来年で30周年を迎える人気ブランド「Candy Stripper(キャンディストリッパー)」。このブランドを若干19歳で立ち上げたのが、デザイナーの板橋よしえさんです。商品企画からスタッフの指導までこなす多忙な板橋さんのストレス解消法は「育児」なのだそう。(全2回中の2回)

人前に出るのが苦手。スタッフとのコミュニケーションに苦労も

板橋よしえさん
10周年記念のファッションショーにてモデルにスタイリング中の板橋さん

── 板橋さんは若くしてブランドを立ち上げましたが、令和の若い起業家のように、ご自分が前に出ることはあまりない気がします。

 

板橋さん:特に意図はしていなかったのですが、自分の話をするのは苦手で。人前に出たりすることも、すごく苦手なんです。

 

── 板橋さんご本人の雰囲気と、作品のパワーにはギャップがあるような(笑)。

 

板橋さん:服作りの原動力は、一番最初は「こういうものが着たい!」「こういうものがあったらいいのに…!」という想いから始まりました。その時々で、自分の中にミューズとなるような方々がいて、「似合うだろうな、着せてみたいな」と想像しながらデザインをしています。「Candy Strippper」のお洋服を身に纏うことで、少しでも元気な気持ちになれたり、いつもよりちょっぴり強い自分になれたり。誰かの毎日に少しでも寄り添うことができるようなお洋服を作り続けることが夢です。

 

── ブランドのデザイナーとしてだけでなく、全体をみる役割を担っていらっしゃるそうですね。

 

板橋さん:そうですね。私はデザイナーではあるのですが、ブランド全体をディレクションしているという表現が一番わかりやすいかもしれないです。企画、パタンナー、生産、営業、EC、プレスなど幅広い部署があるのですが、その一つひとつのチームに対して、ブランドのイメージや方向性に関わることのすべてに目を通しています。誰かが思い悩んでいるときには、同じ立場に立ち、具体的なアドバイスをして、円滑に進むように働きかけるようにしています。スタッフのみんなには、自分が今考えていることや方向性を話す機会を常々設けていて。みんなが気持ちをひとつにして進むうえで、大事なことはなるべく自分自身の言葉で伝えるようにしていますね。

 

板橋よしえさん
10周年記念のエキシビジョンにて。今まで製作したオリジナルファブリックを使用しお菓子の家を製作

──「Candy Stripper」の服は、芸人や女優、ミュージシャンなど、男女問わず幅広い層に支持されています。なぜだと思いますか? 

 

板橋さん:なぜなのでしょう…逆に私が教えていただきたいほどです(笑)。ただ「女性だけが身につけるもの」とか「若い女の子だけが着るもの」といったルールを意識して作ったことはなくて。むしろ、いろんな人が着て楽しめるような服でありたいんです。たとえば、同じ服でも、着る方の雰囲気やコーディネートによって、全然違った服のように見えてくる。ビジュアルやSNSなどで、いろいろな側面から服の魅力が伝わるよう、提案をし続けていきたいですね。

 

── ブランドコンセプトとして「NO RULE, NO GENRE, NO AGE」を掲げていますね。

 

板橋さん:年齢を気にして、年相応の格好をするのではなく、好きなものは好き、と自分を貫いてほしいと思っています。こうあるべき、という固定観念から解き放たれたファッションを提案し続けていきたいです。

 

── ブランドは今年で30周年を迎えます。移り変わりが激しいファッション界で存在感を放ち続けるために大事にしていることは何でしょうか?

 

板橋さん:ずっと大事にしてきたのは、感謝の気持ちと、人とのご縁です。私がここまで「Candy Stripper」を長く続けてこられたのも、まわりのスタッフをはじめ、たくさんの人の支えがあってこそ。まさかこんなに長く続けることができるなんて、立ち上げ当初には想像できませんでした。頭の中で思い描いていた世界がいろいろな人の力を借りて洋服という形になる。一緒になって夢中になって、私のイメージする世界を共に作ってくれる大切な仲間たちとの切磋琢磨しながらのもの作りは、このうえない喜びです。

 

私が「Candy Stripper」を続けるうえで、頑張れるモチベーションになっているひとつに、同い歳のaikoちゃんの存在があります。ずっと歌手でいることが夢なのだと、いつもひたむきに前を向き、まっすぐに進み続けるその姿に、言葉の数々に、勇気をもらっています。年齢を重ねても、自分らしさを失うことなく、自分の好きなことやものに対してブレない姿勢や、新しいことを常にキャッチして柔軟に楽しみ、大変なことや思い通りにいかない苦難にぶつかったとしても、そんな状況さえも楽しもうと、夢をあきらめずに突き進む、その姿に励まされます。

 

どこまでもストイックに、十分頑張っているのに、もっと頑張らなきゃと言うaikoちゃんを見ていると、私の努力なんてまだまだだと思いますし、もっともっと頑張らなきゃ!と奮い立ちます。日々いろんなことがあっても、頑張っている友達がいるから、私も頑張れている。本当に大切な存在です。

ブランドスタートから30周年「娘との時間が何よりの癒やし」

板橋よしえさん、娘さん、aikoさん
娘さんとaikoさんのライブに行ったときの一枚

── 女の子のお母さんでもありますが、仕事と育児はどのように両立していますか?

 

板橋さん:産後、以前よりも頭の回転がだいぶ遅く感じてしまい、悩みました。娘にかかりきりで、インプットが全然できなくなってしまい、デザイン以外のことでも提案が前のように瞬時にポンポン思い浮かばなくなって。育児と仕事を両立する、自分なりのバランスを掴むまでは少し時間がかかりました。

 

元々、仕事の時間とプライベートの時間を分けて考えるタイプではなく、日々の生活のすべてが「Candy Stripper」と繋がっているのですが、そのなかでも、会社にいる時間、移動時間、自宅にいる時間の中で、どれだけムダがなくインプットとアウトプットができるかを重視するようになりました。

 

帰宅したら、子どもとの時間がメインになり、宿題を見たり、学校の準備をしたり。ご飯を食べさせ、お風呂に入れたら、あっという間に寝かせる時間になってしまいます。映画もゆっくり観られないし、自分だけの時間がほぼ持てなくなりました。それでも、寝る前に絵本を読み聞かせ、娘とコミュニケーションをとるふたりだけのひとときが、なにより幸せな時間です。

 

30代までは睡眠が毎日3時間でも平気だったのですが、今はもう寝ないと体力がついていかないので、睡眠時間は大事にしています。

 

── 時間管理にシビアになったのですね。

 

板橋さん:そうですね。日々いろいろな部署からの確認や相談ごとがあり、その一つひとつを見極め、決断し動かしていく力はすごく早くなりました。今までは、一つひとつのことに対して時間を使いすぎていたような気がします。今は、次々に判断していかなければどんどん仕事が溜まってしまうし、自分のところで止めてしまうと、みんなの仕事も止まってしまうので、円滑に進められるように、常に優先順位を考えながら動いています。

 

大事にしているのは、自分がどうしたいのか、という気持ちに常に向き合い続けることと、多面的に想像すること。

 

板橋よしえさんの娘さん
娘さんがブランドの撮影に同行することも

── お子さんと過ごす時間は、どのようにしていますか?

 

板橋さん:娘が話を聞いてほしいというときは、ちゃんと目を見て話を聞いてあげたいと思っています。いつもそうできるかというと難しいこともありますが、極力、何かしているときは手を止め、その時々の娘の気持ちを理解できる存在でありたいです。

 

── ご自分の時間がかなり少ないのではないかと思いますが、ストレスはどのように発散されていますか?

 

板橋さん:娘と過ごす時間自体がストレス発散になっていますね。日々の仕事の時間は大人と過ごしているわけですが、そんな1日の終わりに娘と話していると、その言葉を聞いているだけで「なんて純粋でかわいいの!」って感動するんです。まっすぐで子どもらしい言葉が聞けたときに、心が洗われるというか、「そうだよね」って癒やされますね。