19歳で立ち上げたブランドが雑誌に注目され売り切れ続出

── 19歳でブランドを立ち上げて、20歳で起業されています。

 

板橋さん:当時は頭のなかには失敗するビジョンがなくて。まさに若かったからできたことだと思います。専門学生時代、友達とふたりで「Candy Stripper」を立ち上げ、デビューコレクションも行いました。

 

たまたま『CUTiE』(※)のスタイリストさんとご縁があり、ブランドのお洋服とビジュアルイメージを見せたところ、とても興味を持ってくれて。すぐさま『CUTiE』のニュースページで取り上げてくれました。掲載直後から、ありがたいことに問い合わせの電話が殺到しました。

(※)『CUTiE』(宝島社)90年代に人気を博したストリート系ファッション雑誌。2015年休刊。

 

── ファッションに敏感な人たちにブランドが認知されたのですね。

 

板橋さん:ただ、すべて自分たちで手作りした一点ものだったので、量産予定がなく。そこに「卸(おろし)をお願いしたい」といったお問い合わせを毎日のようにいただいていました。でも、卸についての知識も、量産体制も整っておらず、せっかくオーダーをいただいても、その要望に全く答えられない状態でした。

 

ほしいと思ってくださっている方の思いになんとか答えたい気持ちで、仲間を増員し、手作りの商品に加え、一部の商品を工場生産にのせて、量産をすることにしました。

 

── そんな経緯があったのですね。

 

板橋さん:それから、「Candy Stripper」のお洋服をセレクトショップに置いてもらおうと、学校帰りに原宿と渋谷のセレクトショップを1軒1軒訪ね歩き、自分たちの服を置いてもらえるお店を探しました。そんななか、ご縁があって渋谷の「Calico(キャリコ)」(2002年閉店)というセレクトショップに置かせてもらえることになりました。

 

『CUTiE』や『Zipper』(※)で特集ページを作っていただいたり、『CUTiE』で見開きの連載ページが始まったりしたほか、テレビや新聞などメディアの取材依頼や、雑誌やテレビでのリース依頼もどんどん入るようになりました。

(※)『Zipper』(祥伝社)原宿系ファッションをメインとしていた雑誌。2017年休刊後、2022年復刊。

 

当初は「Candy Stripper」は趣味で続けるつもりで、生計を立てようとは考えていなかったため、私も友達もすでに就職していました。でも、こんなに求められているのなら、人生は一度きりだし、失敗してもまだまだやり直せると思い、「Candy Stripper」一本で頑張ってみようと決意しました。

 

── 起業資金はどのように調達したのですか。

 

板橋さん:まずは私たちに出資してくれる人を探そうと思い、いろいろな方を訪ねて相談しました。あるときに紹介されて知り合ったのが、今もビジネスパートナーとしてご一緒している方でした。「Candy Stripper」のコンセプトをはじめ、ブランドへの想いや夢を熱くプレゼンしたところ、自分の若いころを思い出したよ、と2000万円を出資してもらえることになりました。

 

── すごい金額ですね!

 

板橋さん:今はもっとリーズナブルに起業できますが、当時は会社を立ち上げるには1000万円必要で。残りの1000万円を運営費にしました。それが20歳のときです。

キノコ柄を手作業で転写したワンピースがきっかけに

「キャンディストリッパー」立ち上げ初期に作成したワンピース
ブランド初期に作成したワンピース。オリジナルのキノコモチーフを1点1点転写プリントした

── 原宿に店舗がオープンしたのは1999年だそうですね。真っ赤な内装が印象的です。

 

板橋さん:初の実店舗と思われがちですが、実は店舗としては3店舗目なんです。最初のお店は京都の「河原町ビブレ」の踊り場への出店でした。実は当時はテナントに出店するのがイヤで…生意気にも、いいお話をいただいても、お断りをしていました。普通にブランドやショップと横並びに展開されるのを懸念しており、まだほかの人がやっていないことに強いこだわりを持っていました。そこに、フロアとフロアの間の踊り場にお店を出すのならばどうだろう?と提案いただき、踊り場なら、秘密基地みたいでおもしろいんじゃないかって。

 

── 実店舗を構えることで、何か変化はありましたか?

 

板橋さん:まだネットがない時代だったので、「雑誌にはたくさん載っているけれど、「どこに行ったら買えるのかわからない」「ほしいのに買えない」という声をよくいただいていたので、そういう点で店舗を構えてよかったなと思いました。たまたまビルを歩いていて気になってお店に入ったという方もいて、反響が大きかったです。

 

── 90年代はファッション誌最盛期で、若者のパワーみたいものもありましたよね。

 

板橋さん:当時は、雑誌に載っているマップを見ながら一つひとつ欲しいものを捜し歩く熱量の高い方も多かったですよね。今はサイト上で商品を検索して、簡単にネットで買えますし、そういった文化は影を潜めてしまったように感じます。

 

── 印象的だった作品はありますか?

 

板橋さん:やはり最初に作ったキノコ柄のワンピースです。キノコ柄を一つひとつ、転写で柄にしていく作業がとてつもなく大変だったので、印象に残っています。最初の店舗のカーテンも、アイロンプリントで1個ずつキノコの柄を転写して作って。DIYの精神を大事に、一つひとつ、もの作りをしていました。

 

PROFILE 板橋よしえさん

いたばし・よしえ。1975年生まれ。埼玉県出身。19歳でファッションブランド『CandyStripper(キャンディストリッパー)』を立ち上げ、企業コラボやミュージシャンとのコラボ商品、衣装、スタイリングなども数多く手がける。

 

取材・文/池守りぜね 写真提供/板橋よしえ