも大事だけれど、まずは自分に少しでも優しくしてあげて」と思います。たとえば、育児に必死になっているお母さんには、「子どものために2時間を使うのなら、1時間、なんなら1時間半、なんならもっと!自分のために注いでいいと思うよ」と伝えたり。なかには、「自分がホッとできる時間が何なのかもわからない」「趣味なんてない」という方も多い。そういったときは、「きっとあるよ」と声をかけることもあります。こんなふうに、誰かと話すことで思い出すこともあると思うんです。「自分はこんなことが好きだったなあ」って。

 

子どもに熱心になっているお母さんたちって、孤立した状態にある人が少なくない。「自分はさておき」と後回しになったまま自分をケアできていない方が多い気がします。でも、もし、自分に「よしよし」って優しくできたら、不思議と子どもにも「よしよし」って優しくなれると思うんです。

カッとなったらコンビニのお酒でひと息ついて

── 私もそうなのですが、子どもを怒鳴ってしまった後で、「言いすぎた…」と後悔することもあると思います。そんな失敗を防ぐためにできることはありますか?

 

高橋さん:感情的な言葉をぶつけそうになったときは、一度離れたほうがいいです。ほどよく距離をとることはすごく大事ですよね。暴言暴力になる前に、一度その場から逃げる。私も家を飛び出して、コンビニでお酒を1缶買って飲んで、ひと息つきます。そうすると、「余計なことを言わなくてよかった」と思えるんです。

 

親としてお子さんに言いたいことはあるとは思います。ただ、「あなたのために言っている」と伝えたくても、受け取る子どもには「自分のために言ってくれている」と純粋に思えないことも多いんですよね。「そんなこと頼んでない」みたいに(笑)。

 

── そうですよね(苦笑)。一度相手から離れて、ひと息つくことは大事なんですね。

 

高橋さん:あとは、何か子育てで失敗をすると、自分を責めてしまう人が多いように感じます。「いい母でいなければ」と頑張っている人ほど悩んでしまうんです。お母さんたちには、十分頑張っている自分をいたわってあげてほしいですね。たとえば、子どもに料理を作ってもらったり、宅配や外食もアリという日をつくったり。お母さんが食べながらお酒を楽しんで、という時間がもっとあってもいいと思います。